喫茶“chouchou”
家から徒歩10分ほどの距離に、内海優花のよく訪れる店がある。
それが喫茶“chouchou”。
フランス語で“お気に入りの”を意味する可愛らしい名前の喫茶店は、文字通り、優花お気に入りのお店だ。
週に一度、日曜日の15時頃から数時間の滞在が、初めて店に訪れてからのルーティンとなっている。
「こんにちは!」
「内海さん。こんにちは、お待ちしていましたよ」
いつものようにシュシュに向かえば、いつものように、店長が店先で掃き掃除をしていた。
優花を認めるとにっこりと笑い、ホウキを片手に店内へ促す。
白い外壁には筆記体でシンプルに“chouchou”と店名が書かれており、壁からぶら下がるランプがおしゃれな雰囲気をかもしだしている。
しかし店内が伺えないため、おしゃれながらも、少しだけ店へ入るのを躊躇ってしまいそうにもなる。
優花が慣れたように店に入ると、予想通りというか、店内には緩やかなクラシックが流れているだけで、客は誰もいなかった。
「今日もまた貸切ですね!」
「内海さん、意地の悪いことを言わないでくださいよ」
少し遅れて店長が店に戻り、苦笑を浮かべている。
白いシャツに赤いタイ、黒いパンツと、腰から太ももまでのミドルエプロン。
エプロンには白い文字で“chouchou”と書かれており、シャツの襟やタイの隅っこにも同じ文字が書かれている。
店長がひとりで切り盛りするシュシュの、制服になっているらしい。
店長──瀬戸一樹は茶色がかった黒い髪と、ダークブラウンの瞳を持つイケメンだ。
もうすっかり通い慣れたシュシュの店長と優花は、互いに親しく苗字で呼び合う仲である。
指定席になりつつあるカウンターの席に腰をかけると、瀬戸は慣れたようにキッチンに戻り、ティーカップの用意を始める。
「今日はどの茶葉にします?」
「うーん、今日はミルクティーの気分です!」
「じゃあ、イングリッシュブレックファストにしましょうか」
優花の言葉に、瀬戸はにっこりと笑い戸棚に手を伸ばす。
キッチンの戸棚には数え切れないほどの缶が並んでおり、それらに入っているのは、すべて紅茶の茶葉である。
ここ、シュシュでは、それだけ紅茶に力を入れているのだ。
喫茶店でコーヒーをメインにする店は多い。
しかし、紅茶をメインにする店は、実はこの近くには一店もないのだ。
確かにどの店でも紅茶は取り扱っているものの、ストレートティーにガムシロップやコーヒーミルクを入れる程度の簡易なものがほとんど。
シュシュでは店長の瀬戸がこだわりを持っているため、その場で、選んだ茶葉に適切な紅茶を淹れてくれる。
そして優花は、コーヒーよりも紅茶の方が好きな、所謂紅茶党であった。
イングリッシュブレックファストは、風味や香りの強いブレンドティーだ。
砂糖やミルクに合うようにブレンドされた、英国では最も一般的なものとされている。
英国では朝食とともに楽しまれることが多いが、もちろん紅茶単体でも楽しめるものだ。
他にもシュシュではミルクティーに合わせやすいアッサム、ウバ、チャイ、ルフナなどの他にも、キャラメル、バニラ、メープルなどのフレーバーティーまで用意されている。
無難なところから、少し珍しいものまで。
紅茶の専門店といっても差支えのないほど、瀬戸は紅茶に並々ならぬ情熱を注いでいた。
「うーん……」
「どうしました?」
優花は慣れた手つきで紅茶を準備する瀬戸を眺め、頬杖をついて小さくうなる。
それに気づいたのだろう、瀬戸は不思議そうに首を傾げた。
「いや、ここのお店って、紅茶は美味しいし、軽食やスイーツも美味しいし……何より瀬戸さんがイケメンなのに!なんでいっつも人がいないんです!?」
優花が店に訪れる日も、時間も、大抵決まっている。
もう随分長い間この店に通っているけれど、優花はいつだって、自分以外のお客様というのを見たことがなかった。
瀬戸は苦笑を浮かべ、それでも手を止めることは無い。
「そう言ってもらえるのは有難いですけど……。別に、人気店にしたいとか、そういう熱意は特にないので」
「えー、もったいない……」
「なにより、内海さんだけだと、ゆっくりお話が出来ますしね。この時間、いつも楽しみにしてるんですよ?」
ぱちん、とウインクをする瀬戸。
瀬戸の年齢を細かく聞いたことはないが、だいたい20代半ばといったところだろう。
イケメンは何をしても似合うというか、絵になるものだ。
「やだ胸がドキドキしちゃう」
「惚れちゃいました?」
「もうとっくに惚れてますよー、瀬戸さんの紅茶に!」
優花の言葉に、瀬戸は大げさに肩を落とした。
手厳しいなぁ、とぼやきながらも、その表情はどこか楽しそうだ。
優花はすっかりこの店の常連で、瀬戸とは軽口すら叩けるくらいなのだ。
美味しい紅茶と、イケメン店員との楽しい会話。
仕事のストレスを忘れて癒されるのに、この店はぴったりなのである。
「お待たせいたしました」
シュシュでは茶葉だけではなく、紅茶を淹れるカップにもこだわっている。
英国王室御用達の、有名ブランドのティーカップとソーサー。
スプーンだって、お揃いのものだ。
「わー、いい匂い」
優花は嬉しそうにカップを手に取ると、香りを楽しみ、ゆっくりとカップに口をつけた。
こく、と一口。
途端に広がる、紅茶の香りとミルクの風味。
ふわりと砂糖の甘さも感じられ、ついつい優花の口元は緩んでしまう。
瀬戸は使用した器具を片付けながら、優花の表情に満足そうな笑みを浮かべていた。
「美味しい……!やっぱり、瀬戸さんが淹れてくれる紅茶が一番好きだなぁ」
「おや、嬉しいですね」
「家でも淹れるんですけど、同じ茶葉のはずなのに味が違うっていうか……。もー、瀬戸さんの淹れる紅茶以外、飲めなくなっちゃいそう!」
ニコニコと笑いながら、冗談交じりに優花が言う。
瀬戸は薄ら目を細めると、小さく口元に笑みを浮かべた。
「それはそれは、光栄です。いつだって内海さんの為に美味しく淹れて差し上げますよ」
「ふっふー、お店唯一の常連の特権ですね!」
「そうですねえ、内海さんにだけですよ」
やだ、イケメンの特別もらっちゃった!
頬に手を添えて嬉しそうに笑う優花に、瀬戸もまた、クスクスと楽しげな笑みを浮かべた。
「そういえば、最近新しいお箸買ったんですよー。一目惚れしちゃって!」
「一目惚れですか、それはよかったですね。でも、ペアのお箸なんて買って、どうするんです?内海さん一人暮らしなのに」
瀬戸の言葉に、優花はさっと目をそらす。
確かに、つい一目惚れして買ってしまったお箸はペアのもので、使うのは一膳だけだ。
もう一膳は引き出しの中にしまいっぱなしで、今のところ出番はない。
「しょうがないじゃないですかー。同じデザイン、売ってなかったんですもん!いつか使うかもしれないし!」
唇をとがらせる優花に、瀬戸はふふっと笑みを零す。
優花がここ何年も彼氏がおらず、一人暮らししていることなど、瀬戸にはとっくに話していた。
「じゃあ、僕に譲ってくれません?内海さんの一目惚れしたお箸って、興味があるので」
「え、ホントですか!このままだと日の目を見ることがなさそうで。……本当にもらってくれます?」
「もちろん。大事に使わせてもらいますよ」
瀬戸の言葉に、優花はよかったー、と胸を撫で下ろす。
一人暮らしの自宅に遊びに来る友だちもいないし、正直、メンズ物のお箸があっても困っていたのだ。
「次来る時に持ってきますね!」
そう笑いかけてから、ふと気がつく。
──あれ、私、一目惚れしたお箸がペアのだって、言ったっけ?
「楽しみにしてます。あ、そうそう、この間フルーツタルトが食べたいって言ってましたよね?作ったので、ぜひ味見して欲しくって」
瀬戸がスイーツを優花に提供することは、実は少なくない。
店のメニューに加えるか検討するためと優花は聞いているものの、いつも美味しいスイーツは、メニューに加えられる気配はなかった。
ずっと食べたかったフルーツタルトの話題に、先程の疑問などどこかへ吹き飛んでしまう。
「でも、この前のミルフィーユは?美味しかったのにー……」
「とりあえず、いくつか候補をあげて、内海さんに選んでもらいたくて……。アイデア自体は浮かぶんですけど、それほど種類も作れませんからね」
確かに、シュシュは瀬戸一人で切り盛りしている店だ。
いくらお客がいないからといって、あまりメニューを豊富にしても大変なのだろう。
そんなものかな?と首を傾げるうちに、優花の前に美味しそうなフルーツタルトが置かれる。
キラキラと輝く宝石のようで、優花は促されるまま口に含んだ。
「美味しいー!」
「それはよかった。実は、特別な材料が入っているんですけど、わかります?」
「えっ、なんだろう……?」
瀬戸の問いに、優花は不思議そうにタルトを見つめる。
お皿を持ち上げて四方八方から眺め、二度口に運ぶものの、全くわからなかった。
「降参!何が入ってるんです?」
「それは…………」
「それは?」
ごくりと唾液を飲み込み、じーっと瀬戸を見つめる優花。
瀬戸は途端に意地悪そうな笑みを浮かべ、口元に人差し指を当て、ぱちんとウインクをした。
「秘密です」
「えーっ!散々勿体ぶっておいて!」
「企業秘密ですよー、そう簡単には教えられません」
優花は唇をとがらせながら、フルーツタルトを再び頬張る。
もぐもぐと咀嚼しながら、ふと、あることに気がついた。
「あれ、瀬戸さん、また怪我したんですか?前もしてたのに……」
イケメンだから似合う口元に当てた人差し指には、絆創膏が貼られていた。
確か、先週は親指だったような……。
「ええ、まあ、ちょっと」
「料理上手なのに不器用なんです?……なんかさらにイケメン感が増しました瀬戸さんの馬鹿」
「いきなり罵倒ですか?ひどいですねぇ」
そういいつつも苦笑が浮かんでおり、瀬戸も否定自体はしない。
優花がしょっちゅうイケメンだと言い続けているからか、あるいは、長年の経験で自分の容姿を理解しているのか。
判断はつかないが、見れない顔ではないことを知っているのだろう。
結局、瀬戸の言う特別な材料の正体はわからず、最後まで食べきってしまった。
お喋りをしながらのんびりと食べ、紅茶のお代わりまでしてしまったからか、壁にかけられた時計は滞在時間が二時間ほど経っていることを知らせる。
明日も仕事だ、あまり遅くまで外出しているわけにはいかない。
「ご馳走様でした。じゃあ、次来た時にお箸持ってきますね」
「お粗末さまです。ええ、楽しみにしていますね」
会計を済ませると、やはり、値段は紅茶二杯分だけだ。
瀬戸はよくスイーツを提供してくれるのだが、毎度、メニューにはない試作品なのでと、代金を受け取ってはくれない。
何度差し出しても全てお釣りとして返金されるので、もう諦めてご馳走になることにしている。
「じゃあ、また来週来ます!」
「お待ちしております」
店先まで瀬戸に見送られ、優花は軽く手を振りながら店をあとにした。
どこか楽しそうな足取りで帰路につく優花を見ながら、瀬戸はにんまりと口元に笑みを浮かべる。
そして店仕舞いのため店頭のランプを消し、そのまま店内に戻っていった。
店の玄関口にかかっていた札には、“closed”と書かれている。
瀬戸はその札を触っておらず──つまり、最初から、店は閉まっていたのだ。
優花が来店する時、いつも人がいないのは、瀬戸があえて客を締め出しているからである。
日曜日の午後2時半になると、瀬戸はいつも一度店を閉めるのだ。
そうしないと、人が溢れて、優花が来てくれなくなるから。
優花は常連は自分一人、と思っているようだが、実は喫茶chouchouはそれなりの人気店である。
美味しい紅茶に美味しいケーキ、そしてイケメン店長。
それは口コミだけで広がり、今では待ち時間が二時間に渡るなど当たり前の人気店なのだ。
そのことを優花が知らないのは、瀬戸の思惑通りである。
決して店のことを情報雑誌やインターネットサイトに取り上げさせないのだ。
もともと店長一人で切り盛りしており、既に手一杯の状態である今、これ以上お客様を増やし、お待たせするわけには……という瀬戸の言い分に、誰もが納得するのである。
ならばいっそ店員を増やしたらどうか、という話もあがったことがあるが、瀬戸は頑として首を縦に振らなかった。
当然だ、だって優花一人しか来ないと思われている店に、いきなり店員が増えたら怪しまれる。
なにより──優花と二人きりになれるたった数時間。
他人に邪魔されるのは、我慢ならない。
だから午後2時半には店を閉め、間違えても誰か入って来ないように、店の前で掃き掃除をする。
そして優花の姿を遠目に確認してから、closedの札を、openに変えるのだ。
優花を出迎え、店に入ってもらった後は、追加で客が入らないよう、再びclosedに変える。
白い扉には窓がついているものの、すりガラスのため、反対側は何も見えない。
つまり優花が店を出入りする時に、札を優花に見られないようにすれば、シュシュの客が優花一人だけだと勘違いさせたままに出来るのだ。
そしてそれは、これから先も続けるつもりである。
「さて……優花の声でも聞こうかな」
店の片付けを終えると、瀬戸は楽しそうに口元を歪めた。
普段、瀬戸は優花のことを内海さんと他人行儀に呼んでいる。
瀬戸一樹と内海優花は、仲はいいものの、恋人というわけではないからだ。
けれど──優花に対し並々ならぬ想いを寄せる瀬戸からすれば、せめて、誰もいない時くらい彼女の名前を呼びたいというのが本音である。
瀬戸の自宅は、喫茶店の二階にある。
あまり広いというわけではないが、それなりに気に入っていた。
何より、この部屋には、何度か優花も訪れているのだ。
彼女が触れた場所は、全て大切にしている。
時々、帰宅前に「忘れ物した!」と慌てて部屋に戻る優花も、随分可愛かった。
自室に戻り、瀬戸はパソコンを起動し、繋いであったイヤホンを耳にはめる。
今か今かとソワソワしながら待っていると、イヤホンから、がチャリとドアを開けるような音がした。
『ただいまー』
次いで聞こえてくるのは、優花の、少しくぐもった声。
一人暮らしではあるものの、優花はいつも、帰宅してからただいまという癖があるのだ。
小さく瀬戸が「おかえり」と呟く。
歪んだ口元は、優花の目の前で見せる爽やかな笑顔とは似ても似つかない、どこかいやらしいものだ。
『今日も瀬戸さん、カッコよかったー!』
優花の言葉に、瀬戸は満足そうに頷く。
そして優花には聞こえないけれど、その言葉にきちんと返事をした。
「今日も優花は可愛かったよ……」
優花の声がくぐもりながらも、しっかりと聞こえる理由。
それは優花がシュシュの常連になった頃──瀬戸が優花にすっかり心惹かれるようになった頃──瀬戸がプレゼントしたクマのぬいぐるみに、盗聴器が仕掛けてあるからだ。
その盗聴器入のクマは、優花の自室のベッドに飾られているらしい。
本当は盗聴器だけではなく隠しカメラも設置したいというのが本音だが、毎日優花の声を聞けるだけ良しとしよう。
もう少し“内海さん”と仲良くなり、恋人になれれば、自然と彼女の部屋に行く機会もあるだろう。
隠しカメラを設置するのは、その時でいい。
何か曲でも聞いているのか、静かな部屋に、優花の鼻歌が聞こえる。
それはここ最近テレビでもよく流れる曲で、瀬戸も、優花に合わせるように、鼻歌交じりに愛しい優花の声を聞き続けた。
「……さて、そろそろ夕飯でも作るか」
名残惜しいがイヤホンを外し、鼻歌交じりに夕飯の準備をする。
人差し指が僅かに痛んだが、これも優花に美味しいケーキを食べてもらうために必要だったことだ。
──僕の血が入ったタルトは美味しかったかい?可愛い優花……。
瀬戸が優花のために作るスイーツに、毎回のように入っている特別な材料。
それが瀬戸の血であることなど、きっと、優花には一生わからないだろう。
愛する人が、知らず知らずのうちに、自分の体液を摂取しているのだと思うと、ひどく興奮した。
ペロリと舌で唇を舐め、ひっそり笑う。
──ああ、次に優花に食べさせるケーキは、何にしようかな。
「ただいまー」
シュシュから帰宅すると、優花は玄関で靴を脱ぎ捨て、パタパタと足音を立てて寝室に向かった。
といっても一人暮らしのアパート、玄関を入ればすぐにリビングで、リビングの扉を開ければ寝室なのだが。
寝室のベッドには、瀬戸にもらったクマのぬいぐるみが飾られている。
可愛いクマのぬいぐるみを、イケメンの瀬戸が購入したのだと思うだけで愛おしい。
「今日も瀬戸さん、カッコよかったー!」
思わず口にしてから、パソコンを起動する。
パソコンには既にイヤホンが繋がっていて、そのまま耳にはめ込んだ。
聞こえる声を楽しみに、つい、鼻歌を歌ってしまう。
『……さて、そろそろ夕飯でも作るか』
イヤホンからは、少し小さいが、しっかりと瀬戸の声が聞こえる。
以前瀬戸の自室に遊びに行った際、こっそりとコンセントに設置してきた盗聴器が拾う音声だ。
さすがに瀬戸の目の前で設置するわけにはいかず、「忘れ物した!」と慌てた様子で一人瀬戸の部屋に戻った時に設置したものだが。
声はだんだん遠ざかってしまうが、瀬戸が鼻歌交じりに夕飯の用意をしているのはなんとなく分かる。
瀬戸の鼻歌は、偶然にも優花が歌っているものと同じ曲で、なんだか嬉しくなった。
「あー、瀬戸さん好き……」
つい、口から漏れてしまう。
『あー、優花、好き……』
そしてイヤホンから、まるで示し合わせたように、瀬戸の声が聞こえた。
優花はこっそり瀬戸の声を聞くのが好きだ。
だって瀬戸はいつも優花を“内海さん”と呼ぶくせに、一人の時は“優花”と呼んでくれるから。
密かに恋人同士の告白のようだと楽しみながら、ベッドに倒れ込んでパタパタと足を動かした。
──瀬戸一樹と内海優花は、決して付き合ってはいない。
優花は瀬戸が自分を好いていることを知っているし、当然、優花も瀬戸のことが好きだ。
瀬戸は優花が自分を好いていることを知っているし、当然、瀬戸も優花のことが好きだ。
優花を好きすぎるあまり盗聴器までしかける瀬戸は完全にストーカーで、瀬戸を好きすぎるあまり盗聴器までしかける優花は完全にストーカーだ。
けれど優花は瀬戸が自分に盗聴器を仕掛けていることは知らないし、瀬戸もまた、優花が自分に盗聴器を仕掛けていることを知らない。
やがて二人は自然と付き合うようになり、互いの部屋を行き来きする頃には、互いの部屋に密かに隠しカメラを設置するけれど。
やはり、互いがそれに気づくことは、きっとないだろう。
それは、二人が決定的な発言をしている時に互いに聞いていないだけで、本当に偶然が積み重なっているものだ。
互いが互いを盗聴し、監視していることを知るか否か。
それは、神のみぞ知る。