私の親友のメンタル強度は木綿豆腐
さっちゃん視点、短めです。
こんにちは、田宮皐月です。
最近、私の親友である伊月に彼氏ができた。
傍から見てても、コイツらお互いのこと好きすぎるでしょって思ってたのに、当の本人たちは自覚ゼロだし。ようやく、越前が起こした騒ぎでくっついた。雨降って地固まるってヤツかしら?
で、自覚して付き合い始めてからというもの、甘ったるい空気を吸わされてます。
お願い、誰かお煎餅と渋いお茶持ってきて。
今だって、ほら。
「伊月、ここ付いてる」
「へ? どこ?」
「ここ」
「あ、ありがと……」
「いや、別に……」
伊月の頬についたマドレーヌ(小鳥遊作)の欠片を小鳥遊が取って食べる。伊月はお礼を言いながら顔を真っ赤にして、小鳥遊も気付いたのか、同じく顔が赤い。
前まで過保護にいちゃいちゃしてたくせに、何で恥ずかしがってんのよ。前の方が恥ずかしかったわよ。
思わず遠い目になる。今なら砂吐けるわ……。
周りを見ると、みんな同じように生暖かい視線を送っている。
だよね。教室でこんなことしてたらそうなるわ。
「えへへ……」
伊月が恥ずかしそうに微笑んだ瞬間、小鳥遊が一瞬体を強ばらせ、伊月の頭を撫でる。何でも無いように見えるけど、小鳥遊はかーなーり、耐えてるんだろう。
何にって……ナニにだろうね?
そりゃあ、好きな女の子が警戒心ゼロでくっついてきたら(最近は時々しかやらないけど)、ねぇ?
今はまだ理性が勝ってるらしいけど、どうなることやら。
半分死んだ目になりながら二人を見ていると、男子生徒が一人近づいてきた。確か、小鳥遊のクラスメートの……古賀だっけ?
「小鳥遊! 先生が呼んでるぞ」
「知らん」
「いや行けよ!」
「伊月構うので忙しい」
「これで断るの何回目だ! いい加減一回行けって!
往復して疲れるのは俺なんだぞ!?」
「いつもご苦労」
「おう! ……じゃねぇよ!」
そういや、元生徒会を追い詰めた手腕が認められて、新生徒会に勧誘されてんだっけ。代わりに古賀を差し出したらしいけど、教師陣は諦めてないみたい。
コイツが実力を発揮するのは伊月関連の事だけだし、向いてないと思う。
「だがな小鳥遊!
この幾度とない呼び出しのお知らせの末、俺は悟った!
……片桐さん、頼む!小鳥遊を説得してくれ!」
いきなり大声で呼ばれた伊月はビクつく。前は涙目になったのに、強くなったのね。木綿豆腐並みにだけど。
「オイコラ伊月が怯えてんだろうが」
「あ、俺ヤバい」
がしっと古賀の頭を掴む小鳥遊。
古賀の顔が一瞬で蒼白になって助けを求めるようにこっちを見てくる。
はぁ……、仕方ないわねぇ……。
「伊月、小鳥遊を説得した方が良いわよ。何度も邪魔されたく無いでしょ?」
私の言葉に伊月が頷く。
「うん、そうだね。
初ちゃん、行ってきた方がいいよ。その……、一緒に、いたいし……」
小鳥遊が停止する。
そして、伊月ににっこりと笑いかける。古賀の頭掴んだまま。
「あぁ、分かった。行ってくる。待っててくれ」
「うん!」
小鳥遊が一瞬で心変わりしたのを見て、古賀がガッツポーズをする。
でもね、古賀。頭掴まれたままよ。
「よっしゃ! ありがと片桐さん!」
「行くぞ」
「え、ちょ、頭離していただけませんか!?」
「伊月を怯えさせたからなぁ」
「それはお前が、いたたたた!」
「何度も邪魔しやがって……」
「不可抗力ー!!」
ぎゃあああああああーーーーーー…………………。
古賀の悲鳴がフェイドアウトする。
悪いわね、伊月関係のことになった小鳥遊を止めるなんて私には無理よ。
まぁ、身代わりだしそこまでひどくはされないでしょ。
合掌。
「初ちゃんの笑顔、かっこいい……」
私が心の中で古賀の冥福を祈っている隣で、伊月は顔を真っ赤にしていた。
言うべきはそこじゃないと思うわよ。
まぁ、伊月が良いならそれで良いか。
「伊月、マドレーヌまだ残ってるわよ」
「うん!さっちゃんもどうぞ」
「ありがと」
伊月に渡されたマドレーヌを頬張る。しっとりとした食感と甘さが広がる。
「小鳥遊ってお菓子づくりもできんのね……」
「うん、時々作ってくれるんだ。この前もね――――」
小鳥遊についてのろけてくる。
その顔はホントに幸せそうで、甘ったるくて。
ねぇ伊月、……ちょっとお茶持ってきて。とびきり渋い奴。
【END】