表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
擬似古文でカッコいい呪文や誓約文を書く時の注意――過去と完了の助動詞について  作者: 多雨
なぜ過去・完了の助動詞でミスが発生しやすいのか考えてみた
2/6

(二)現代語の過去・完了の助動詞は一つだけ、しかし古語では六つ

▼国語辞典を開く


 まず国語辞典をお持ちの方は、最後のほうをご確認ください。必ず付録があります。

 そしてその中に、動詞・形容詞・形容動詞・助動詞の活用表が載っているはずです。

 さらに、活用表は口語文法だけでなく文語文法の分もあるはずですが……。もしも載っていないのでしたら、その辞書は、真剣に文章を書きたい方にはお勧めできません。本屋さんで立ち読みしたところ、現代語の活用表しかない辞書を何冊か見かけましたが、そういう辞書は得てして語彙数だけでなく語義解説の面でも大雑把です。




▼過去・完了の助動詞の対応表を見る


 さて、ここで国語辞典を開く目的は、口語文法と文語文法における過去・完了グループの助動詞の比較です。

 ただし日本語文法の専門家の世界はいろいろと派閥があるようで、辞書によって説明もかなり異なっています。


 次の表は私が適当に作りました。複数の辞書の表を比較した最大公約数のようなものとお考えください。



 挿絵(By みてみん)



 ご覧の通り、古語の過去・完了グループの助動詞は「き」「けり」「つ」「ぬ」「たり」「り」と六つもあったのに対し、現代語では「た」一つしかありませんね。

 他にも減っている助動詞はありますけれど、ここまで数を減らしたのは、過去・完了という〈時〉を示すグループだけです【注1】。




▼口語体と文語体では〈時〉の感覚が違う


 これは私も辞書で確認するまで知らなかったのですが、「き」「けり」「つ」「ぬ」「たり」「り」は時代が下るとともに「たり」に統合されて、それがさらに「た」に変化したそうです。



 挿絵(By みてみん)



 かつて六つの助動詞で使い分けられ、表現されていた古文の〈時〉の感覚からすれば、「た」だけで処理してしまう現代文の〈時〉の感覚はものすごくいい加減で大雑把です。


 ファンタジーや歴史小説で見かける擬似古文で、時制の失敗例がやたらと多いのはおそらくこれが原因だと思います。


 普段「た」しか使っていないから、古語の六つの助動詞の使い分けが理解しづらいのではないでしょうか。

 さらに、アマチュアのオンラインノベルだけではなく商業出版されているライトノベルでも変な擬似古文をそこそこ見かけますので、本来の古文には縁がなくてそちらしか読まない方々の間で、勘違いが拡大再生産されているのではないかという危惧も持っています。


 ……言葉は変化します。かつて「言葉の乱れ」だと批判されていた「ら抜き言葉」も、今は「言葉の変化」と見なされるようになりました。

 しかし、すでに役目を果たして消えていった古語は、変化しようがありません。それに古語に「言葉の変化」を認めるならば、わざわざ擬似古文で書く意義は一体どこにあるのでしょうか。

 古語は失われ()古き言ノ葉だからこそ、カッコいいのです。だから、勘違いして意味を歪めるなんてことはせずに(ひどい時には意味すら成していないこともあります)、本来の姿のままにしておくべきだと思うのです。




▼対処法その一 「たり」だけを使う


 とはいえ、「た」しか知らない現代人がいきなり六つの助動詞を使い分けるのは、難しいのではないかと存じます。


 この〈時〉の感覚の違いを克服する、というか誤魔化すことができる一番手っ取り早い手段は、「たり」だけを使うことです。

 「たり」は六つの助動詞の一つであると同時に、現代語の「た」に変化する前段階として、六つの助動詞が統合された「たり」という解釈でもいけます。

 ですから、他の五つの助動詞は一切使わずに、「たり」だけで押し通すことは可能です。




▼対処法その二 「き」と「たり」だけを使う


 しかしながら、「小説家になろう」でそれっぽい文章を拝見していると、「き」と「たり」だけの組み合わせで構成しているパターンが一番多いようですね【注2】。

 ですからこのエッセイでは実情に即して、「き」と「たり」だけで押し通す方式を採用したいと思います。

 あと、「たり」単独だと、私にとっては縛りプレイ状態(笑)となるため、例文を書くのがつらいという裏事情もあったりします。「き」「たり」だけでも結構きついのに、「たり」オンリーなんて絶対無理ですってば!







【注1】

 ちなみに、過去といえば過去推量の「けむ」あるいは「けん」(中世以降は「けん」の表記が多いみたいですね)もありますが、このエッセイでは扱いません。そもそも「けん」まで使いこなす方には、このエッセイは不要だと思いますしね(笑)




【注2】

 「き」「たり」「り」の三点セットも見受けられますが、「たり」と「り」は意味としては同じなので(単に音の響きや音数調整で使い分けている感じです)、「き」「たり」二点セットでいいかなぁと。

 ちなみに「り」を見かけるのは、次のようなごく限られたテンプレ文例のみです。


 ――我、敵を発見せ()


 しかし、


 ――我、敵を発見し()()


と「たり」に差し替えても意味は同じですし、日本語の時制のアバウトさを考えると、


 ――我、敵を発見す。


と現在形にしても意味は通るはずです。というわけで、「り」も捨てますね(笑)


 そして残りの「つ」「ぬ」「けり」に至っては、うーん、ファンタジーでは見た覚えがないんですよねぇ。個人的には使わないのは惜しいと思うんですけれど、「小説家になろう」では無くても問題なさそうだということで、こちらも省略します。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ