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「しかし、警察官の娘とやくざの一人息子が恋に落ちるなんて、ドラマみたいだな」

 隼人が苦笑いすると志保も小さく笑った。

「隼人はやくざじゃないよ」

「えっ?」

 驚いて目を見開いた。どういう意味だろうか。

「初めて会った時から、隼人はやくざに見えなかった。だって、やくざってもっと乱暴だし暴力振るったりするでしょ?隼人は普通の高校生だったから、本当にやくざなのかって、ずっとうろんな人だなって思ってた」

 隼人の頭の中に今までの出来事が浮かんだ。初めての学校で初めてうろんな女に出会った。そして初めて恋をした。

「そんなこと考えてたのか。お前ってすげえな」

 感心したように言うと、志保はまた小さく笑った。

「お父さんが警察官だからね……。ほら、警察官って人の本心を暴くじゃない?嘘とか絶対にばれちゃう。いろんな人に何度も同じようなこと聞いたりして。私も何となくそれが癖になっちゃって、小さい頃から気になったことは何度も何度も質問しちゃうの。答えが出るまで納得できないっていうか」

 隼人は、あることを思い出した。昔、まだ浅霧の実家で地獄の日々を送っていた時だ。輪間公園でベンチに座っていると後ろから知らない女の子が声をかけてきた。

「……あのさあ、俺、まだ小学生の時に、輪間公園で座ってたら女の子にいろいろ聞かれたんだけど……」

 すると志保も驚いたように目を丸くした。

「私も、小学生の時に輪間公園でベンチに座ってる男の子に会ったよ。……家に帰りたくないとか、一人きりになりたいとか言ってた」

 二人でじっと見つめ合った。やはりあれは志保だったのか。

「ってことは、もう俺たちは小学生の時に会ってたんだな」

 そう言うと志保は珍しいものを見るような目をした。

「こんなことあるんだね。何かすごい。本当にドラマみたい」

 隼人もそうだと思い、こくりと頷いた。

「ねえ、もしかして、隼人ってお姉さんいる?」

 突然の質問に驚き、隼人は目を大きくした。

「えっ……。何で……」

 頭を下げてから志保は話し始めた。

「ごめん。隼人の部屋に泊まった時、こっそり写真立て見ちゃった。あの男の子って隼人だよね?女の子はお姉さんかなって思って」

 隼人は紗綾の顔を思い出しながら答えた。

「そうだよ。姉ちゃんだよ。俺のこと大事に護ってくれた姉ちゃん。……もう九年も会ってない」

 志保は真っ直ぐに隼人を見つめ、はっきりとした口調で言った。

「隼人のこと教えて。家族のことも、過去のことも。私も同じように教えるから」

 力強い言葉だった。隼人も、もう弱い自分を見せていいと決心した。幸せだった日々、突然地獄の毎日を送るようになった悲劇、全て話した。志保は驚いたり泣いたりしながらしっかりと聞いていた。自分の過去を他人に話すなんて初めてだし、隼人の気持ちをわかってくれたのは志保だけだ。隼人も涙が出そうになったが堪えた。

「俺は極道になんかなりたくねえんだ」

 そう言うと志保はぎゅっと抱きしめた。

「隼人は極道じゃないよ。だってこんなに穏やかで優しいんだもん。私は隼人のことやくざだなんて思ってない」

 志保の温もりで心の中が暖かくなっていく。安心する。本当に志保は紗綾に似ている。隼人がぼんやりしていると、さらに志保は続けた。

「私ね、しちふくでアルバイトをしてるの。そこで髪が長くて綺麗な女の人がよく来てるの。最近はあまり来ないんだけど。和菓子を買うんじゃなくて、誰かを待ってるような……探してるような感じで、お店が閉まる直前までいるの。……もしかしたらあの人は紗綾さんだったのかな……」

 隼人は俯いた。隼人と同じく、紗綾も隼人に会いたいと思っているのだ。しかしもう会うことはできない。もし巌残にばれたら命を落とすかもしれない。それほど巌残は恐ろしい人間なのだ。

「ねえ、しちふくに行こうよ。紗綾さんに会えるかもしれないよ」

 しかし隼人は目をつぶり首を横に振った。

「だめだ。会っちゃいけないんだ」

「どうしてだめなの?紗綾さんだって会いたいって思ってるよ」

「そうだけど、もし会ったってことがじいちゃんにばれたら、俺殺されるかもしれない」

「殺される……?」

 信じられないという目で志保は隼人の顔を見た。

「例え血が繋がってる人間でも、ちょっと気に障ったり些細なことで、平気で傷つけたり殺したりするんだよ。それが、この浅霧家なんだよ」

 志保は何も言わなかった。普通の人間にはわからなくて当たり前だ。極道とは本当に血も涙もない奴らの集団なのだ。

「……じゃあ、これからは幸せになろう。二人で幸せになろうよ」

 志保は優しく微笑んで言った。隼人もつられて笑っていた。極道になってから笑顔になったのは初めてだ。

  

 志保を抱きしめながら隼人は眠った。志保と恋人同士になり、ずっと一緒にいられるのだと思うと天にも昇る気持ちだった。結ばれる方法は思いつかないが、絶対に志保と幸せになれると確信していた。

 


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