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3

志保が小学二年生の時だ。学校からの帰り道に一人で歩いていると、輪間わま公園のベンチに誰かが座っていた。その公園は小さいし遊具も錆びれていて、人なんていないはずなのだが、その日は違った。

 後ろ向きで座っているので顔はわからない。同い年くらいの男の子の姿に見えた。別にそんなことはどうでもいい。早く帰らないと暗くなってしまう。

 しかし志保は道に迷ったのかな、と気になった。困った人を助けるのはとてもいいことだ。

「あの」

 声をかけたが、聞こえなかったようで反応はなしだった。

「どうしたの?」

 もう一度言ってみた。すると質問とは違う返事が返ってきた。

「出てけ」

「えっ?」

 志保は目を丸くした。後ろ姿の男の子は正面を向いたままだ。

「話しかけるな」

 他人にいきなりこんな口調で話すとは、礼儀知らずだなと思ったが、志保は続けた。

「み、道に迷ったかと思って……」

 相手はどうやらいらいらしているようで、少し緊張した。

「家に帰りたくないんだ」

 重い声だった。志保はさらに聞いた。

「どうして帰りたくないの?」

 男の子はそっと俯くと、また質問と違う返事を返してきた。

「俺は一人になりたいんだ」

「どうして?家が、何かおかしいの?」

 また根掘り葉掘りだ。気になると止まらなくなる悪い癖だ。

「家族が嫌いだとか?」

 突然男の子が立ち上がった。どきりとし、志保は後ずさった。何かまずいことを言ってしまったのかと焦った。

 だが立ち上がったままで、何もしてこなかった。振り向きもしなかった。

 志保は何を言えばいいのかわからず、ただ背中を見つめていただけだった。

 周りはどんどん暗くなっていく。志保は汐里が心配しているだろうと思い、小さく呟いた。

「私、かえ」

「お前なんかに」

 男の子が、志保の言葉を遮った。はっとし、志保は口を閉じた。

「お前なんかに、俺の気持ちなんてわかんねえよ」

 声が震えていた。志保はすぐに気が付いた。

「……泣いてるの?」

 しかし男の子は何も言わなかった。

「……私、帰るね……」

 そう言うと、志保は歩いて行った。

 家に帰ると、汐里にこんなに遅くまで何をしていたんだと怒られた。

「危ないでしょ。また遅くまで帰ってこなかったら、鍵閉めちゃうからね」

 ごめんなさい、と志保は頭を下げた。もう輪間公園には行かないと決めた。

 それから一年後に汐里は死んだ。志保は独りぼっちになった。誰もいない家。ただいまと言っても何も返ってこない家。志保も、こんな家に帰りたくないと思うようになった。


 汐里がいなくなったある夜、志保は変な夢を見た。

 暗い道を、どこかに向かって走っているのだ。何か大切なものを探しにきたようだった。探しものが何かはわからない。走っていれば、それが何なのかわかる気がした。

 しかしどれだけ走っても暗い道が続くだけだった。仕方なく志保は帰ることにした。今まで走ってきた道を歩き始めた。

 すると突然、後ろから手が伸びてきた。口をふさがれ、何も言えなくなった。まずい!逃げなくては!だが体が思うように動かせない。相手の力が強いのではなく、志保が焦っているせいだ。

 怖くてぶるぶると震えた。目が開けられず相手の顔が見えなかった。どこに連れて行かれるかわからない。

 抵抗に疲れて志保が動きを止めると、相手も力を緩めた。志保は一気に駆け出した。今しかチャンスはないと思った。相手も後ろから追いかけてくる。がしっと手首を掴まれた。

「痛い!」

 志保は叫んだ。あまりの衝撃に、今まで出したことのないくらいの大声を出した。

 相手ははっとし、手を放した。そして何か言いかけた。


 そこで、目が覚めた。何と現実的な夢だったのだろうか。母親が死んだせいで、父親が家に帰ってこないせいで、こんな夢を見たのか。

 正夢になりそうで、志保は少し怖くなった。早く忘れてしまおうと思った。

 


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