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 特に行くあてもなく、ぶらぶらと隼人は歩いていた。部屋の中にいても仕方がない。外の風を浴びている方が心地よかった。また不登校をしている。いつもあの倉橋が関係している。あの女がいると、なぜか隼人は動揺してしまう。本当の弱い自分が出てきそうになるのだ。倉橋が部屋に泊まった夜、隼人は倉橋に本当の自分を見せてもいいと思った。すぐにやめたがもし話していたらどんな目で隼人を見ただろうか。「やくざだから」という言葉はとにかく衝撃的だった。倉橋にやくざだと思われていたとは。やはり倉橋も他のクラスメイトたちと一緒だったということだ。やくざじゃなかったら?という質問にも答えてくれなかった。 いろいろと考えても何も出てこない。隼人は昔秘密基地としていた輪間公園に行くことにした。高校生になってから一度も行っていない。誰も人がいなかった。ここはとても落ち着く隼人だけの空間だ。隼人しか入れない場所だ……。

 ふと隼人は気が付いた。いや、一度だけこの空間に入ってきた人間がいた。いつだったかは忘れてしまったが、確かベンチで座っている時に声をかけられたような気がした。

 しかしもうそんな人間のことなんか考えても意味がない。これからどうやって過ごすのかが大切だ。いつの間にか隼人は眠っていた。

 極道になりたくない……。家に帰りたくない……。そう思っている隼人の後ろから、誰かが話しかけている。

どうして家に帰りたくないのか、家がおかしいのか……。そして隼人の心を見透かすような言葉を言ってきた。とても知りたがりな奴だった。いったい誰だったのか……。

 そっと目を開けた。そばに誰かがいる気配がした。隼人の横に倉橋が座っていた。はっとして起き上がった。

「またお前」

「言いなりになんかなってないもん」

 いじけた声で隼人の言葉を遮った。

「はっ?」

 倉橋は前を向いたまま、また言った。

「別にあんなに怒んなくたっていいじゃない。人の話聞かないで勝手に怒鳴って」

「な、何だよ」

 話しかけても顔を向けてこない。さらに続けた。

「私は言いなりになってたんじゃなくて、約束守ってただけだし。文句があるなら小杉さんに言ってよって感じ」

「小杉?あいつがどうかしたのかよ」

「小杉さんが、浅霧くんと二人きりになりたいから、もう浅霧くんと話すのはやめろって言われて、無視してただけだし」

「えっ?」

 隼人は驚いて目を見開いた。そんなことがあったのか。

「どうしてそれを早く言わないんだよ」

 そう言うと、ふんと顔を横に向けた。

「話そうとしたら怒鳴られたんだよ」

 頭に来てるんだなと隼人は思った。どうしても隼人に言ってやりたくてここに来たのだろう。

「怒鳴って悪かったよ」

 そう言ってからぎくりとした。やくざは人に謝らない人間ではないか。弱い自分が出てしまったと動揺した。しかし倉橋は気が付いていないようだった。

「もっと話聞かないとだめだよ」

 ようやく倉橋は隼人の顔を見た。

「……じゃあ、私はこれで……」

 もう用が終わったというように立ち上がったが、何かに気が付いたように聞いてきた。

「部屋にいたくなくてここにいるの?」

「ああ、まあ……」

 あいまいに頷くと、倉橋は驚くべきことを言った。

「じゃあうちに来る?」

「えっ?お前ん家?」

「そう。前に言ったでしょ。私のお父さん、もう二年半も家に帰ってこないって」

「だ、だけど……」

 動揺している隼人を倉橋は真っ直ぐに見つめた。

「ほら、早く。行くよ」

 そのまますたすたと歩き出す。

「ちょ、ちょっと待てよ」

 あわてて隼人もついていった。

 

 


 

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