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 がっくりと項垂れたまま部屋のベッドの上に座っていたが、ふとあるものに目がいった。倉橋からもらった手紙だ。何が書いてあるのだろうか。嫌な予感がしたが読んでみることにした。するとこの手紙は倉橋からのものではないことに気が付いた。小杉明日香という違うクラスの女子だ。隼人は全く興味がないが男子の間で天使だとか言われている女だ。頭が悪そうなぶりっこだと隼人は思っていた。内容はこうだった。

『はじめまして。小杉明日香といいます。実は前から浅霧くんのことが気になっていました。もしよかったら付き合ってください』

 ラブレターだった。驚いて目を見開いた。さらに二枚目を見た。

『あと、倉橋さんとはもう付き合ったり、仲良くしないでくださいね』

 突然めらめらと体から怒りが込み上げてきた。今まで散々やくざだの怖いだの言ってたくせに……。しかも倉橋とは仲良くするな……?何でお前みたいな馬鹿な女の言いなりにならなきゃいけないんだ……。思わず立ち上がった。初めて人を殴り飛ばしたいと思った。しかしそんなことをしたらやくざの仲間入りだ。だがこの女に何かしてやらないと気が済まない。早く明日になれ……。小杉を思い切り傷つけてやりたいと思った。

 

 学校に行くと小杉のいるクラスにずんずんと進んでいった。大きな音を立ててドアを開けると、中にいた人間が全員隼人の方を見た。

「小杉明日香って女!出て来い!」

 大声で怒鳴ると、小柄な女の子がにっこりと笑って近寄ってきた。

「浅霧くんっ。あの手紙読んでくれた?」

 男を弄ぶような口調にさらに怒りが増した。小杉をきつく睨みつけた。

「お前、言いたいことがあるんだったら、正々堂々自分の口から言えよ!」

 周りにいたクラスメイト全員が固まった。しんと静まり返り、誰も何も言わない。隼人は小杉の目の前で手紙を粉々に破り捨てた。床に落ちた紙くずを足で踏み潰した。

「お前みたいな女が一番嫌いなんだよ!二度と俺の前にそのツラ見せんじゃねえ!」

 捨て台詞を吐き、教室から出た。うわあああんという泣き声が聞こえてきたが無視をした。倉橋があわてて近寄ってきた。

「ちょ……ちょっと……。どうしたの?浅霧くん」

 隼人は倉橋も睨み、大声を出した。

「うるせえな!何しようが俺の勝手だろ!」

「で、でも今のはあまりにも酷い……」

 言い終わる前に隼人は倉橋の胸ぐらを掴んだ。

「お前も、なんであんな奴の手紙なんか渡したんだよ。あんな馬鹿女に頼まれたからか。言いなりになったってわけか」

「言いなりなんて……そんなこと」

 隼人は手を放し、倉橋の肩を強く叩いた。どんと大きな音をたてて倉橋は壁にぶつかった。すぐに隼人はその場から離れた。


 


 しちふくでは具合が悪いとミユキに勘違いされ、もう帰っていいよと言われた。家に着きおみやげにもらったあんみつを食べながら、志保は浅霧の怒声を思い出した。何もあんなに怒らなくたっていいじゃないか。いじけた思いだった。昨日自分が言ってしまった言葉も思い出した。志保が浅霧を無視していたのは明日香に止められていたせいだ。本当だったら志保も浅霧と会話がしたかった。明日香に内緒で話したりもできたかもしれないが、ばれた時にいろいろと面倒になると思った。そして一番言ってはいけないことを言ってしまった。「だって、やくざだから」。あれは本当に酷かった。悪いことをした。なぜか涙が出そうになった。浅霧は今どんな気持ちだろう。やくざだからと言われ頭に来てあんなに怒鳴ったのだろうか。「もしやくざじゃなかったら?」と聞いてきたのはなぜだろう。もし浅霧がやくざじゃなかったら……。志保は無視をしなかったのか。やはり明日香の言われた通りにしたのだろうか。

 のどに何かが詰まったようになり、志保はあんみつを食べる手を止めた。ミユキには悪いが、仕方なくそのまま捨ててしまった。


 

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