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明日香の言葉がいつまでも繰り返し頭に浮かび、志保は眠れないまま次の日を迎えた。学校に行くと、すぐに明日香がやってきた。

「おっはよー!倉橋さん!」

 明日香のノリについていけない。「おはよう……」と小さく呟いた。

 明日香は確かに可愛かった。こんな顔で歩いていたら、どんな男でも落ちるだろう。浅霧も落ちるんだろうか。浅霧と明日香が並んで歩いているのを想像した。すると心の中に硬い石のようなかたまりが生まれた。

「浅霧くんってよく見るとかっこいいんだよね~。やくざだから護ってもらえそうだし」

 そうしみじみ語る明日香を見ながら、本当にみんな勝手だなあと思った。本人のことなんか考えず、全て自分中心で世界が回っていると思っているのだ。志保にはできないことだった。明日香が浅霧の話をするたびに、心の中のかたまりがうずく。今まで一緒にいたのは自分なのになという気持ちがあったが、明日香の方がずっと女の子らしくて可愛い。それに明日香と浅霧が恋人同士になったから何だというんだ。志保は首を横に振った。しかしかたまりは消えていかない。

 明日香は毎日やって来た。浅霧が好きそうなものや誕生日などとにかくしつこい。

「私、勉強したいの」

 そう言っても構わず明日香はやってくるのだ。


「シホちゃん、浮かない顔してるね」

 ミユキに声をかけられ、はっとした。

「そ、そうですか……?」

「うん。何か嫌なことでもあった?」

 志保はすぐに首を横に振った。

「そんなことありませんけど」

「彼氏と喧嘩でもした?」

「えっ?」

 驚いて目を見開いた。こんなことを聞かれるとは思っていなかった。

「いませんよ。そんな、彼氏なんて」

「そう?シホちゃん可愛いから、彼氏いると思ってたんだけど」

 可愛いなんて言われたのは生まれて初めてだ。

「何言ってるんですか!私全然可愛くないですよ!地味だし、友だちだっていないし。私より可愛い子、たくさんいますよ」

 ミユキは意外そうな顔をした。

「そうなの?最近あんまり元気ないから、なんか心配になっちゃって」

「仕事しましょう!ミユキさん!仕事!」

 志保は大げさに声を出した。

 アルバイトが終わり家に帰る途中、また恋愛のことについて考えていた。彼氏か……。ミユキにも言ったが、志保は自分は可愛くないと思っている。というか女の子はみんな自分のことを可愛いと思っていないと思う。可愛いと思っているのは明日香だけだ。明日香はいろんな男と付き合い、気に入らなくなるとすぐに捨てる女だ。浅霧と付き合っても捨てるのだろうか。何といってもやくざなのだから、捨てた後何をされるかを考えなきゃいけない。浅霧を彼氏にするには、かなりの勇気があると志保は思った。たとえやくざであっても好きだと、明日香は言えるだろうか。浅霧と同じく志保も警察官の娘だから、たとえ父親が警察官でも志保を好きだと言う男と付き合わなければならない。そんな男は現れるのか。

 ふう、と息を吐いた。とにかく今は明日香と浅霧が恋人同士になれるように協力をするのだ。自分の恋愛は二の次だ。


 翌日もミユキに話しかけられた。

「学校で好きな子とかいないの?」

「いませんよ。というか、恋愛に興味がなくて」

 そう言うと、ミユキは昔を思い出すような口調で話した。

「高校生ってさあ、一番楽しい時なんだよ。好きな人を見つけて、毎日幸せな日々を送って。せっかく楽しい時に恋愛をしないなんてすっごく損だよ」

「でも……本当にいないんです……」

 困った顔をすると、ミユキはじっと見つめてきた。

「気付いてないんじゃないの?」

「えっ」

 言葉が胸の中に引っかかった。

「本当は好きなのに気付いてないってこと、けっこうあるんだよ。もっと自分の気持ちに素直になってみなよ。きっと好きな男の子いるよ」

「だけど……」

 志保は何も返す言葉が見つからなかった。


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