一
平凡な生活が嫌いでした。
でも、本当は分かっていたのです。
私は平凡な自分が嫌いなのではなく、誰からも相手にされない私自身が嫌いだったのです。
どんな組織に所属しても、私はいつまでもいつまでも一人きりでした。
誰かに認めてもらいたくて、誰かに褒めてもらいたくて、誰かに…あなたは私にとって特別だと言ってほしくて…!
だから、私は特別なものを羨んだのです。
けれど、だからと言って、争いまでは望んでいませんでした。
この深刻な事態に気付いたのは、小学校の入学式の時でした。
そこで、私は従妹だというオートルモンチェに始めてお会いしたのです。
彼は鳶色の髪をしたビロードの瞳の男の子でした。
その彼を見た途端、ふと私の中に前世の記憶が蘇りました。
そうして、気づきました。
ここは生前、私が考えていた世界「ハロルドの王宮恋愛譚」という黒歴史の世界と、瓜二つなのです。
中学の頃から考えていたこの世界は「主人公最強」で、「逆ハーレム」で、「お嬢様」で、主人公の「ノーチェ」は平凡な私の人生とは真逆に暮らしていました。
舞台は異世界で、主人公「ノーチェ」は、「ビブリオ学園」で皇子「エドワード」と出会います。「エドワード」は庶民的な感覚を持つ主人公に、お金に執着するほかの令嬢たちとは違うところをみて彼女に惚れるのです。しかし、同じようにノーチェに惚れたのは「イケメンの外国の王子様」。しかも、彼女の学園生活はイケメンに事かかない逆ハーレム生活。そして、彼女を巡る争いはやがて戦争に発展してしまうのです。
という、展開も当事者になった今では青ざめます。
そう、私はこの黒歴史の中の存在、主人公「ノーチェ・クロース」です。
このままでは私を巡って数々の男性が血で血を洗う、修羅場が巻き起こされてしまうという、黒歴史の量産!
戦争はまずいっ。
争い反対っ。
私はもうどうしてよいのか分からず、一週間寝込んでしまいました。
そして、思いついたのです。
私は戦争回避のために、彼らに嫌われる悪役令嬢になります!!
でも、と悪役になろうと決めた日、私は鏡の前で、立ちすくみましました。
こんなわたしのように度胸のない娘が悪役になりきれるでしょうか。
自信のない顔をしたくすんだ茶色い髪の少女が不安そうに私を見ています。
着ている服も淡い落ち着きのあるもので、見た目にぱっとしません。
これでは、悪役どころか令嬢ですらありません。
クロース家はこれでも国内有数の資産家。
皇子とも釣り合いが取れる家柄にも関わらず、そこの正真正銘の一人娘でえる私がこんな姿なのは、引っ込み思案が過ぎてメイドも親さえも遠ざけるような性格のためでした。これは、確かに前世とあんまり変わりません。
私は、さっそく自分を変えなければいけません。
とりあえず、明日は服を買いに行って自分のイメージチェンジを図ります!
馬子にも衣装!!
それしか、ありません‼
そして、戦争回避に努めるのです。