ジアピストでの生活(2)
「あ、ハル!」
俺とソーイチがユニコーンの公園にたどり着くと、そこには既にリアナの姿があった。
まだ集合時間より20分もはやいというのに、ベンチに腰掛けて待っていたようだ。
「予定してた時間よりはやいね、待たせちゃった?」
「へへへ、ちょっと待ちきれなくって早く来ちゃった」
そう言うとリアナは初心者ローブを脱ぎ、笑顔を向ける。
「やぁリアナちゃん。今日もよろしくね」
「ソーイチさん! よろしくおねがいしますね!」
ソーイチの球体にむかって深々とお辞儀をするリアナ。
なんだかシュールな光景だ。
「で、リアナ」
多分このまま放置しておくと、また"球体トーク"がはじまりそうな予感がしたので早めに切り上げる。
リアナがこちらに向きかえったのを確認すると、俺は話をはじめる。
「今日は"スキル"のことについて話したいんだけど、リアナはこの世界で何がしたい?」
この世界は、ありとあらゆることがプレイヤー任せになっている。
だがその分、"やれることが多すぎて、全てに手が出せない"。なので、先に方針を決めておくべきなのだ。
「んー……」
「やっぱり物作り?」
ソーイチがリアナに質問する。
だがリアナはピンとこないようで、うーんと唸り続けていた。
「例えばなんだけど」
そう言いながら俺は刀を抜き放つ。
刀は夕日に反射し、きらりと輝きを放った。
「この刀を作ったのは、プレイヤーだ」
その後刀をしまい、街を指差す。
「それに、この街もいまいる公園も、全部<生産>スキルを持ったプレイヤー達が作ったんだ」
街を建築した生産者は<建築>スキルをあげているプレイヤーだし、刀を作ったプレイヤーは<鍛冶>スキルをあげているプレイヤーだ。
「だからこのゲームは、<生産>メインの人がおもったより多いんだ」
「ボクも一応<生産>メインだしね」
それを聞くとリアナさんは。
「じゃあ<戦闘>はどんなかんじなんですか?」
と質問を返してきた。
「<戦闘>は、<生産>をするために使われるアイテムを、体を張って採って来るのが仕事かな」
「実際見てみないとわかんないと思うけどね。ただ、結構危ないよ」
と、説明していた俺に代わってソーイチが話を続ける。
俺は講師役が取られてすこしむっとする。
ソーイチはそこから、キャラクターロストの危険性についてリアナに話した。
死ねば全てを失う。酷い仕様だ。
それを聞いて、驚きながらもふんふんとうなずくリアナさん。
結構まじめに聞いてくれるので、ソーイチも興がのっているようだ。
「ただ見返りもあるよ。まず一回の依頼ごとの報酬が高い」
「えっと、報酬?」
「そ……っていうか、ハルは通貨の話もまだしてないの?」
「面目ない……」
初日は結局観光のみで、通貨について教えられなかったのだ。
「じゃあ通貨はまた今度。とりあえずね、敵を倒せばどばーっと報酬がもらえるんだ。勿論、簡単な敵からは少ない報酬だけどね」
「な、な、なるほど……」
手元にメモがあったらメモしているだろう仕草をリアナはする。
バイト初日の新人さんみたいである。
「あと戦闘は、やっぱり楽しいよ」
ソーイチの声をさえぎって、俺が入る。
「実際に自分で敵を倒す感覚と、死ぬかもしれないっていうギリギリ感が結構クセになる」
死ねばロスト、逆に倒せば報酬。
この綱渡りがものすごく好きなのだ。
ソーイチはずっと"頭おかしい""このサイコパスめ"とか言ってくるが、結構これがクセになっているプレイヤーは多いんじゃないだろうか。
「えと、両方ってのはだめ?」
リアナはなかなか決められないようで、俺に目配せをしてくる。
「だめってわけじゃないけど……難しいな。<生産>スキルも<戦闘>スキルも両方あげるのは、相当時間がかかっちゃうし」
それに制限もある。
あとで話そうと思っているが、<生産>と<戦闘>は同時に極めるのが難しいのだ。
「なるほど……。じゃあ……うーん」
ここまで聞いて、リアナは今後のことについて思案をはじめたようだ。
どっちに転んでも面白いし、どっちに転んでも楽しめるはずだ。
だが、できることなら戦闘を選んでほしいなと思う。
そうすればまた俺が教えれるから……とかなんとか思ったりして。
「決めた!」
手を高く突き上げて、リアナは決定したようだ。
そして短く一言だけ、リアナは言葉を発した。
「<戦闘>する!」