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ジアピストでの生活(1)

 真っ暗な世界から、意識が戻ってくる。

 プシュウという空気の抜ける音が聞こえてくる。

目を開けると、目の前には白色がかった硝子があった。


--ああ、戻ってきたのか。


 ものすごい喪失感が俺を襲う。

感覚的には、日曜日の夕方アニメのエンディングを聞いている感覚に近いなと思う。

 しばらくすると、その硝子が目の前から遠のいていく。

 同時に機械的な女性の声で、アナウンスが聞こえる。


『オ疲レ様デシタ。マタノゴ利用ヲオ待チシテオリマス』


 声を聞いてから俺は上半身を起こす。

 白い壁の小さな個室で、俺が寝ていた黒いカプセルだけがポツンと置いてある。

 ......ここは通称"VR屋"。

オンラインゲームジアピストを遊ぶための施設の一室だ。


「......帰るか」


 俺はカプセルから立ち上がると、その個室から出る。


『オキヲツケテ、オカエリクダサイ』


 そこで、ジアピストとかかれた制服に身をつつんだ女性に声をかけられる。いや、正確には"女性型ロボット"だが。


「......」


 挨拶に一言も返さず、俺は店を後にした。

 ロボット......"アンドロイドA-risシステム"は、いまから数年前、ジアピストの正式サービスが開始される前に普及し始めた。

米国のとある企業が独占で開発しているらしく、大々的に宣伝しているのを俺は何度も見ている。

 精密な動きと、学習する人工知能によって土木作業やコンビニ、ファミリーレストランのレジ会計など、今やあらゆるところで見られるようになった。もう、このロボット達は俺達の日常からきっては切り離せない関係に位置していた。


「......帰りたくねえな......」


 あたりはすっかり暗くなっていた。

土曜日、日曜日は結局一日中ジアピストにひたっている気がする。

まぁ、家にも帰りたくないからそれでいいんだけど......。


「......リアナ、か」


 帰路につきながら、俺は今日であった少女のことを思い浮かべる。

 初心者で好奇心いっぱいで、明るくて前向きで。

俺とは正反対のその少女と、俺は"友達になった"。

 結局あの後、時間が時間だということで俺達は全員ログアウトした。

 ログアウト方法のわからなかったリアナに、ソーイチと俺で必死に解説したのだ。


「明日からも、また教えないとな」


 自分の顔の筋肉がゆるむのがわかった。

なにから教えようとか、まずは戦闘かなとか、そんなことを想像する。

 俺も、めちゃくちゃ楽しみなんだと理解する。


「......ともかく。明日の高校生活のりきってからだな......」


 と、帰りたくもない家のこと、会いたくもない家族のこと。

 おもしろくもない高校生活のことを憂鬱に思いながら、俺は自宅のドアをこっそりとあけたのだった。


 

 翌日、俺がジアピストにログインしたのは16時頃だった。

 高校の授業が終わり、急いでそのまま街へと繰り出した俺は一直線に"VR屋"へと駆け込んだのだ。


「あ、おはよハル」


 ログインすると、またジアピスト内の自宅だった。

俺が着たことを察知したソーイチは、またもドアの向こう側から声をかけてくる。


「おはよってもう夕方だろ?」

「ネトゲログインしたらおはよでしょ。ところで、リアナちゃんは?」

「いまログインしたばっかなんだからわからねえよ」


 このゲームには、"フレンド機能"というものがない。

知り合いがログインしているのかどうか、その知り合いがどこにいるのかどうか、等を知らせる機能として大抵のネトゲにはついているのだが。

 なぜかジアピストにはついていない。

 もちろんプレイヤーは抗議し、何度も運営に訴えかけているが一切改善される雰囲気がない。

 ほんとうにクソ運営なのである。

 ......ただ、それでも顧客が多いのが謎だ。


「そっか。待ち合わせとかは決めといたの?」

「昨日の"ユニコーンの公園"。17時にあつまろうって言ってる」

「あ、そ。ところでハルは今日泊まり?」

「泊まりにしようと思ってるよ」


 ジアピスト内で1日過ごすことを、プレイヤーは"泊まり"と表現している。俺はこの一週間分の高校の用意をしてきているので、もういってしまえば一週間ジアピストですごすつもりなのである。

 ......家族は、俺がいなくなっても気にしない。

 ログアウトしている間の食事は、バイト代でなんとかたりるし。 


「ボクも泊まりにするよ」

「......なぁ、お前っていっつもそういうけどいつリアルにかえってんの? お前がいないときを俺はしらないんだけど」

「失礼な。ボクだってリアルにかえることくらいあるよ。一ヶ月にいっかいくらい」


 ため息がでる。

 ジアピストは、ログインしている最中"リアルの自分の腹がへることもなければ、排泄物の心配もない"。

 理由はよくわかっていないが、あのカプセルに入っていると極端な話身体がとまった状態になっているらしい。

健康への影響とかでいろいろ騒ぎがおこったらしいが、その問題については米国でサービスを開始した時にもう解決済みなんだそうだ。

 相変わらず、"超技術"である。


「じゃあそろそろリアナちゃんに会いに行くんだね」


 結構ソーイチの声も踊っているのがわかる。

 昨日ソーイチの球体のことで盛り上がったから、ソーイチもリアナのことを気に入ったのだろうか?


「そーいうこと」

「今日はなに教えるの?」


 ソーイチが質問してくる。

 俺も今日一日結構考えたが、二択まで絞ることができた。


「<生産>か<戦闘>どっちか」


 あー。と声を漏らすソーイチ。

 リアナの話をきいて、<生産>メインにするか<戦闘>メインにするかが決まってから教えようという魂胆である。

 両方極めるのはこのゲームの設定上難しいので、できれば最初はひとつに絞ってあげていくのがいいのだ。


「どっちえらぶんだろうね。女の子は比較的<生産>が多い傾向らしいけどね」

「まぁ聞いてみないとわからんだろ」

「それもそーだね」


 そういいながら、俺とソーイチは自宅を出ることにした。

 今の時間は16時30分ほど。

うまく教えれるといいんだがと思いながら、俺達は"ユニコーンの公園"へと向かったのだった。

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