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神崎ハルという男 前編(2)

 結局……決着がついたのは、あれから2時間とちょっと経ったあとだった。

 巨大な熊の亡骸を背もたれにして、俺は息を切らしていた。

木漏れ日がまぶしい。なんだか達成したぞって感じがする。


「づがれだ」

「お疲れ様」


 ソーイチが頭にごつごつとぶつかって来る。

頭をなでているつもりなのか知らないが、普通に硬い球体が頭にぶつかってきてるだけなので痛い。


「ともかく、とっとと素材採って帰ることにするわ……くたくただ」

「そーするのがいいよ。あと、帰ってくる最中マツダヤさんで"とりパン"買って来て」

「あのな、くたくたな俺をこき使うか? 普通」

「だって帰り道にあるじゃん」


 はぁと溜息を付く。

 本当に人使いが荒い相棒だと思う。


「わかった、じゃあ買って帰ってやるから。せめて茶くらい入れといてくれよ」

「いーよ、それくらいなら」


 俺とソーイチが過ごしている家は、近くの町にある。

 二人で……というか主に俺がこうやって狩りを続けてやっとのことで購入できた夢のマイホームである。

ああ、サラリーマンの人たちが一生懸命働いてやっとのことで家を買うときはこんな気持ちなのだろうか、と思ったものである。


「じゃあ、採って帰るか……」


 俺は近くに置いてあったバッグから、小型のナイフを取り出す。

これは"素材ナイフ"と呼ばれていて、倒したエネミーから素材を獲得する際に使う道具である。


「よいしょっと」


 倒れている熊の上にまたがる。

 そこには、濃い赤色に輝いた球体が浮いている。

エネミー・コア。敵を倒した後に出現する球体である。

 これを壊せば、亡骸諸共一瞬で霧散するようになっている。

が、基本的にそんなもったいないことはしない。


「せいッ」


 俺はエネミー・コアに素材ナイフを突き立てる。

ジャキンという金属的な音が響き、直後目の前に青色のウィンドウが現れる。

宙に表示されているそのウィンドウは、"このエネミーから取得できる素材表"である。

この中から好きな素材を選択することで、その素材を獲得することができる。

 1,倒してエネミー・コアを露出させる。

 2,そこに素材ナイフを突き立てる。

 3,ウィンドウからほしい素材を選択する。

 4,素材がなくなるか、一定時間が経過するとエネミー・コアと共に勝手に霧散する。

 というのが、一連の流れである。


「っと、えーっと素材は……<森熊の皮>、<森熊の爪>、<森熊の牙>……か」


 俺は呟くと、ウィンドウの素材欄を全てタッチする。

 すると熊の亡骸の近くに<森熊の皮>が20個、<森熊の爪>が4個、<森熊の牙>が2個"ポコン"という音と共に現れる。

皮も爪も牙も、全部めちゃくちゃリアルである。


「素材採る時はこんなにゲーム的なのに、なんで素材自体はリアルなんだ」


 素朴な疑問を口にする。


「元々リアル志向だったらしいよ。ただ流石に剥ぎ取りとかをリアルに表現するのはまずいだろうってことで規制された」

「……まぁ確かに、毎回熊の皮とか剥ぎ取るのは勘弁願いたいもんな……」


 どうやら素材がリアルなのは、そのリアル表現の名残らしい。

確かにこっちのほうが雰囲気とかはでるけど、無理な人には無理なんじゃなかろうか……。

 と、さきほど素材ナイフを突き立てたエネミー・コアが全ての素材を採られたため霧散していく。

同時に熊の亡骸も霧散していき、跡形もなく消えた。


「よしっと」


 俺は周囲に出現した素材を、魔法鞄マジックバックに突っ込み立ち上がる。

今回の依頼は、森熊の皮を30枚納品する依頼だ。

あとはこの素材を、"引取り所"に持っていくだけで、達成となる。


「早く帰ってきてね、"とりパン"持って」

「わかってるよ。急かすな急かすな」


 と、森の外へ出ようとしたその時だった。

 

「いやあああ! 誰か助けてえええ! へるぷみー! へるぷみぃぃーー!!」


 俺が向かっている方向とま逆の方向から、叫び声が聞こえる。

随分コミカルな助けの求め方をしているようだが……、その女性の声はだんだんと森の奥へと向かっていた。


「……」

「……」


 顔を見合わせる俺とソーイチ。

絵面的には、球体のレンズと目を合わせているという状況だが。


「……あのさ、ハル」


 先に声を出したのはソーイチだった。


「まさかとは思うけど、助けに行くとか言わないよね?」


 "また面倒事に巻き込まれにいくのか?"という意味が、その言葉にはこめられていることだろう。

いつもの俺の行動パターンを、ソーイチは知っているからだ。


「……まぁあれだよソーイチ」

「どれだよ、ハル」


 町へと向かう足を、くるりと反対方向に向ける。


「助けに行くッ!」


 声と同時に、森の奥へと向かってダッシュする。

当然ヘルプミーと叫んでいる女性の方向へ、である。


「もー! やっぱりそうなるんだろー!? "ありがとう"も"お礼"も何ももらえてないくせに、なんでいっつもそうやって助けに走るのさ!!」

「悪いがソーイチ! これは俺の性分だ! 付き合い長いお前ならわかるだろ!」

「"わかる"けど、"理解"はできないんだよバカ!!!」


 ソーイチにどやされながらも、結局俺は気にせず森へと走った。


「あーもう! バカ! バカハル!」


 文句をたらしながらも、俺の後をついてきてくれるソーイチ。

いつも無理につき合わせてごめんと思いつつ、俺は森を駆けるのであった。

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