プロローグ
東京オリンピックから10年後の日本。
そろそろ祭りの熱気も冷めてきた、といったところでゲーマーを震撼させる出来事が起きた。
ゲーマー全員の夢だった、VRMMORPGのサービスが米国で開始されたのだ。
VR技術については、5年前から実用段階に入っているとの情報をサイエンス紙で見たことがあった。
だが最初にこの技術が使われるのは、医療とか介護とか、その辺りだと踏んでいた。
民間が触れられるようになるには、あと10年か20年はかかるよな……とか言っていたというのに。
まさか最初にその技術が使用されたのが、ネットゲームだったとは誰も想像できなかっただろう。
といっても、当時の俺はまだ小学生5年生。
VRMMORPGの報道を見て、狂喜乱舞する親父の姿が異様に滑稽だったのしか覚えていない。
そんな滑稽な父も、俺が中学生に上がる頃には死去してしまった。
まさか日本サービスが開始される前に死ぬなんて自分でも思っていなかっただろう。
親父の死んだ年から、3年後……。
様々なバグを取り払って、満を持して日本サービスが開始されたのは俺が高校一年の春だった。
叔母に引き取られて……あまりいいとは言えない新生活を開始していた俺は、ふと「親父があんなに喜ぶほどのゲームがどんなものなのだろうと」興味を持った。
特に他意はなかったが、小学生の頃の"あの光景"が妙に頭から張り付いて離れなかった。
あとは導かれるようにとんとん拍子。
毎日毎日学校帰りに、"VR屋"に立ち寄りオンラインゲーム《ジアピスト》を楽しむネトゲ廃人になっていた。
そして今日も、俺は《ジアピスト》で第二の人生……第二の現実を楽しんでいる。