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月下水鏡

作者: 渡瀬 由

 自分の作品としては結構、異質です。しかし、それ故に楽しいです。


 それでは、どうぞ。

 ある国に、それは美しい湖があるという。

 特に、満月の夜に湖に浮かぶ月は見事で見た者は老若男女の違いなく感動し、己が醜いとまで思わせる力があるとされていた。それ故に誰も近づかず、誰も探そうとしない。誰かが”行ってはならない”と長い歴史の中でそう言い続けてきたからだ。でも本当は―――。



 その噂を聞きつけて王国の王女がお忍びでその湖を訪れた。結果は――。



 奇妙な醜い獣の姿を映しだしたその湖に王女は激怒し、王様に湖を埋め立てるよう進言した。王女のあまりの怒りに根負けした王様は兵を動員し、湖を埋め立てることにした。


「ああ、あの憎き湖め。わらわがあのような怪物であるはずがない。また私の心が濁っているなどということはないのだ」


「姫よ。落ち着くのだ。あと数日で湖の埋め立ても終わろう。そうすれば少しは心も安らぐであろう。さぁ、お供を連れ、鷹狩でも楽しんでまいれ」


 王様の言うとおり、姫は領内にある森へと鷹狩に出かけた。しかし、森の中でオオカミの群れに襲われた姫は瀕死の重傷を負って城へ運び込まれた。一命は取り留めたものの体は傷つき、その心にも大きな傷跡を残した。それというのも、襲ったオオカミは姫の顔を噛み砕き、自らがあの醜い獣のような顔になってしまったからだった。


「おお、姫よ。なんという事だ。これもあの湖の仕掛けたことだとでもいうのか! あの湖は一体……」


 それは王様でさえ分らなかった。ずっと昔、父の、祖父の代からあの湖にはそういう話があった。けれでも、どうしてなのか? という答えは誰にも分らなかったのである。


「王様、湖の埋め立てはいかがしますか? 準備は整っておりますが」


「我が娘をあのような姿にしたのがあの湖ならばその報いは受けさせなければならない」


「……はっ。では、そのように」



 その夜。

 湖には一人の若い兵士が明日の準備の確認のために残っていた。

 昼間とはまるで違う景色。満月の光に照らされる水面が微かに揺れる。通り過ぎる風が草木を撫で、その音は誰かが歌っているようにさえ聞こえてくる。


「不思議な景色だ―」


 素直にそう思った。

 この湖で何が起こったのかは一兵士である僕には知らされていない。ただ、湖を埋め立てよ、という命令があっただけだ。王女が重傷を負っても埋め立ての中止はしないらしい。


「誰も訪れないってのは寂しいもんだよな。今夜はこんなにも月が綺麗なのにさ」


 誰に言っているのか僕はわからない。ただ、そう言いたかっただけだ。


「今夜は僕一人だけだ。よかったら一緒に酒でも飲まないか?」


 本当なら酒なんて持ってきたら没収されるところだが、色々と噂のある湖で一人で居残るということで兵士長が大目にみてくれた。僕は小さなボトルのキャップを外すと、ぐい、と一杯飲む。そして、残りを湖へと流していく。


「なぁ、僕さ、この仕事が終わったら故郷に帰る予定なんだ。騎士に憧れて都まで来たけど、結局、兵士までしかなれなかったよ。小さな村だけど、いいところでさ。でも干ばつで作物が採れなくなって……。それで出稼ぎっていう意味もあったんだけどね」


 頬に吹き付ける風が、妙に心地よかった。

 まるで、親しい友人の様に何でも話せるような気さえしていたのだ。今思えば、それはあの湖が僕の話を聞いてくれていたのだと思う。


「でも、収穫はあったよ。王都は情報が多くて作物にいい肥料とかよく育つ種とかあるんだ。あまりにも高くて僕には買えないけどさ」


 木々が大きく揺れた。

 音が大きくて思わず耳を塞いでしまうほどの風だった。

 風が通り過ぎた後、大きく揺れた水面が落ち着いていくと同時に、今まで見えていた満月は大きな雲に隠れて見えなくなった。


「僕はそろそろ行くよ。また、明日な」


 背にした湖の底。

 その水底に小さな光が湛えていることを僕は知る由もなかった。



 翌日。湖は予定通りに埋め立てられていった。噂なんて最初からなかったように、何事もなく美しい光景の湖はもう二度と戻ることはない。



****



「それじゃぁ、元気で」


 僕は兵士を辞め、故郷に帰る日に湖のあった場所に来ていた。なんだか、呼ばれたような気がしたからだ。

 湖を埋め立ててから、王国には何も起こっていない。今まで通りの生活が待っていただけだ。今にして思えば、この湖の噂も、王女の話も本当はただの”偶然”だったのではないかと思うのだ。ありえない、けれども何かが連鎖して起きただけ。

 もしかすると、人間が広めた勝手な噂のせいで、あの湖は埋め立てられることになったのかもしれない。湖もまた、被害者なのかも。



****



 故郷に帰った日。

 疲れた僕が夜に荷物を整理していると、淡く光が漏れている見慣れない袋がひとつ出てきた。


 袋には、自分でも知らない”種”がいくつかと、小さな光を湛えている石がひとつ入っていた。


 童話や寓話的な物語を書いてみようと、書いてみた作品です。主人公らしき人物も含め、名前はありません。


 若干、捻くれた内容となっていますが、作者は楽しんでます♪


 読んでいただきまして、ありがとうございました。

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