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姉妹

生まれつき病弱で足も弱かった姉上はほとんど動くことができず、私の記憶にある彼女はいつも布団に

身を横たえていた。

友と呼べる人もおらず、いつも厳しい大人に囲まれて育った私にとって、2つ上の姉上は唯一気軽に話

すことができる家族だった。

姉上は病弱ながら、陰陽道に長けた人だった。

陰陽道を上手く扱えなかった私に、式神の創り方、扱い方を教えてくれたのは姉上だった。

「あげははきっと、良い陰陽師になれるよ」

修業が辛いと泣いていた時、そう言って慰めてくれた、優しい姉を、私は「香葉姉様」と言って懐いて

いた。

けれど彼女は突然、京の都の中で大きな権力を誇る一族に養子に出された。

事情を知らなかった当時の私は、いなくなった姉上について両親に必死で問いただした。

けれど両親は、詳しいことは何も語りはしなかった。彼女養子に出たのは、一族の存続のためだったの

だろうと、今になってそう思う。

彼女は守門一族の為の発展の為に、守門の名を捨てることを選んだのだろう。

彼女が新しく住むことになった屋敷を、一度だけ見に行ったことがあった。周りを深い竹藪で囲まれた、大きな屋敷だった。そして「香葉」という名は捨てられ、「香具夜姫」と呼ばれるようになったという。

私が10歳になった頃、弟が生まれた。彼もまた姉上と同じく病弱で、けれど陰陽道の力は京の都の陰陽師随一だと言われるほど優れていた。その容姿も、成長する毎に姉上に似ていった。まるで生き写しだ

と思えるほどに。

姉上が守門を去ってから数年が経ったある時、姉上は消えた。否、死んだ。「奪われた」と言ってもいい。

長月の満月の翌日、彼女は忽然と屋敷から消えた。

屋敷の者に問い但し聞くところによれば、星神という神が姉上を気に入り夜の空へと連れ去ったのだという。

屋敷に兵を集め抵抗しようとしたらしいが、まるで歯が立たなかったという。

「相手が神だったから、仕方がなかった」と彼らは言う。

そんなわけがあるか。

守門ならば、私ならば、身勝手な神から彼女を守ることができたはずだ。

もっと強くならねばならない。神になど屈さぬほど、強大な一族に。


 *  *  *


「・・私にはね、妹がいるの」

縁側に座り、下弦の月を眺めながら香具夜姫はぽつりぽつりと話始めた。

少し不器用で自己表現が苦手な子だけれど、本当はとても優しい子で、私の自慢の妹なのだとそう言った。

それからも時々思い出したように「あの子は元気にしているかしら」と呟いてもいた。

「そんなに気になるなら、会いに行けばいい。俺が連れて行くよ」

そう提案もしたが、彼女は首を縦には振らなかった。

「ありがとう三日月。でも、それはできないの。この屋敷から出てはいけないという契約をしたのだから」

「契約?」

「えぇ。私が此処に養子に出された時、交わした契約があるの」

「私が此処にいて契約通りこの地を守り続けさえすれば、この一族は守門を優遇してくれる。守門の名

は守られるの・・」

「それでいいのか?」

「いいのよ。私はそれぐらいでしか、一族のために働けないから」

そんな風に言って、彼女は微笑んで見せたのだった。


 *  *  *


姉上が髪を切ったんです。腰に届くほど長かった髪を、首筋が見えるほどまでバッサリと。

理由はわからないけれど、今までに見たことがないぐらい厳しい形相で、周りの制止も聞かずに自ら切

り落としていました。その様子を見ていたら、僕に気が付いた姉上に物凄く怒られちゃいました。

「いいから術の一つでも覚えろ」って。

そう言えば狐の君は昨晩、ご覧になりましたか?

北にある竹藪に囲まれた大きなお屋敷に、沢山の大きな光の粒が吸い込まれていったそうです。

まるで流星群が屋敷に降ってきているようでしたよ。

僕も詳しくは知らないんですけど、星神様が降りてきて、その屋敷の姫を攫って行ったとか・・。

攫われていく姫を、一体の妖怪が守ろうとしたって話も聞きました。でもその妖怪は、今はもう行方知

れずらしいです。

狐の君は、星神様のことはあまり知らないのですか?

あぁ、星神様は天つ神様なんですね。狐の君は、国つ神様ですもんね。そうでしたか・・。何故だか今朝から家中その話で持ちきりなんです。

あの屋敷のある地区は守門の担当するところではなかったはずなんですけど、姉上も朝早く慌てたよう

に出て行ったんです。それで、帰ってきたら突然髪を切りだして。

いいえ、僕にはさっぱり・・。

でも、姉上があんなに怖い顔をしていたの、初めて見た気がします。

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