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16章

だらだらと書いている間にめちゃくちゃ長くなってしまいました。

読めたら全部読んでください。

 いつも通りに一日が始まる。

 姉が昼食を作り、千加がそれを食べる。もうそろそろ介も起床して、階段を颯爽と下りてくるはずだ。2階から落ちてきた微弱な音を聞き、2人は介が目覚めたことを感知した。

 何か違う……。2人は同時にそう思った。介が起きたのは確かなはずだったのだが、いつものように颯爽と階段を下りてくる音が聞こえてこない。聞こえるのは鈍く、ゆっくりとした足音だけ。毎日同じ始まりなわけないか……、と姉は心中でか細い声を漏らした。

 その音は異常に遅かった。まるで何か重い鉄球を足にぶら下げているのではないだろうかと思えるような重々しさがあった。嫌な予感がする。姉は突然、手にしていた箸を机に置き、扉の裏に潜む階段へ駆けた。

 もうすでに2,3歩で床に着ける位置に介はいた。しかし、その表情は羞恥とはまた別の意味で真っ赤になっており、目は虚ろと化し、朦朧とした面目を姉に見せつけると、その肉体は魂が抜けてしまったかのように陥落した。突如倒れてきた介の身体を咄嗟の判断で抱き留めた姉は今の状況を把握できず、しばらく硬直していた。額に触れた手が熱さを感じ、唯一耳に入ってきた非常な速さの呼吸音を聞いて、ハッと我に返った。

「介、大丈夫!?」

 急に自らを叱咤するような激しい感情が心底から湧き上がってきた。弟がこんな状態なのに何をやっているんだ、と一喝し自嘲すると、すぐさま外に走り出て介を車に乗せ、病院へ向かった。


 ※※※


 時は少し流れ、学校ではいつも通りに登校してきた怜が一点の物を見据えていた。

 介の机だ。

「あいつ、学校休んだことなんかないのにな……」

 女になって鬱な気持ちが充満して病気にでもなったか? とでも憶測を広げてみる。それはランドセルから教科書を出す間際で、自分でもそんな格好で見ていたなんてことは浩介に話しかけられるまで気がつかなかった。

「怜、どうした?」

 ビクッとして、振り向くと、初めて見たという印象を強くする(てら)ったような浩介の面が目に映った。

「美咲のこと好きなんだろ」

 急に耳に入ってきた音を耳障りに思い、溜息をついて否定を呈する。この時、怜の横目の視野に映った浩介の何とも怪しげな表情。気持ちが表へ表れやすい性格の持ち主が今日は何を考え始めたのか、まだ怜には解らなかった。それ以降は浩介に言われたことが気にかかったのか、一切介の机を眺めることはなかった。



 放課後、怜は浩介に呼び出された。校舎の裏側にある放課後はほとんど誰も来ることのない体育倉庫の陰に呼ばれた怜。やはり、何か隠している。睨み続けてきた浩介の秘密が解るとなると、少し気が昂り始める。自分1人しか呼ばなかったことから推測すると、相当重大なことのようにも思えたが。

「なんだよ」

「あのな、ずっと隠してたんだけどな。実は……」

「実は……?」

「美咲ちゃんのことが好きなんだ……!」

「はっ!?」

 やっぱり、そんなことだったか! と驚愕しつつも、とは言ってもあいつ元男じゃん、と心の中でツッコむ。

「俺は実は、4月のあの日。美咲ちゃんが転校してきて最初に自己紹介をした時からずっと気に入ってたんだ。このクラスの女子たちとは一味も二味も違うと俺は確信したよ、うんうん。そして怜。4月当初お前の家に美咲ちゃんが来た時、女子たちの話の中で穂乃花は美咲ちゃんの好きなタイプの候補として俺を上げてくれた。しかし、彼女の反応はいまいちだった。それで俺は頑張ろうと決意したんだ。彼女が少しでも振り向いてくれるように。運動会でもできる限り頑張った。実は祭りの時も、巨大金魚を必死に救おうとしたのは彼女に少しでも興味を持たれたかったからなんだ。でも、結局はすくえず終い。そんなとき、彼女が自らあげる、と言ってくれた時は心の底から感謝し感動した。彼女の優しさを身に沁みて感じた。だから、俺も頑張ろうと思えたんだ。……(以下省略)」

 それから長々と浩介の話が続く。お前の妄想爆弾はそこまでにしておけ。頭がいかれてくるぞ。あと、そんな説得力のない頑張りを、別に見てもいない介に見せつけたふりして自己満足してても奴は振り向いてくれないぜ、と内面の怜がやれやれとしていた。

「……ということで今日はお見舞いに行こうと思う」

 絶妙な間を置いた怜は友人に同調し、

「俺もそのつもりだったけど」

 それを聞いて浩介、一歩後ずさり。

「な! まさか、お前も」

「はいはい、そんなわけないだろ」一々男女の関係について口出ししてくる浩介が誠に煩わしく思い、否定した。

 そんなわけで2人は介のお見舞いへと赴く。



 2人で介の家へ行った。

 行く途中、浩介はずっとそわそわオーラを周囲の家々に振りまきながらと干していた。怜は浩介のオーラを無理やりに無頓着オーラで押し返し、それが因子となって歩く2人の間には人っ子ひとり入れるような空間が開いていた。そこに介を入れるのだろうか。

 介の家に着き、怜は浩介の前に躍り出て、ピンポンを押して許可を得る。

 承諾を得て、沖嶋家に足を踏み入れる。怜はいつもながらの態度で介の姉と話す。

「美咲どうですか?」

「今はもう落ち着いたわ。最初はすっごい熱あったから大変な病気かと思ったけど、ただの風邪だったみたい。運動会の練習で疲れが溜まってたのかも」

「そうっすか」

「あ、後ろの子は?」

「あっ、お邪魔します」

「あれ? 浩介君……だったっけ?」

 自分より目上のお偉いさんに初めて会って恐縮した時のような声音で「はい」と答えた。

 女子の家に遊ぶに行くことはまずしたことがないことは浩介の行動から解る。怜は夏らへんに一度、美咲のビキニ姿を見てからは慣れてしまったようでこうしてくるのは数知れずある。

 怜と浩介は家の中へと足を入れた。



 怜と浩介は2階へと上がっていく。その階段の正面にあるのが美咲の部屋。何度も来ているながらもドキドキしながら怜はそのドアを開けた。

 天使――いや、介(美咲)がベッドの上で安静にして眠っていた。その表情に何だか癒されるものを感じながら、怜と浩介は中へ足を踏み入れた。怜は介の近くに座るものの、浩介の方は好意の感情が我身を固定しているように介から離れた場所でじっと座っていた。まったく、お見舞いに来たものがお見舞いをせずにどうすると。好きな人を持つ男子がその好きな人に近づけないというよくいる恥ずかしがり屋の行動が充分に解る。

 人の寝顔をじっと眺めているだけでどうする、と思ったのか怜は思い切った行動に出た。寝ている美咲の足をまたぐ形となって傍らに座ると、その穏やかで安らかな表情をより一層眺めた。浩介が内心羨ましい気持ちを持ち始めているのはあからさまだ。しかし恥ずかしがり屋の浩介にそんな行為が真似できるはずがなかった。

「お前、何してんだよ」浩介の虫のような囁きが怜の耳は届いてだろうか。

 怜が何となく手を前に差し伸べる。その時――何の前兆もなく――それは起きた。

「あぁ、よく寝た」

 唐突に軽く欠伸をしながら、起き上がった介。あまりにもいきなりの介の目覚めに呆気を取られ、怜の手は先まで神経が行き届かせるのを忘れ、現在とてつもない事態が起発していたことに気がつかなかった。まだ眠気の覚めないぼんやりとした眼を目ヤニで滲ませ、介は今、自分の目前に座っていた怜を見る。

 それは驚きを抑えた後のことだ。怜は再度、驚天のごとく驚愕し、自分の手の居場所に気付いた。わずかながらに成長してた介の貧乳に触れている感覚をやっと今、怜の脳に送られた。触った快感など露知れず、怜と美咲は同時に目を丸くした。浩介も同様に、今目の前で起きているのが、夢なのか、幻なのか、全く把握できず、ただただ2人の不可解な体勢を見つめていた。

「へ、変態!」

 当時、千加がやってしまった時と同じだった。なぜかしら胸元に敏感な美咲の平手が怜の頬に風のように振られる。怜はそれを避けることもできず、頬を叩かれる。叩かれた怜の上半身が勢いよく壁に激突した。と同時に怜は気絶し、頬を真っ赤に腫らして上向きでベッドの上に倒れた。

 こんなものは序章に過ぎなかった。ここからが空前絶後の前代未聞の奇蹟の始まりだったのだ。我に戻るはずの介はまだ風邪の影響もあったのか、たった一発のビンタで力が抜け落ち、「あぁ、ダメ……」と言い残すように言うと、そのまま前方へ倒れこんだ。

 まるで、スローモーションのようだ。目撃者はただ1人。その光景を未だ驚きの表情のまま、浩介はその一部始終をびっしりと脳裏に刻みこみほど、漠然と眺めた。これは運命なのか。介が好きな自分を差し置いて、好きでもない怜がやってしまった時の浩介の気持ちは甚だしいものだった。

 2人の唇が触れ合った。

 階段を駆け上がってくる音がした。浩介の耳にそれは届かない。ドアが開き、声が発された。

「お兄ちゃん、どう――」

 不幸な入室者、その名も沖嶋千加。

 千加の目と浩介の目、そして気絶した怜とキスをする美咲が三角関係に並んだ。静けさなど保てるものではなかった。幼い千加に感情をこの状況に対抗するよう制御するのは難儀である。千加は抑えられず思わず言い叫ぶ。

「お、お姉ちゃ~ん! お兄ちゃんが怜君とやっちゃった~!」



 靉靆たる飛行機雲が今日な一段と長々と感じられる。もうすぐ雨雲が襲いかかってきそうだ。純粋な色をした雲が町いつも通りに面倒ながらも学校へ行くと思ったら、今日はそうでもないようだ。ソファーの上で横になった介は落ち込んだ口調で昨日の苦話を語り始める。

「よりによって、何で人生初のキスが怜となんだよ」

「仕方ないじゃない」

「こんなんで怜に顔合わせられないよ」

「それで、学校休むの?」

「うん」介は寝転がったまま小さく頷いた。

 結局のところ、風邪は完治したのだが、今日も昨日の風邪を引き継いで休みということにしてしまった。


 ※※※


 時を同じくして、怜の家でも……。

 怜はベッドに横になって父に言い訳をしていた。

「父さん。俺、今日調子悪いから学校休むわ」

「どうした? 介ちゃんの風邪がうつったか? 昨日見舞いなんか行ったから」

 毛布の中に顔をうずめ、風邪を強調する行為をした怜を顔だけ出せるぐらいに開けたドアの隙間から見つめる怜の父は心配しかける顔をした。

「いや、もっと酷いかも……」

「ひどい?」

「い、いやぁ、大丈夫だよ。明日は行けるから、今日は休ませて」

「そっか」

 怜父は部屋のドアを閉め、顔を引っ込めた。

 まったく、怜も介のどうかしている。キスしてしまったぐらいで学校を休むことなど非常な出来事に過ぎないのだが、2人同時に同じことを考えていることは滑稽譚(こっけいたん)になる。2人は1日中自分の唇を触りながら、昨日のことを思い出していたのは言うまでもないだろう。が、2人が青春的か恋愛的な何かに近い不可思議な感覚に捉われていることは例外なことなのかもしれない。



 次の日。

 怜がまだ登校してきていない学校、その教室の一角で浩介はどんよりムード全開中の全開で煩悩まみれになっていた。机に顔を伏せて、頭の上に闇を漂わせている。心配して声をかけようとする者も多数いたが、あまりにも暗すぎるうえ、「どうしたの?」の返答は「怜が……怜が……」しかなく、そのうち放っておく人の方が多くなった。

 そしてその者は現れる。

 若干暗澹とした表情を浮かべながら怜が教室に入ってきた。

「あっ、怜君。浩介君が『怜君、怜君』言ってるんだけど」

 とある女子の言葉に浩介はピクッと反応した。怜が教室に入ってきたのを察知したのである。浩介は昨夜3時まで深夜アニメを見ていて今日は授業を受ける気がしないと最初から睡眠モードに入っていた生徒のように、伏せていた顔を勢いよく持ち上げた。そして、その行為に対して叱った先生に反抗した生徒のような目で怜を凝視する。

 ずんずんと大股で怜のことに近づく浩介。怜を首元をつかんで引っ張り、廊下に出させる。「なっ、何すんだよ」と状況把握ができていない怜のことなどお構いなしに浩介は怜を拉致した。

 怜が連れてこられたのは、今年度は誰も使用していない空き教室だった。

 連れてこられた怜は別に私刑されるわけでもなく教室の中心に立たされた。対峙する二者。

「どういうことだよ」

「何が?」

「おととい」

 怜は浩介の言いたいことを理解した。おととい何があったのか、なんて考えるまでもない。朝もずっとそのことを考えながら学校に来ていたのだから、それが思い出せないという方がおかしい。

「アレは……その……単なる偶然だよ」

 何に含まれる出来事――怜と介(美咲)のキスである。しかもその大事件の現場に居合わせていたのが浩介である。そして浩介は美咲に好意を懐いていて、美咲に何の行為も寄せていない怜がまさかあのタイミングでアレをしてしまうなんてことは考えもしていなかった一少年。自分の方が好意を寄せていたはずなのに、なんの行為も持っていない男に先を取られてしまった。そんな現実が、浩介の嫉妬を爆発させていた。まるで、殺人事件の犯人とその犯人に殺害された息子の父親が初めて対面した時のような緊迫した雰囲気だ。

「ぐ、偶然って……お前、あ、アレ狙っただろ」

「狙えるかあんなもん! 俺だってつくづく運が悪かったんだよ。ったく、俺だって初キスがあんな展開だなんて望みたくはねえんだよ」

「俺はそれに嫉妬してるんだ。何であの()の唇に触れられてそんなに悔やんでるんだ」

「俺はあいつのことはそんな好きじゃなかったし。ま、可愛いっちゃ可愛いで噓じゃないんだけどな」

「そうだろう。それなのになんで好きにならない?」

(いや、お前は俺に美咲を好きになってほしいのか)

「いいだろ。人の勝手だ。世の中にはもっと可愛い奴は山ほどいるぜ、多分」

 一瞬納得したような顔をした浩介は、少し思い出に浸っているような時間を開けて、思わず追想から解き放たれたかのように怜に訊いた。

「そういや怜。お前、前の学校では美咲ちゃんとはどんな関係だったんだ?」

「別にそんな大した関係じゃない。ただの……親友っていうか。恋愛的な感情はお互いに一切ないつもりだけどさ」

「でも、お前、結構距離は近かったんだろ?」

「まあ、一緒に遊んだこともあるし」

 男の頃だけど。介が女になってからは、異性という面で見てしまっていて遊ぶだとかいうことに羞恥というか抵抗らしきものを受けていたこともあり、今年の介との遊戯時間は去年よりも圧倒的に少ない。一緒に外でサッカーとかしてた日々が懐かしいぜ……と怜は想起していた。

 そんな怜をよそに、浩介は素寒貧が一般人に金を要求するような格好で怜に頼み込んだ。

「頼む。どうしたら、彼女を振り向かせられるんだ。ずっと一緒にいたお前なら解るだろ。この通りだ。何でもいいから教えてくれ」

 頭まで下げて頼む浩介は真剣そのものである。そんな姿に気が緩んだのか、怜は微笑を浮かべ、磊落たる面持ちで返答としてこう答えた。

「そんなの簡単なことだぜ。本人に直接言ってやればいい。『好きです』ってな」

 浩介は動揺の形相で怜に顔を寄せた。

「そっ、そんなことできるわけねえだろ。そんなことしたら、相手の失礼にあたる、またはふざけていると思われるか笑われて終わりだ」

 あいつだったらどうだろう。多分、何言ってんだこいつ、男が男に告白するなんて馬鹿じゃねえの、ゲイかお前は、とか思うだろうな。

「でも、そんなのやってみなくちゃ解んねえだろ」

「でも、いきなりそんなのは……」

 怜はついに呆れた口調で、

「あぁもう解ったよ。俺が悪かった。いきなりそれでは喩えが悪い。なら、例えば最初は休日にデート――は行き過ぎだな――散歩……っていうか、まぁなんか誘ってみればいいじゃねえか」

「誘う……」

「そうだ」

「だが」

「まだ何か不満があるのか」

「やはり誘うといっても俺だけでは勇気が出ない。だから、その場をお前が隠れて見ていてくれないかな。親友としてだ。この通り」

 浩介は再び頭を下げた。

「ったく、お前はどこまで迷惑な野郎なんだ。それぐらい一人でやれよ」

 ついに諦観して浩介を見捨てて静まり返った空き教室から出ていこうとする怜。いきなり馘首された部下が上司にせがみこむように怜を背中を追う浩介。

「頼むよ、怜。何もしなくてもいいんだ。ただ、近くにいてくれれば」

 そんな情けない浩介の姿を見て、怜が深々と溜息を吐く。「ハァ……」

「ったく、解ったよ。承知しましたよ。だがな、正直言っておいてやると、そんなに女々しかったらあいつは振り向いてなんかくれないぜ。それでもいいなら引き受けてやる」

 浩介は顔を下げて、床を眺め始めた。何を考えているのか。こんなに女々しくてはダメだ。もっと雄々しくならなくては、彼女は振り向いてはくれない。自分が変わらなければ、現状は何も変わらない。そうだ、今こそ変わるときだ。などと己を叱咤激励しているのだろうか。それは浩介の返答に表れる。

「お願いします」

 やっぱりか。

 浩介、前進あらず。



 浩介と別れた後、ナイスなタイミングで介と遭遇した。浩介が一緒にいるとまた厄介事になりかねん。しかしながら、介も怜も互いにあの事件以降一度もあっておらず、これが以降初の対面である。

 介の顔は、今朝教室に入ってきた怜と同じように雨雲のように暗澹としたネガティブフェイスをしていた。そんな介をねぎらうように、怜は先手で声をかけた。

「か、介。あ、いや、この前はごめん。悪気はなかったんだ、全然」

「大丈夫。気にしてないから。それよりも怜はいいのか? 初キスだったんだろ? 俺なんかじゃ、なんかもったいないっていうか」

「いや、俺は平気だけどさ――」

 介も本気でそんなことを思っているわけがない。困惑の狭間をさまよっていた。怜も本当は気付いていた。介が噓っぱちを言っていることぐらい。怜は女としたと感じていたとしても、介はそうではない。初キスにして同性とのキス。それがどれだけ屈辱だったのかは考えるまでもない。

「……介。本当はどうなんだよ」

「別に。俺は噓言ったつもりはないけど」

「きっぱりと言え」

 怜のその言葉を聞いた介は少しの間、口の中で痰を転がすようにもごもごとさせ、真情を打ち明けた。

「そりゃあ……嫌だ。絶対に認めたくない。けど、もう事実になっちゃったから。どのみちこのまま女の姿でいなくちゃならなかったら、そういうことも出てくるだろうし、今回のことも仕方ないというしかないんだよ。ただ、それだけ」

 介の真情を聞けて満足したのか、仄かに申し訳中さそうな顔をしていた怜は一変し、シークァーサーのような爽やかな微笑を浮かべて介と顔を合わせた。

「ま。今まで通りに行こうぜ」

「まあな」



 放課後、先日前に怜が呼び出された体育館裏に、怜の二の舞のごとく呼び出された介。

 体育館裏はめったに人が来ないということもあって、完全な静寂に包まれていた。耳を澄ませば心臓の鼓動が聞こえてきそうなほどに、風の音すら聞こえない。

 介の目の前には浩介がいた。浩介の言われたとおり、怜も体育倉庫の陰に身をひそめてスタンバイオーケーである。一体、自分はこんな所で何のために何をしているのか、とこの数分の間にかれこれ何回も思ってきている。が、自分のためのはずはなく、親友のためをいうのは無論であるが、そうであるがために裏切るわけにもいかず、こうして訳の解らない任務を続行中である。

 そんな中、介は言う。

「何?」

「あ、あの、み、美咲さん?」

(あいつ、名前呼んだことないのかね?)と怜。

「ん?」

「いや、急に呼び出してごめん。い、言いたいことがあって……っていうか訊きたいことがあって」

「訊きたいこと?」

「こんなところにまで呼び出しておいて訊きたいことというのはどんな趣旨なのだろうか。浩介は何やら沸騰した湯のごとくそわそわしている。それが何か関係しているのか。今の介はそんな浩介の様子を窺っていることしかできなかった。

「訊きたいことって?」

 介はもう一度訊く。

「あ、あ……」

 浩介の口は、開いてはいるものの、まともな言葉を発してはなく、喃語を宙に飛び交わせている。

 途端に浩介は「ちょ、ちょっと待ってて」と言いながら手を前に出し、体育館裏に遁走していった。



「無理だ」

 浩介の息は、まるでマラソンを走りきった選手のように荒かった。

「何が無理だ。さっさと言っちまえばいいじゃねえか」

「そっ、そんな簡単に言えるかよ。呼び出すのにも精いっぱいだったんだからな」

「馬鹿たれ。ここまで来ても何だけどな、俺が言うのも何だけどな、ここまで来ておいて逃げるなよお前男だろ。『今度の土曜日ぼくとどこか出かけませんか?』ただそれだけだろ」

「だけど、あの可愛い顔を見ているとつい緊張してしまって……」

 浩介の顔が朱に染まっていく。

「あほ。ここ5ヶ月、ずっと眺めてきた顔だろうが」

「今この場に立ってこうしてみると日常では起こり得ることのない奇怪な現象が起きてしまうのだ。それがこれだ」

「何言ってやがる。それは単に自分を信じていないだけで、現実逃避してるだけだ。自信を持って行け。そうすれば絶対にうまくいく」

 怜の熱血教師並みの説得もあってか、浩介の顔が一変した。今までの慌てふためている顔とは違って、芯が入ったような真剣な顔だった。

「解ったよ。ここまで来て諦めるなんて男じゃねえな」

「そうだ、その意気だ」

 そう言って、怜は戦場に行く兵士を送るように浩介の力強く背中を押した。



 倉庫の裏に入っていってしまった浩介がいったい何をしているのかをその場で立ったまま覗けるはずもないのに無意味につま先立ちなどをしてぽーっと待っていると、何かさっきとは違うオーラを身に纏った浩介が倉庫の裏から出てきた。昨日まで殿下を護衛する城の一兵士だったものが次の日には魔王を討伐すべく旅立つ勇者になっていたような、それぐらい凜々しさというか何かが違っていた。日常基準値が平均以下のためにいきなりの変化にそう感じるのかもしれない。

 体育倉庫の裏でいったい何をしていたのかを考える間もなく、介は目の前に立った浩介の顔を下方から眺めた。

「ごめん、待たせて」

「いいよ。それで、訊きたいことって?」

 その言葉が空気中に出た瞬間、周囲が葬式並みの静けさに包まれた。緊張の一瞬である。

 体育倉庫裏で怜が介に気付かれないように浩介の姿を窺う中、2,3回つばを飲み込んだ浩介は言った。

「あ、あの…………」

 浩介の言葉がそこから先現れなかった。さらに神妙な空気になってきた。介の目の色はだんだんと怪しさを増していた。無理はない。何の事情も告げられずに、放課後家に帰って大いに遊べると思っていたところへの呼び出しで、それで呼び出されてみれば用件を一向に言わない。限界寸前だった。体育館裏に潜んでいる怜も「早く言っちまえよ」とエアボクシングを続けている。

「何? 用事ないならもう帰るよ」

 美咲――つまり、好きな人のその言葉が浩介の脳を刺激して、焦られ、言わざるを得ない状況を極限まで認識させた。

「あ、あの……今度の土曜日……僕と…………」

 ようやく出てきたその言葉。ともなって、介の帰宅を阻止した。

 それから10秒ほどの間があった。

 ここで言い切れば最後である。HPを1まで削ったメタルキングをあと1回の攻撃で倒せるというぐらいに枢要な瞬間である。

 浩介は言った。


「――()()一緒にどこか出かけない?」


「は!?」恐るべき勢いで体育倉庫の陰から怜が飛び出してきた。

 しかし、今の介に怜に注意を配る余裕はなかった。

 その冷や汗搔いた真剣な面持ちの浩介を、介はバカみたいにぽかんと口を開けて啞然と見ているしかなかった。



 次の日。

 介は駅前の公園にいた。言うまでもなく、お出かけの集合場所である。集合場所は浩介が決められるような状況ではなかったために、怜が代わりに設定した。

 デートをするにはもってこいの空に燦々と太陽が輝くぽかぽか陽気の中、集合場所で残りの1人――浩介を待っていた男女はトークを始めた。

「怜、俺がどうして休日の朝っぱらからこんなことしなきゃなんねえんだ?」

「それは……とある事情があって」

「事情って?」

 怜はしばらく、戸惑いとか躊躇いとかいう感情を心底で少しずつ調和させ、そして口を開いた。

「正直に言うと、あいつはお前に好意を持ったらしい」

「は!? 俺に?」

 怜は首肯した。

「あいつ、俺とお前が仲いいことに嫉妬してるらしいんだ。お前のことが好きだけど、どうしても勇気が出ず、そのうえ、取り柄が少ないから自己アピールすることも出来なくて。で、どうすればお前を振り向かせられるのかって申し込まれたんだ。『だったら、直接本人に言えばいい』って俺は言ったんだ。そうしたら、あいつが勝手にこんな状況へ促した。ったく、まさか俺まで巻き込むとはな。こんな貴重な休日に、何するのかも解らないのに男子2人と女子1人で出歩くなんてよ」

(実質、男子3人だけどな)

「俺だって、家にいれば男口調で大丈夫なのに、浩介はいるってだけでそれを封印したくちゃいけねえ。ったく、女口調も疲れるんだからな」

 愚痴を言った後、軽く溜息を吐いた介はもう一度口を開いた。

「でも、あいつ俺のこと好きだったなんて、全然気づかなかったけどな」

「まあな。あいつ1人で勝手に他人が自分のこと見てるんだって勘違いして、それをどんどん膨らましていく癖があるからな」

「同性から好きになられるなんて初めてだからなんか変な感じだぜ。気味が悪いっていうか」

 介は自分の両腕を交差させて互いに逆の二の腕を揉んで身震いした。

「くそもう。あいつはとことん迷惑な野郎だぜ。迷惑沙汰にもほどがある。まさか介と二人だけのデートであるはずのところに俺を巻き込むとはな。末恐ろしいぐらいの根性なしだった」

 そんな愚痴をこぼしながら怜は腕を組んで公園より見えるスカイブルーの空を見上げた。かと思えば、再び下方に目をやり、その先は介の衣服に向いた。

「それにしても、もっとお前シャレた服着てこいよな」

 介の今日の服装は、いっつも通りのシンプルな白色のTシャツ一枚と黄色のスカート、それだけである。特にもっと女の子らしい装飾がされているわけでもなしに、中身が男であることがよく解るファッションである。

「うっ、うっせえな。服なんてどうでもいいんだよ。俺だって本当はズボンとか穿きたいけど、仕方なくスカート穿いてんだからな。純粋な男のお前には解んねえだろうな、俺の気持ちは」

 ふんっと鼻を鳴らして怜と同じように腕を組み、背を向けた。そんな動作も何気に可愛い。浩介に見せてやったら確実にノックアウトだろう。

 ……浩介はまだ来る様子ではなかった。元より2人とも浩介には秘密で集合時間の30分前に集まるように打ち合わせていたためにいまだ集合時間にも達していないのだ。恐らく集合時間ぴったり、または少し遅れてくるであろう浩介のことを考えると時間に余裕が持てる。

「介」

「ん?」介は怜の方を一瞥し、振り向いた。

「とりあえず、今日の大まかな計画を伝えるからな」

「計画?」

 眉をしかめた介に顔を見るなり、怜は話し始めた。

「まず、できるだけあいつをご機嫌にさせろ」

「うん」

「そうすればあいつも満足するはずだ。単純だからな」

「うんうん」

「そして、恐らく最後に告白に持ってくるだろうから、その時は絶妙な感じに断れ。ふるわけでもなくオーケーするわけでもないぎりぎり。まぁ、ごまかせばいいんだ。それで丸く収まるだろうって寸法だ」

「ごまかせって言われても難しいな」

「ま、頑張れ。最後にふられた時の浩介の凹み具合はお前の演技力にかかってるんだ」

「俺、そんなに演技は得意じゃないけど」

「そう考える必要はねえ。できるだけ浩介に意識を配りながら、いつも通りに行動すればいい。あいつはお前の姿を眼中に捉えるだけで次の瞬間には大往生を遂げてそうなぐらいの小心者だからな」

「は~い」介は投げ遣りに返事した。

 そろそろ集合時間である。怜は自分の腕に付けている腕時計と公園に設置してある時計の時刻が合致しているのかを確認した。もうそろそろ浩介が来そうな頃合いに、怜は何か最後に言いたかったことを脳内から見つけ出したように介に後悔するようなことを訊いてしまった。

「ちなみにお前はどう想ってるんだ?」

「それを俺に訊くか、バカ!!」

 介が滅多に出さないような怒声が怜に向かって放たれた。と、その時である。

「あっ、遅れてごめん」

 ちょうどいい頃合いに浩介が登場した。

 若干……決めてきたようにも思える服装ではあったものの、外見は何らいつもと変わらぬ浩介だった。

「待った?」

「いいや、俺らも今来たところだぜ」

(ま、噓だけどな。ほんとは30分前からここで待ち続けてるんだ)

「そっか、ならよかったけど」

 浩介は安堵の息を漏らす。とは言え、浩介はきっちり時間を守って集合時間ジャストに来ているのだからそれが普通は正しいわけで、集合時間前から待とうなどと考えている奴の方がよほどアホであり、浩介の「よかった」はどちらかというと「2人がアホじゃなくてよかった」に換言できるようなものだ。

「それで、今日はどこに行くんだ?」

「えっ、それは……」

(こいつ何も考えずに誘ったのか)

 介と怜は寸秒の違いもなく、同時に同じことを思った。

 とは思いつつも介は怜より浩介をご機嫌にさせよと命令が出されていたので本音を吐くわけにもいかず、

「いいよ。3人で考えて動こうってことでしょ?」

「そ、そうなんだよ。そのつもりだったんだ。っていうかゴメン。こんなのに誘っちゃって」

「いいの。あたし元々今日は暇だったし、こういうのもたまにはいいかな~って」

「ソ、ソレハ、よか……タ」

(相当緊張してるな)

「だっ、大丈夫。のんびり行こう。ね?」

 介――というか既に美咲になっている――は今日の太陽の光にも負けないぐらいの輝きで笑った。怜はもう見てはいられずに顔を手で隠して違う方向を向いている。確かにご機嫌にさせろとは言ったがそれは反則である。世界中の女子の笑顔の集合体のようなものを見せつけられては男子としてもたまったものではなかった。浩介に至っては、感動の極致に立って中枢神経が停止してしまったようだ。蠟人形のように硬直している。

「浩介君、だいじょーぶ?」

 美咲は浩介の顔の前で手を振るが反応はなかった。まるで死んでいるようである。

 そうしていたら、怜に手を摑まれて美咲は公園の木の陰に連れ込まれた。

「怜、何」

「バカ、やりすぎだ。あんな笑顔向けられたら俺だって死ぬかと思ったわ。もっと控えめに。普通でいいって言ったろ?」

「は~い」介は投げ遣りに返事した。

 2人が浩介の元に戻ったころには浩介の中枢神経の機能も回復しつつあった。いったん現世から旅立った魂が再び主の身体に戻ったように浩介はハッと我を取り戻して美咲と怜の方を振り向いた。

「あっ、ごめん。じゃ、行こうか」

 そう時間を潰してもいられず、浩介の一言とともに3人は歩き始めた。



 それからのことを簡潔に説明すると、歩き始めた3人一行は今や秋の風物詩を眺めながら、何の目的もなしにぶらぶらと逍遥し、その間にどこへ行こうかを話し合った挙句、怜の意見によってゲームセンターに赴くこととなった。ゲームでいいところみせて美咲を楽しませたいということをわざわざ浩介のために配慮したのだが、そんなことも露知れぬ浩介は連れて行かれるような形でゲームセンターに向かって行く。

 ゲームセンターではカレカノのたまり場であり、デートと言えばの常套句に値するクレーンゲームに何故だか没頭していた。美咲の「取れない」の一言により、浩介が代わりにとってやるよと始動したものの、結局100円玉を10枚も費やしてしまうという大失態を引き起こした。その後にやった怜によってあっさりとぬいぐるみさんは外の世界に出ることができた。浩介、見せ場なし。

 その後も他のゲームコーナーでいろいろと競い合ったものの、怜VS浩介で浩介がWINすることはそうそうなかった。もうこんなのどちらかと言えば怜を有利にするために誘ったようなもので、浩介はただただ怜の引き立て役になっている自分が悔しくて仕方がなかったのだ。そんな浩介にも、美咲は浩介の機嫌が絶対的な方向へ向かうように声をかけ続けた。少しでもいい場面があったら、「すごーい」とか言って笑っていた。「正直、疲れる」が介の本音である。

「怜。もっと浩介に優しくしろよ。今日はご機嫌にするって言ったのはお前じゃないか」

 とある音漏れの心配のないタイミングで介は怜の耳元で囁いた。

「あいつをご機嫌にするのはお前の役割なんだ。俺は、俺がやりたいようにやるだけさ」

「なんだよ。俺ばっかに押しつける気か?」

「そうさ。俺が手を抜いたところで、それは不自然極まりないものでね。浩介でさえ多分気付くぜ。それであいつの気を混乱させるよりも、噓偽りのないお前の素のままの表情を見せていた方があいつのためになる」

 この歳で哲学者みたいなことをうそぶく怜に少々腹立ちながら、介は答える。

「解ったよ。ほんとに今日は気苦労が絶えないぜ」



 その後、ゲームセンターを出た3人は美咲の提案によって、喫茶店によることになった。一応は今日の裏スケジュールに含まれている項目である。

 喫茶店に入った3人は、とりあえず自分たちの席を確保した。

「楽しかった」

 楽しかろうが楽しくなかろうがとりあえずそう言っておく。

「それはよかった」

 ホッとした顔で浩介はいつもよりさらに一段階小さな声でそう言った。

 店員さんが来て、注文を訊いてきた。

 3人はメニューを披いて何を頼もうかを考え始めた。よくよく考えてみれば、小6の男女が喫茶店に来るなんてことは珍しいことなのではないだろうか。しかも、客観的には男子2人、女子1人に見えるが、本質は男子3人での来店である。喫茶店の風景としては違和感があるような気もしてならない。

「何にする?」と怜が問う。

 メニューを一通りじっくりと閲覧した後で浩介は何を思ったのか、

「じゃ、俺、コーヒーで」

「何?」とでも言うかのような目付きで、介と怜は浩介の方をチラ見した。別にコーヒーを頼むことを変に思ったわけではないが、浩介が頼むにはいつもの雰囲気と照らし合わせるとギャップがあった。2人とも今日の浩介の事情は前もって知っていたため、浩介がここでイツモトチガウ感を出してきてもすぐに適応できた。

「へー浩介君。コーヒー飲むの~?」

 せっかくいいとこ見せている浩介を押す美咲。

「大人だな、お前」

 何となく褒める怜。

「ま、まあね」

 自分で言っといて照れる浩介。

「それじゃ、俺は普通にorange juiceで」

「何で英語?」

「何となくだよ、何となく。それで、美咲は?」

「あ、あたしもそれと同じでいいよ」

 その後、「それじゃ、コーヒーとオレンジジュース2つで」と怜が代表者として誂えるかと思っていたら、それは妄想だけに留めておくかのごとく怜はもう一度美咲の方を向いてこんなことを言いだした。

「美咲、それだけでいいのか?」

「え……?」

「俺がなんか奢ってやるよ」

 奢るという言葉に反応したのだろうか。動揺しつつも、介はメニューを開き、「じゃあ」と前置きし、

「これで」

 介が指差したところにかかれていた名称は…………

 デラックスパフェ。



「ご注文ありがとうございました」

 店員さんがそう言って、店の奥に行ってしまうのを見届けて、怜は机に額をつけて魂をぬけさせた。

「お、お前……それはないだろ……グフッ」

 怜は、息絶えたふりをした。

「でも、奢ってくれるって言ったじゃん」

「うるさい。あんなの頼む奴がどこにいるんだよ。俺の小遣いを返せ」

 それを言うためだけに頭を上げて、言い終えるとまた机に額をつけて黙した。

「自業自得だな」浩介が冷徹な声で言う。

「じゃあ、みんなで割り勘しようぜ」

「だーめ。それなら最初から言わなければよかったじゃない。ほんと、浩介君の言うとおり、『自業自得』ね」

 それから数分が経過し、注文した飲み物たちと共に介のお待ちかねのデラックスパフェが登場した。

 山のように積まれたクリームにまるでそこから突き出た岩のようにありとあらゆるフルーツがつきだしている。ボリュームにして3人前はある。ただ、予想外にも介は調子に乗って注文したせいでそのあまりの大きさに圧倒されていた。男だった時の胃袋の大きさなら食べ切れたかもしれない、と思いつつ、今の身体の胃袋にこの物が入りきるのかと考えると心配で仕方がなかった。

「おいおい、大丈夫かよ」怜が心配そうに訊く。

「食べ切れるのか?」浩介も訊く。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 強気な発言しながら、介は第一口目を口の中へと放り込んだ。



「もうだめ。怜、食べて」

 まだ半分ぐらい残っているデラックスパフェを机の上に、介は腹を抱えてそう言った。

「何のために買ったんだよ。俺は遠慮しとくよ。浩介はいらねえか?」

 女子が食べた残りを食べる=間接キスも同等の行為ではあるが、怜はそれに抵抗を持ったわけではなく、浩介の勇気を試すためにわざと振ったのである。介は浩介のことを考えてわざと演技したわけではなく、本当に胃袋の限界がやってきたからなのだが。

「い、いや、俺もいいよ」

「でも、美咲は食べれないって言ってるから、俺たちで食べないと」

「だったら、じゃんけんで負けた方が食べるっていうのは」

「いいぜ。受けて立とう」

 心の中の怜はニヤリと笑っていた。(こんな時に限ってじゃんけんで挑んでくるとは、身の程知らずめ。貴様が俺に勝てる確率は皆無だ)

 怜はじゃんけんに関して浩介に100%勝てる自信があった。

 大体浩介はグーしか出さないのである。だから、パーを出せば……ほら。

 怜の勝ち。

 浩介は自分の出したグーの形をした手を見つめて、

「どうした? 食べないのか?」

 本来、うれしいご褒美のはずが罰ゲームのようになっている。なかなか食べない怜を見兼ねて、介も心配そうな視線を送る。

「浩介君。あたしが食べるからいいよ」

「いや、いいよ。俺が食べるから」

「元はと言えば、あたしがこれを買ったからいけないんだし」

「でも、無理して食べさせたくはない」

 介は浩介の気持ちをありがたく受け取って観念し、パフェの食事権を譲った。

 浩介はスプーンを右手にパフェを食べ始めたパフェの入っている容器の表面には美咲のブツがついているのをもろともしない食べっぷりである。半男半女介とは違って、100%純粋な浩介は食べ方も豪快だった。

 最初は勢いがあったが、後半は苦戦を強いられ苦労するものの、最終的には1人で残りの量を完食した。

「すごーい。1人で食べちゃった」

 軽く拍手をして頑張った浩介を励ます美咲。

「ま、まあな」

 お腹ふくらました浩介の顔は、何となく満足そうだった。



 浩介はパフェを食べ終わったころ、ちょうど店の外を同じく3人の陰が歩いていた。

 それは意外にも介がよく知る人物でもあった。

 穂乃花と春華、冬華である。

 休日ともあって、穂乃花が遥かと冬華を誘って、外を歩き回っていたのである。その途中に、偶然介、怜、浩介が来店していた喫茶店の前を通ったのだ。

 喫茶店の窓はガラス張りになっており、外から中の様子は丸見えだった。そして、喫茶店の前を通った穂乃花はそのガラス張りの窓を通して、3人を発見した。

「あっ、あれ、美咲と怜君と浩介君じゃない?」

「ほんとだ。何してるんだろ?」

「気になりますね」

 穂乃花が3人の瞳孔を推測しようとしていると、急に3人が荷物を片付けて動き出し始めた。

「あっ、動き出した」

 3人は店内をすたすたと歩いて、とっとと店から出ていってしまった。

「追うわよ」



 喫茶店を後にした3人御一行は、次なる場所へと移動していた。とは言え、次なる場所と言っても、特に行きたい場所はなく、後は浩介が美咲に告白をする、というメインイベントが残っているだけである。

「そう言えば、浩介君。どうして今日は外出しようって言いだしたの?」

「えっ、いやあ、その……あれだよ。たまにはこういうのもいいかなって……」

「ふぅ~ん。浩介君にしては珍しい気がするけど」

「そうかな。俺もたまにはこういうこともやるんだぜ」

「でも、どうして怜も誘ったの?」

 浩介はオーバーリアクションにギクッとして、

「そっ、そそ、そんなの美咲ちゃんと仲いい人も誘った方が楽観的だと思ったからだよ」

「うん。おかげで今日は楽しかったよ」

「そっか」

 今日2度目の言葉だ。浩介も充分に頷けた。

 そんなこんないろいろと会話を交えながら街道を歩き続け、3人は、ちょうどとある工事現場の横を通りかかった。筋肉隆々な体つきをした作業員たちが作業用の車を動かしては鉄筋コンクリートなどを運んでいる。町の中でもひときわギタガタと喧騒な音を立てるその場所を通った時、次の瞬間には思わぬ事態が起きようとは考えもせずに、3人はその横を通り過ぎようとしていた。

「怜、これ何造ってるの?」

「造ってるんじゃなくて、直してるんだろ。なんかの会社だろ、きっと」

「へぇ~、そうなんだ~」

「次はどこ行こうか」浩介が訊いた。

「まぁ、もう行く場所もないし、最初の公園に戻るか」

「うん、そうしよう」

「まぁ、いいけどさ」

 浩介の告白場所は、最初の公園へと必然的に設定された。公園での告白――。何とも言えぬ絶妙なスポット選択ではあるが、そこが一番無難なのかもしれない。万一に学校の屋上とか選択しても、かえってやりにくいし、行くのも面倒だ。

「ふふっ、じゃあすぐそこだから、あたし先に行ってるね」

 美咲は走り出した。その後ろ姿を怜と浩介は微笑ましい気持ちで見つめていた。この後の浩介の告白が終われば、今日一日はつつがなく終わっていく。皆が自分の帰るべき場所へと帰り、一日を終える。

 そんな普通の日常を迎える……はずだった――!

 美咲が駆けていき、ちょうど工事現場のアリア内から出るころに、突如、美咲の周囲が黒くなった。いや、暗くなったという方が意味合いがいい。そして、その場にいた全員がに戦慄が走った。美咲は上を見上げ、怜は硬直し、どこからともなくざわめきと未来を予知しての悲鳴が聞こえてきた。

 次の瞬間――。

 浩介は、まるで超人に覚醒したかのような見たことがない判断力で動いていた。落ちてくる鉄骨。上を見上げる美咲。そして、そこに跳び込んでいく浩介。全てがスローモーションに見えて、なおかつはっきりとしていた。

 ――ガシャン!

 鉄骨が地面にたたきつけられた。周りでその一部始終を見ていたすべての人々が、慄然としていた。

 下にいた少女と、跳び込んでいった少年は2人とも鉄骨に潰されたのだと皆が思い込んでいた。しかし――。

 鉄骨が直撃し、砕け散ったアスファルト。その横で、2人は生きていた。

 もう事は終わったというのに、浩介は必要以上に美咲を絶対に離すまいと必死に抱きかかえていた。鉄骨が落ちてきたのに気付いた瞬間、あぁ自分はもう死ぬのかとふと思っていた美咲も自分の開く目の感覚を確認し、生きている実感をした。そして、美咲の目の前にあったのは、目を瞑った浩介の顔だった。その浩介に、身体を抱かれているのを覚え、美咲は咄嗟に、気持ち悪く引っ付いてくる変態親父をはねのけるように、

「ちょ、ちょっと。離して」

 浩介の胸部を押して抵抗した。

 その美咲の反応をきっかけに、浩介はようやく意識が現実に戻ってきたらしく、目を開けて、美咲と目が合うなり、

「あ、あぁ、ごめん」

 と言い、慌てて美咲から手を離し、立ち上がった。

 美咲も自分の服やスカートについている土を掃いながら立ち上がった。

 その後、2人は何も言わなかった。しかし、2人は生きている。

 この場にいた総ての人が、奇跡だと思っていたに違いない。



 事件が起きた工事現場から数百メートル進んだ先に、最初の集合場所であった公園が見えてきた。

 3人は公園に入って、中央部で鯨の潮噴きのように噴きあがっている噴水の台の上に腰かけた。

 それから3人は何か会話をするわけでもなく、ただそれぞれに周囲の風物詩を観察したり、ぼんやりと空を見上げていたりして、無駄な時間を過ごしていた。

 しばらくして、怜は頃合いだと悟って行動に出た。

「俺、トイレ行ってくるわ」

 こうして怜がいなくなることによって、介と浩介の2人の空間が出来上がる。そうした方が浩介も堂々と告白できるだろうし、怜も傍観者として楽しみたかったからそうするのだ。怜はトイレがありそうな方向へと適当に駆け、そして、適当な陰に身を隠そうとした。

 その時、隠れようとした逆方向から服を引っ張られて、怜は公園の木の陰に引きずり込まれた。

 こんな強引な手を使うやつは誰なのか、と怜が後ろを振り向くと、そこには穂乃花がいた。ついでに春華と冬華も。

「ちょっと、これどういうこと?」

「えっ、あぁ、いや、お前らもいたのか」

「説明しなさい。10秒前」

 穂乃花が大声で「じゅう、きゅう、はち……」と言い始めるのを見兼ねて、怜は「解ったから、とにかく静かにしろ」と注意した。

 穂乃花が口元を止め、

「それで?」

「簡単に言うと、デートだよ。デート。浩介は、ずっと前から美咲のことが好きだったんだが、なかなか言い出せずにいて、先日俺の協力もあってようやくデートの誘いが言えたんた。でも、あいつもまたバカなもんで、2人で行けばいいデートに俺まで巻き込みやがったってんだ。そして、今の現状だ。いろいろなところを廻って、美咲に自分をアピールしたところで、最後の大舞台、告白っていう流れだ」

「……え?」3人揃って同じ言葉。

「浩介君は美咲のことが好きだったの?」

「だからそう言ってるだろ」

「そうだったんですか~」春華と冬華が同語する。

 怜はハアと1つ溜息を漏らした。

「それで、お前らいつから追跡してたんだ」

「うんとね、喫茶店出たぐらいかな。あっ、それよりも、さっきのクレーンのやつ凄かったよね。浩介君が跳び込んでいって、美咲を助けちゃうんだもん。まったく、美咲の命の恩人じゃないの」

「あぁ、それも踏まえてだな。これからだぜ。本番は」

 怜は気の陰から、美咲と浩介を見た。



 怜がいなくなって2人の空間が出来上がった。美咲と浩介は公園の噴水のわきに座っているのだが、互いに遠慮しているのかその間には3人ばかり入れるような空間が開いている。

 美咲はさっきから何ら変わらない体勢で、噴水の台から投げ出した足をゆらゆらさせて頭の中にポンと浮かんできた適当なリズムの鼻歌を鳴らしている。

 浩介はそんな美咲をチラチラ見ながら、タイミングを見計らっている。顔を上下させて、ぐずぐずやっているうちに決心したらしく、こういうシチュエーションによく現れる決まり文句を口にした。

「美咲ちゃん好きな人とかいるのか?」

「いないよ」

 浩介の顔に数マイクロの希望が浮かび上がった。

 浩介が次の言葉を口に出そうとすると、美咲が、

「あっ、それと、今さらだけど、あたしのことは呼び捨てでいいよ。今日を通して結構親しくなれたし」

「え、えっと、じゃあ、美咲……」

「うん」

 美咲はにこやかに笑って頷いた。

 その笑みに、浩介は苦笑を返した。

 浩介の希望の光が、数十倍に増大した。今が一番のチャンスである。いくら浩介でも、怜が自分のことを気遣ってわざとトイレに行ってくれたことは理解していた。このチャンスを無駄にしないためにも――。

 浩介の目つきが真剣になった。美咲をお出かけに誘った時のように。

「美咲」

 聞いたことがないほどに冷静な声だった。

(ようやく来たな)本音。

「何?」建前。

「今日、楽しかったって言ってくれたよな。そう言ってもらえると、俺も嬉しかったんだ。今日、こんなことして。俺、学校でも落ちこぼれで、運動神経もそれほどよくなくて、何もできなくて――今日だって、怜にいいとこ持ってかれ続きだった。そんな俺だけど――」

 急にこんなこと言われても、何言ってんだこいつ、って思われるに違いない。それでもいい。俺は、俺の言いたいことを言い切る。そう思い浩介は渾身の一言を放った。

「美咲……俺、ずっと前から君のことが好きだったんだ。付き合ってください」

 美咲の顔が赤く火照った。決して、わざとではない。わざとできるものではないから無論、自然と現れたものだ。こういう展開には介も敏感なのである。特に同性から初めてコクられたということもあって、緊張していたのだろう。

 動揺の極みを浩介に見せながら、

「えっ、ええ……えっと、あ、あたしは……その…………別に……」

 美咲は本音をぶつけた。

「好きじゃないです」

 全力で頭を下げた。

 浩介の全神経が活動を停止した、かのように思われた。

 俗に言うと、これは「ふられた」と言うのだ。

 浩介は地に膝をついて落胆しそうになった。そんな浩介を美咲の一言が救った。

「――でも、友達としてなら、いいよ」

 陥落した浩介の表情に光が戻った。

「あと、さっきはありがと。浩介君、意外と、かっこよかった」

 その時に見せた笑顔は、もしも写真に収めて売ろうとしても値段のつけようがないほどに完璧で完全無欠の代物だった。その場にいた全員が啞然と愕然の入り混じった表情をしており、シャッターチャンスを逃すまいとしていた穂乃花でさえそのあまりの可憐さに自分の目に焼きつけざるを得なかった。

「あっ、ごめんね。ちょっとトイレ行ってくるから」

 行くつもりなど微塵もない。怜の計画のうちである。トイレに向かったふりをして、振られた後の浩介の様子を窺うためである。

 介が物陰に隠れたのを見計らった怜は穂乃花らとこぞって哀れな男、浩介の元へと駆け寄った。

「あ~あ、ふられちまったな」

「やっ、浩介君。こういうこともあるって。でも、美咲を選んだのは間違いだったかもね」

 突如現れた予想外のメンバーに浩介は動揺を隠せない。

「おっ、お前らまで。まさか、全部見てたのか?」

「うん」穂乃花は自信満々すぎるほどに頷いた。

「あんなの見られたら恥ずかしいじゃねえか」

 浩介の顔が朱色に染まっていく。

「でも、浩介君、すごい勇気あると思います。感心しました」春華が言う。

 冬華の同意して「うん、うん」と首を振る。

「浩介。お前、やるときはやるじゃねえか。さっきのもすげえよかったぞ」

 浩介は悔やんだ顔で、

「何でそんな嬉しそうにしてるんだよ。俺はふられたんだぜ」

「だからこそだぜ。ふられたからこそ、大いに励ましてやるもんだろ。ここで冷かしても、何の意味もないからな」

「あ、うん。そうだよ。こんなところで落ち込んでちゃダメ。問題はこれからなんだから」

 怜と穂乃花の2人しての格言的励ましである。そんな言葉を聞いて、自分を見つめ直したのか、浩介は潜在的な悔しさを持ち合わせつつも、希望の包まれた微笑を浮かべた。

「当たり前だ」



 今日一日のプランはこれですべて終了である。

 美咲は、姿を見せるや否や穂乃花に跳びかかれ、そのまま拉致されて一緒に帰る破目となった。

 時刻的にはもう夕方で、6時を回りそうな時間帯である。町の陰から夕日が、残された2人のいる公園を照らしだし、朱色に染めている。木々も朱く染まった公園の真ん中、怜と浩介は噴水のわきに共に座っていた。

「あーあ、結局ふられちまった」

 空にぷかぷか浮かぶ雲を見上げてぼんやりした顔のまま浩介は呟いた。

 哀愁の情を漂わせる浩介に、怜は今日のネタバレをした。

「あいつ、本当はお前が自分のことを好きだったってこと、知ってたんだぜ」

「そ、そうだったのか?」

「それを解っていながらも、今日一日は普通にいてくれたんだ。感謝するべきだぜ」

「そんな……まさか、お前が裏で何かつるんでたんじゃないだろうな」

「そんなことしてねえよ。もしもつるんでたとしても、最後の美咲の反応は本物だと確信できる」

「じゃあ、やっぱり本当にふられたんだ」

 それを聞いた怜は浩介の肩に腕を回して、

「ま、いいじゃねえか。最後の美咲の反応からすると、どうやってもふられたとは感じられねえぜ」

「…………でもさ、俺、今日改めて解ったよ」

「何が?」

「やっぱり、美咲は怜の方が似合ってるよ」

「そんなことねえよ。俺はただ前々から交友関係もあって、お前よりもスタートの基準が高かっただけだ。もしかしたら、お前の方がいい相手になれる可能性だってなくはないんだぜ」

「それでも、今日のお前ら見てると、こっちが引き下がりたくなるほどに楽しくやってたからさ」

「簡単な話だ。俺の方が接しやすい。ただそれだけだ。これからお前も、だんだんとそういう風になっていけばいいんだよ」

「そうだけどさ……」

 浩介の気が落ち込み始めた。このままいくと峡谷の奈落の果てまで落ちて行ってしまうのではないだろうかと思い、怜は浩介に激励の言葉を贈った。

「ふっ……だがな、まさかあそこでお前が美咲を救うなんて思ってもみなかったぜ。あんな偶然の出来事に、お前よく対処したよな。感心したぜ。俺なんか地面に根を生やしたように張り付いて石像みたいになってたんだからな。お前は大した奴だよ」

「……違う」

 ぼそりと浩介が言った。

「え? 何が違うんだ?」

「あれは偶然なんかじゃない」

 どことなく、浩介が別人のように見えた。いつもはこんなことを言うタイプではないのに、今の浩介は何かがおかしい。さっきまでの落ち込みを引きずっているせいで余計にそう思える。

「どういうことだよ」

「あれは誰かが落としたんだ。クレーンを操縦していた人じゃない誰か。もっと直接的に鉄骨を突き落したんだ。俺はあの時、それを察知して思わず美咲を護ろうとして跳び込んだんだ」

「そんなわけねえよ。風の仕業だよ。そんなのいるわけねえじゃねえか。幽霊でもあるまいし」

「でも、あの時、確かに透明な何かが……」

 怜が何も返答しなかった。浩介も黙り込んだ。

 修学旅行当日の夜に部屋の中で数人集まって怪談話をした後のような森厳な空気が2人の周りを押し固めた。

 しかし、それも一瞬だった。

「なーんてな」

 浩介が開き直った。

「まさか?」怜が浩介を見る。

「冗談だよ、冗談」

「何だよ、冗談かよ」

「びびったか」

「び、びびるわけねえだろ。そんなの怖い話の部類になんか到底及ばねえぜ」

「まあ、いいや。帰ろうぜ」

嗚呼(ああ)

「とりあえず、頑張ってみるよ」

 夕焼けに染まった浩介の背中を、怜は追い駆けた。

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