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天国と地獄と一人の男(仮)  作者: 末広 ガリ
プロローグのプロローグ
3/20

02.おっさん発見

シン――と、静まり返った夜道に、一人の足音が響く。

道を歩くは齢22の男。

身の丈は190cm程で、外に用も興味もないからと、仕事以外は半ば引き篭もりのような生活が続いているというのに、“なんとなくそうした方がいい気がする”と言って、トレーニングを欠かさぬこの男は、無駄にいい体格をしている。

それはさておき、今宵は週に一度の散歩の日である。

時折立ち止まっては、何かを探すようにあたりを見渡しているこの男。

傍から見れば幾分奇怪な光景だが、幸い今は深夜。男の行動に疑念を抱く者はいない。

この散歩は四年ほど前から続いていて、男にとってはそれなりに大切な時間のようだ。





Side 男

こんばんは、死にたがりです。

私は現在、“奇跡の機会”を探していたりします。

家にいるだけでは起こりづらいと思ったからです。

時間を深夜にしているのは、人通りも少ないから多少不審な行動をしても問題ないからです。

それに、普通に歩いている姿でさえ、他人に見られるのは嫌ですし。

もう一つ理由があります。

それは、仮に“奇跡”が何者かの力によって意図的に起こるのだとしたら、それを起こす者はできる限り多数の人間には見られたくないのではないか…と思ったからです。


ちなみに今の私にとっての奇跡とは主に、


一つ、とにかく現世から離れたいので、なんらかの方法でこちらの意図とは関係なく致死量のダメージを受けることなどの“負の奇跡”。

二つ、異世界の人間との邂逅や、魔法やらの異能に目覚めたり、超大金が手に入ったりと言った、“正の奇跡”(起こった結果が正――良いこと――に繋がるとは限らないが、“起こった”ということ自体が私にとっては良いことである)。


の二つがあり、前者の“意図せず”の理由は、二つ目の起こる可能性…即ち“現世でもある程度幸せになれる可能性”を、未だに捨て切れていないからです。

つまり望ましいのは、“道を歩いていたら奇跡的にトラックが突っ込んできて死んだ”であって、 “トラックに突っ込んでいったら奇跡的に死ねた”なんてことは、現時点ではよろしくない…と言うことです。


しかし、やはり奇跡なんてものがそう簡単に起こるはずもなく、またそれを承知で探しているのにも関わらず、未だに家が近づいてくると気分が落ち込んできたりします。

通り魔でもいないかと思っては、背後を確認し嘆息。

次元跳躍した誰かが現れないものかと思っては、周囲を見渡し嘆息。

隕石でも落ちてこないかと思っては、夜空を見上げて嘆息。…あ、これで流れ星を見つけたことありますよ。もちろん願い事は叶いませんでしたが。



「生きている間に奇跡の光が我が身に降り注ぐことなど、果たしてあるのだろうか。」


答えが返ってくるはずもないのに、私はまた呟いてしまいます。

幾度となく繰り返したその問い掛けは、果てなき夜の闇へと吸い込まれていくように、私には感じられました――




Side out





結局、何も起こることなく今日の散歩は終わった。

風呂に入り、自分の部屋へと入った男は、いつものようにパソコンをつけ、ゲームをしたりウェブ小説を読んだりしながら、一日を終える。

こうして彼にとってのつまらない人生は、淡々と消化されていくのだった。








――数か月後。


am4:17

ある山にて――




美しい自然が一望できる山頂を求めて、そこには毎年たくさんの登山者が訪れていた。

しかし15年程前に木々が大量に伐採されて以来、山肌は露出して人気(ひとけ)も少なくなっている。

その山の中でも、ひと際高いところにある崖の上に、男は立っている。



「ふぅ…ようやくここまできたか。

しかし、この荒れ果てた山の持つ風情が分からんとは、みな見る目がないな。

綺麗だった時は腐るほど集まっていたのに、そちらの都合で勝手に汚した後は誰も寄り付かん。自然は可哀相だな。

…不倫とかと似てるような…。」




「…自然が強いのか人間が強いのか分からなくなるな。

確かに災害に抗うことなどできていないが、こうして自然を蹂躙している証拠を見れば、そう思うのも道理だろう。

自然相手には弱肉強食、人間相手には弱者を守れ…か。

まぁ人間も自然の一部だと考えれば、どうでもよくなるな。」


暫しの間その場で殺風景な山を眺めていた男だったが、徐にその足を前へと動かした。


「ふむ、この一歩ごとに命が削れていく感覚は、何とも言えん愉悦を齎してくれる。」






――数日前。



Side 男


あぁ…つまらん。

相変わらずの変わり映えしない日々、これからもこんな毎日が続いていくのかと思うと、本当にうんざりするなァ。

ネットで幸せとか売っとらんもんかねー。ないよねー。

うーん、奇跡を求めるようになってからもう何年になるかねぇ。

最初はとにかく死にたかったんだよな。

それで段々といい意味での奇跡を望むようになって…ここ一年くらいは転生(記憶をなくして新たな体で人生再スタート)でもいいかな、とか思うようになったんだわ。

記憶なしの現世行きとかってのは、もうこれ以上この世界に自分を送りたくないから却下だけど。

もしかしたら、記憶をなくしても、本人の根本的な考え方――心の奥底にあるモノ――みたいなのは、変わらないかもしれないから、それを考えると“次の自分”が可哀相で仕方ないの。

だってこんなクソみたいな世界にまた生まれるんだよ?

しかもこの考えが正しかったら、もう既に“今の自分”に至るまでに、この体は何度も同じような思いをしてるってことでしょ?

もういい加減、解放してあげたい。解放してもらいたい。

そう、思ってます。

…それで、記憶なしだとしても、いわゆる異世界に転生するのならいいかなと。

記憶ありで体も維持される異世界行きってのがベストなんだけどね、望み過ぎかな、と…最悪この世界ほど自分にとって理不尽じゃなければいいか、と思うことにしたわけ。

まぁその前に地獄を経由しなければならない気もするけども。



しかし…内容の良し悪しに関わらず、何かしらの“きっかけ”が自分の幸せの道への懸け橋となるものだと思って、待ち続けていたが、中々そんな機会には恵まれなかった。

まぁ、最初はそれほど期待はしていなかったけど。

神がいたとしても、そんな簡単に人には干渉しないだろうしね。

その後は願いが強くなったことにより、奇跡などあくまで偶然によるものだと思いつつ、少しでも確率を上げるため散歩に出掛けたりもするようになった。

結局今の今まで何も起こらなかったがな。


「あぁ!悲しいなあ!」



…私は自分が社会不適合者であったと、確信を持って言える。


自らの求めるものが得られぬ世界でなど、生きることに何の意味があろうか。

とにかく今はもう、生きていたくない。





「うん…そうだな、常世に行こう。逝ってしまおう、いい加減に。」




恐らくは現世で最大の幸せを…感じることができることだろうな。

この世に生まれ落ちたその瞬間からの決定事項を、今こそ実行しよう。

もう待っては居れん。

こちらから掴みに行ってやる。

待っていろ、未だ見ぬ我が幸福よ――




Side out









――舞台は山へと戻る。






「ふははははは!今!この瞬間こそが!我が人生に於ける至福の時ぞ!!

やはりここにあったか、我が幸福よ!いや、初めからここにしかなかったのだな…!」





落ちる――





「くぅーっ!感じるぞ、風を!大気を!我が生命の最期にして最高の輝きを!

これこそが私の求めたものよ!楽しすぎるなこれは…ククク。」





堕ちる――





「叶うのなら、件の転生のようになるか、もう次の人生などは存在せぬよう願いたいな…。」





胸の内に、現世で想い続け、結局叶わなかった望みを抱えながら、男は墜ちていった――














Side ???



「次………右へ。次………右。」




「ふむぅ…今日はヤケに数が少ないのう。」





「次……ん?なるほどのう…辛かったな、右へ。」



彼女のような子に、何もしてやれんのが悔しいのう。

儂にできるのは、精々が来世を幸せに過ごしてくれることを祈ることのみじゃ。







「次……。次……。」






Side out






Side 男



「んっ……ここ…は…?…知らない天井…すらないな。」



目を開けると、真っ暗な…星のない夜空のような、現世で俺が想像した自身の未来のような…ともかく、視界一面には黒色(こくしょく)が広がっていた。

そのままでは埒が明かないので起き上がってみると、足元も暗い、周囲も暗い。

自分が何かの上に立っている感触は感じられないが、確かに“直立した状態である”ことは認識できた。

今の自分は魂魄のような状態なのか、或いは一時的に感覚が麻痺しているだけなのか。




それはさておき、なるほど…これが「あの世」ねぇ。

現世の記憶を確認してみると、自分が“無事に”地面に叩きつけられ、最初に頭蓋骨が砕け散り、次は脳漿がぶちまけられるだろうというところまで――恐らくは身体が潰れたであろう瞬間の直前…までは思い出せた。

まぁなんにせよ、死んだことは確かだろうな。



フフ……フフフフフ……やったぞ…遂に俺はやったのだ!


イカンな、思い出すとまた興奮してきたよ…ククク。





未だ覚め遣らぬ興奮を抑えつつ、身体の状態を確認してみると、僅かだが感覚が戻ってきていることが分かった。

辺りをよく見ると、いくつかの青白い塊が見えた。恐らくは魂というやつだろう。

何故そんな風に見えるのだろうか。自分の体以外は、そう見えるようなシステムなのだろうか。それとも俺が特殊な状態なのだろうか。アレらに意識はあるのだろうか。話せるのだろうか。

そこまで考えて、ふと、自分はどうなのか声を出して確認してみようとしたが、そういえばここへ来た時に声を発していたな…と、その必要がなかったことを思い出した。

が、


「せっかく喋ることができても、相手がいないんじゃ意味ないよなぁ…。」



結局声が漏れ出てしまったことに苦笑しつつ前方に目をやったところ…




「……。……。」





距離の関係で聞き取れないが何か言っている、目算で4メートルほどはありそうなでっかいおっさんと、その脇にそびえ立つ二つの大きな(おっさんよりも大きい!)門が見えた――




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