18.おしまい
Side 龍哉
「ほい、飯出来たぞー。」
「お待たせしましたぁ。」
「おー…二人の作るご飯は、相変わらず美味しそうだねぇ。」
――地獄から戻って200年が経った…この前久しぶりに二人を連れてHELLに行ったら、リゼとルーシーがなぜか火花を散らしていた…なんてこともあったりしたが、相変わらず僕は平和な日々を送ることができている。
「リゼ様も挑戦してみたらいかがですか?」
「あー、ボクはパスだよ。昔やってみたことがあるんだけど、スッゴク不味いのができちゃってさ。
それに、二人にはとても敵わないし…食べる専門でいいや。」
「お料理楽しいのに…ね、龍哉さん?」
「まぁ楽しいな。普段はしないコト…例えば寿司を握るだとか、そういうのがたまにあると結構やる気出る。ただ、毎日はやりたくないな…飽きるし。」
「タツってば飽き性だからねー。ホント、よく鍛練が続くもんだと思うよ。」
「それはほら…何度も言うけど、もしもの時のための備えだからな。いくら現時点で最強だと言っても、誰かに抜かれたらマズいもん。
それに俺も男の子だし、強くなること自体に憧れがあるわけだから。」
「ま、結局今まで何にも起きなかったけどねー。」
「え、起きたじゃん。ほら、訓練教官のヤツだよ。あれだって“もしも、いきなり友人に鬼や悪魔を鍛えてくれと頼まれたら”って話になるでしょ。」
「うーん…そう言われてみれば、そうですね…。」
――儂が死んでから、今年で1945年じゃ。その間色々なことがあったのう。
地獄に行ったり、自分が神じゃったと聞かされたり、色んな奴と出会ったり…。
「うん。それに、この間適当に転移魔法陣踏んで遊んでたらさ、なんか森っぽいとこに出ちゃってさぁ、変なモンスターみたいなのが出てきたわけよ。もし鍛えてなかったら、俺あそこで死んでたからね。…いやまぁ正直この体じゃ死なないけど、そこから帰ってくるまでに何年かかったことか。モンスターに捕まったら、逃げられるくらいまでそこで強くならなきゃいけないわけだから。」
「何て言うか…それはさすがに、自業自得だよ…。」
「…確かにそうなんだけどね…。そもそも自分が強いこと前提でやった遊びだし。
…まぁ結局、備えあれば憂いなしってことだよ。」
「そうですねー。もしもなんて起きない、平和なのが一番です。」
「俺的には、お前らに危害が及ばないレベルのハプニングなら、たまには起きて欲しい気持ちもあるけどな。」
「…あ、そうだ!ならさ、旅行に行かない?」
「旅行?」
「そう!行先が決まってる転移魔法陣じゃなくて、転移魔法をランダムな場所に設定するの!
ね?ちょっとした冒険で面白そうじゃない?」
「ふむ…俺に提案したフリをして、リゼが行きたいだけのような気もするが、確かにそれはいいかもな。でも…お前ら仕事は?」
「……大丈夫♪」
「いや、何なのその間は…。ユニ、どうなの?」
「少し待ってください、アヌ様に確認してみます。」
「あぁ、頼む。」
――不安もありましたが、やはり死んで本当に良かったと思います。
みなさんと過ごす日々は楽しいですし、生前の私や、私の前世たちが憧れていたものがここにはありました。
「…それでね、地獄に色んな種類があるように、人間界も一つじゃないんだ。」
「並行世界ってヤツか?」
「うん、そんな感じ。だから今回は、人間界のどっかに行こう。天界じゃ冒険にならないし、地獄はどこも似たようなもんだしね。」
「んだな。」
「お二人とも、アヌ様からOKが出ましたよ。なんでも、お父さんの好きなだけ行ってきてください、とのことです。」
「パパってば、相変わらず龍哉にはとことん甘いよねー。」
「孝行息子だなぁ。後でお礼言っとかんと…。
あ、つーかさあユニ、もう一回お父さんって言ってみて。」
「えぇ?えと…お父さん?」
「うん、可愛いね。ごちそう様です。
……さて、いつ出発する?」
「あう、可愛い…。」
「んー三日後くらいでいいんじゃない?」
「了解。そんじゃアヌに礼言うついでに迎えに行くから、準備して待っとけ。」
「分かったー♪」
――…生キルという行為ハ、幸セを掴むための一ツの手段に過ぎないヨ。
「ほう…これはまた、見事なまでに知らんトコ来たな。」
「いいじゃんいいじゃん、楽しそうじゃーん♪」
「と、とりあえず…人を探さないと…。」
――もしも目に映っているこの世界がただの夢であろうとも、俺は俺が俺であるために、全力で今を守るだけだ。