15.拾った
Side 龍哉
HELLに来てからしばらくは、悪魔達の教育をして過ごした。
まずはある程度強くなってもらわないと、修行の相手にならないからだ。
そして空いた時間に一人で鍛練をする日々が続いているのだが…。
「…なにコレ?」
今日も教育を終えて鍛練に向かっていると、道端に何かが落ちているのを見つけた。
「えっ……なにコレ?」
落ちていたのは一つの籠…だが、問題なのはその中身だった。
「…何で悪魔と犬の赤ん坊?」
Side out
Side サタン
龍哉が来てからっちゅうもの、部下たちが自己鍛錬に励むようになりよった。
俺も今までに何度か注意しとったんやけど、部下の態度は改善されないままやったのに…。
あん時参加しとらんかった奴はそのままやけど、そいつらにやる気を出させるのは、今度こそ俺の仕事やな。
…やっぱり、アイツには他人を惹きつける何かがあるんやろうな。
そういえば昔の俺も、今のコイツらと同じように、アイツに惹かれていったんやったな…あ、そっちの気はないで!?友人として、や!
「おーい、サターン。」
そんなことを考えていると、鍛練に行ったハズの龍哉が戻ってきよった。
「なんや龍哉、鍛練行ったとちゃうんか…って、それ何や?」
籠みたいなん持っとるけど……子供とワンコロやないけ!
「…拾った。」
「拾ったって、なんでこんなモンが…。」
「捨て子ですかね…?悪魔にもそういうのあるんですね…。
とにかく、親がいないなら俺達で育てるしかないですよ。」
「…せやな。名前どうしよ。」
「んー…ルシファーっていますか?」
「ルシファー?聞いたことあらへんよ。」
「じゃあそれにしましょう!決定!」
「なんや妙にこだわっとるな…まぁええけど。」
犬は頭が三つあったので、それぞれ「ケル=ポーチア」「ベロ=ポーチア」「スゥ=ポーチア」と、これまた龍哉が名付けた。
こうして俺らに新しい…家族?仲間?…身内ができたんや。
――数年後。
「兄さん、今日はどないな修行する気なん?」
「んー?今日は目隠しして手を使わずに組手100本だぞー。」
あれからしばらくの時が経ったけども、あの子も俺らに大分懐いてくれとる。
まぁ、生まれてすぐに捨てられたみたいやし、物心つく前から俺らが一緒にいたんやから、当たり前なんやけどな。
あの子が20歳になった時に教えたんやけど――
「ウチにとっての家族は、おとんと兄さんとポチ以外にはおらへんよ!
子供を捨てるような親なんて、こっちから願い下げやで。みんなと家族になれて、本当によかったと思っとるわ。」
――って言ってくれたわ。
正直嫌われるかと思うたから、あん時はホンマに怖かった。
龍哉が、「子を産んだから親になるわけじゃない。血が繋がっているから家族になるわけじゃない。ただ、そいつのために命をかけられる者だけが、本当の意味で家族になれるんだ。」…とか言うとったけど、その通りなんかもなぁと思ったよ。
そう言えば、龍哉もここへ来るまでは大分苦労したんやったな。
聞いたところによると前世の記憶も戻したらしいし、多分その中で龍哉自身が親に捨てられたこともあるんやろうな…。
…っと、いかんいかん、辛気臭くなってしもうた。
にしても、龍哉の奴は相変わらずとんでもない方法で鍛練しとるな…ルーシーを巻き込まんで欲しいわ。
アイツみたいにネジ一つ外れてぶっ飛んだ奴じゃなく、しっかりしたええ子に育ったんやから!
「お前、他人の事言えないだろ…。」
…ま、まぁ俺も結構適当な性格なんは認めるわ。
ともかく、そんな俺と最早存在が常識外れな龍哉に挟まれて育ったルーシーは、頗る真面目な性格になったんや。
俺らに似てくれても嬉しかったんやけど、まぁ真面目になって…ん?
そういや龍哉ってたまにおかしくなるけど、普段はむしろ律儀で生真面目なトコあるよなぁ……はは、あははははは…。
「うっさいわ、早う鍛練行き!…ルーシー置いて。」
「えー!おとん、兄さんについて行ったらあかんのん?」
呼び方で分かったと思うけど、ルーシーの中では俺が親父で龍哉が兄貴っちゅう位置づけみたいや。
龍哉はほとんど鍛練ばっかしとるし、一緒に過ごす機会が多くて、年齢的にも12000歳を超えとる俺を親だとするのも間違ってはおらんと思う。
口調も俺の方に似たしなァ。
「行ったらあかんでルーシー…龍哉のぶっ飛び癖がお前にも移ってまう。」
「ええやんか、おとんのいけずー。ウチ、もう大人やで?さすがに今から兄さんみたいな常識外れになったりはせんよ。」
「なんだか酷い言われ様だな…。」
「あ、別に兄さんみたいになりたくないとかとちゃうで!
ただその…もう少し普通の鍛練して欲しいなって…。」
「フ…俺は自重しないよルーシー。『最強を目指す』…ロマン溢れる響きじゃないか…!
それにこれは、もしもの時にお前を守るためでもあるんだぞ。」
「兄さん……って、あかん。その気持ちは物凄く嬉しいけど、物事には限度っちゅうもんがある…見とるこっちがハラハラするわ。」
よく言ったで…!
なんや龍哉の奴、「画期的な鍛練方法を思いついた!」とか言うてからは、さっき言うとった目隠しや行動制限に留まらず、身体強化法をいじくって作った、身体弱化法まで使うて修行しとるみたいや。
いくら死なん言うてもやりすぎやろ…聞いた時はさすがの俺も頭が痛うなったわ。
つーか、そんなん使わな修行にならんくらい自分が強過ぎるなら、もう鍛える必要ないやろ。
「昔は『兄さんみたいに強くなりたい!』とか言ってたのになぁ…なんだか少し複雑な気分だよ。
…ま、いいじゃない。鍛練を怠ったので負けました、なんてことになったらマズいからな。
何だかんだ言っても、結局HELLに来てから死んでないし。」
「もうお前は上目指さんでええわ。正直既にこの世界で一番強いから。
後は現状維持でええ。お前の言う“もしも”の時がきても、お前なら余裕で切り抜けられるで。
よう頑張った、よう頑張ったよ龍哉君!…だから少しは自重せえ。」
「いや…“もしも”お前の言っていることが外れていたらどうするんだよ。」
…あかん。言い返せへん。
すまんルーシー、父ちゃんじゃ龍哉は止められんわ。
「つーことで、外れた時のために鍛練行ってきまーす。」
「あ、待って、ウチもついてくから。ほら、行くよポチ。」
「「わん!」」「ばう!」
「…行ってらっしゃい。」
ルーシー行ってもうた…。
さて、酒でも飲みながらゴロゴロしてダラダラ過ごすか。
Side out
Side ルシファー
「《秘技(嘘)・十連旋風脚》!」
「なんやねん(嘘)て…。」
兄さんは凄い。
ほとんど毎日、朝から晩まで鍛練やっとる。
やらないのはウチやポチと遊んでくれる時だけや。
同じことを毎日続けることができるって、素直に凄いと思う。
兄さんは“もしもの時”の為なんて言うとるけど、そんなあるかも分からない漠然とした目標の為だけに、よう続けられると思うわ。
前にそのことを兄さんに言うたら、――「誰でも、幸せの源となるものは守りたいものだろう?」――そう言うとった。
幸せの源…つまり、ウチにとっての兄さんや、おとんやポチのことかな。
確かに、兄さんたちがいなくなった時のことなんて、想像したくもないわ。
兄さんにとっては、何がその源とやらなんやろなぁ……ウチのことも、入れてくれとるかな…?
「入ってるぞぅ……《10連コンボ(笑)(蹴)》!」
「さっきっから、(笑)とか(嘘)とかやめんか!」
つーか、何でウチの考えてること読めとんねん…。
たまにおとんともそういうやりとりしとるけど、どういう理屈でそないなことできとんのか全く分からんわ。
長いこと一緒にいると自然にできるようになるんやろか…兄さんと一緒に居るのは、ウチもおとんも同じくらいやし…分からんよぉ!
でも…入っとる…入っとるって……ウシシ♪嬉しいわぁ。
「クッ…龍哉様、覚悟!」
「甘い…チョコ食いたい。チョコが、食べたい。チョコ大好き。《胡蝶乱舞》!!」
出たな甘党ならぬチョコ党…。
兄さんはしょっちゅう甘い物…と言うより、チョコ食べとる。
三度の食事は普通なのになんで間食だけ偏りまくっとんねん…。
甘いものは頭にいいとか言うとったけど、そんなに頭使ってんの正直見たことないわ。
鍛練方法とか色々オカシイし、脳筋なんかと思ったことも実は何度かあったりして…。
…ウチが知っとるのは、悪魔さんたちと一生懸命鍛練しとる姿と、おとんとアホみたいな話しとる時の姿と、ポチやウチに構ってくれる時の笑顔だけや。
そんな優しくてかっこいい兄さんは大好きやけど、もっと兄さんのことを色々知りたいと思うのは、変なんやろか?
「ふう…お疲れさん。みんなよく頑張ってるねぇ。
始めの頃とは比べ物にならないくらい成長してるよぉ。」
「「「「ありがとうございましたーっ!」」」」
「あいあい、俺の方こそいつもありがとうね。そんじゃ、解散しよか。」
「「「「お疲れ様でしたーっ!」」」」
「…毎度のことだけど、音量酷いからも少し抑えてね…。」
…終わったみたいやな。
「お疲れ兄さん。ハイ、お弁当。」
兄さんに駆け寄って、持ってきたお弁当と飲み物を渡す。
悪魔さんたちはヘトヘトになって帰るけど、兄さんはこの後も一人で鍛練するんや。
これは帰ってしまうみんなが悪いんじゃなくて、兄さんが凄すぎるんやと思う。
身体弱化とかいうヤツを使ってる時はさすがに疲れるみたいやけど、解いたら結局全然体力減ってへんねんもん。
「ありがとさん…今日も美味そうだな。」
お弁当は、いつもウチが作っとる。
ウチが小さい頃は兄さんが自分でやっとって、これがまたむっちゃ美味しいんやけど、やっぱしウチも女の子やし、そういうことしたいねん。
せやからある時兄さんにそれを言うて、それからはウチが作るようにしてもらった。
ちなみに朝晩はウチと兄さんで代わりばんこや。
最初の頃は兄さんに教わりながらやったけど、今では結構上達したと思う。
…ん?コレってさっき言うとった、“同じことを毎日続ける”ってヤツとちゃうか?
なんや、ウチもできとったんやな…やっぱり好きなことやからやろか。
まぁ、1500年以上も続けとるらしい兄さんには、まだまだ到底敵わんけど…。
「…そう言えば兄さん、“もしもの時”がきたとして、その時兄さんがおるべき場所におらんかったら、どないするん?」
ウチが前から気になっとったことを聞くと、兄さんはハッとしたような顔をした。
「………よしルーシー、俺は今日からお前を鍛えることにしたぞ!」
「…は?」
なんやて!?
「だから、鍛えるんだって。
確かにお前の言うことも尤もだから、念の為物凄く強くなっておこうな!」
「いやいやいや、ウチが?何でそんなことになんねん。」
「つまり、“もしも、もしもの時俺がいなかった場合のために、最低でも俺がその場にたどり着くまで持ちこたえられるくらいまで、ルーシーを鍛えておく”という選択肢を採ったわけだ。」
なるほどな…それやったら大丈夫やわ。
でも…。
「だとしても…無理やて、戦いなんてしたことないもん。」
「大丈夫、俺がついてるから。お前を絶対に失いたくないんだよ、分かってくれぃ。」
う…そんな言い方されたら、断れるわけないやんか…。
「…分かった、ウチ、やるわ。」
「うむ。そんじゃま、頑張ろう。
しかしこうなると他のみんなも鍛えておかないといけないな…サタンやアヌ、リゼはいいとしても他の奴らはハッキリ言って弱いからなぁ…。」
だ、誰や…分からん。
「…もしどんな攻撃も効かない敵が現れたらどうしよう…そんな奴いるのか?アヌに聞いてみなくては…。
しかし、息子たちにもそれぞれ把握できていないところがあるはず…全員が見落としているところがあったら、まずいなぁ…。
それ以前に、この世界は『一番上』なのか?今までの感じからすると、天界の神が人間界を管理してるっぽいけど、さらにその上があったら太刀打ちできないぞ…どうしよう…。」
まーた始まった。
兄さん、こうなると誰かが止めるまで考え込むからなぁ…。
「なにブツブツ言うとんねん…。
ほら、修行つけてくれるんやろ?早うやろうや。」
「…あ?あぁ…そうだな。とりあえず、鍛えないことには始まらないもんな。
ルーシーもやる気みたいだし、いやあ良かった良かった!」
ま、やるんやったら頑張らんとあかんしな。
よっしゃ!兄さんのためにもウチのためにも、いっちょやったるか!
《秘技(嘘)・十連旋風脚》――飛び上がる→蹴る→反動で更に蹴る→反動でry→着地。
《10連コンボ(笑)(蹴)》――蹴る!蹴る!蹴る!蹴るのだーーー!
《胡蝶乱舞》――チョコ食いたい。チョコが、食べたい。チョコ大好き――そんな思いで今日も舞います。チョコ→蝶湖→胡蝶。
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関西弁は分かりませんち。
ルシファーは堕天使じゃなく悪魔れす。
いつの間にか100年単位で時間を過ごす人たちは怖いですね。
好感度上昇話なんてクソ喰らえ。
やけ
くそ