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天国と地獄と一人の男(仮)  作者: 末広 ガリ
地獄編~調教~
15/20

14.HELL

Side 龍哉


アヌが俺(父親)の帰還を兄弟たちに知らせたらしく、あの日以降かつての子供たちが次々とちょっかいを出しに来る。

当時天界に居た人間も何人かここに残っていたらしく、その人たちまで挨拶に来た。

俺が戻ったのはアヌ同様やはり嬉しいようで、みな口々に「お帰り」と言ってくれた。

まぁ正確には本人ではないので少し複雑な気分だったが、それでもこうして暖かく迎えられるのは素直に嬉しいと思う。

しかし…お父さんお父さん呼ばれていると、本当に父親の気分になってくるから不思議なものである…。

そのうちリゼが、「おじいちゃん」なんて呼びださないか、少し不安だ。

俺自身はまだ結婚すらしたことがないと言うのに…。



「いや、呼ばないから。」



呼ばないらしい。安心した。

なぜリゼがいるかと言うと…特に何がどうってわけでもないな。

いつものようにユニを連れて遊びに来たらしい。

それにしても、最近我が家に来る頻度が増しているような気がするが、仕事の方は大丈夫なのだろうか。

おじいちゃんは少し心配です……あれ?

いやいやいや、違うから!おじいちゃんじゃないから!


…さて、魔法についてだが、やはり基本的には独学で進めることにした。

“始めの1”を感じ取るのには苦労したが、それが出来てからは実にスムーズに修行を行うことができている

やはり魂が天界に戻った影響だろうか、俺の体も随分とスペックアップしたらしい。

アヌに聞いたところ、元々前世でも様々な才能はあったが、やはり例の不運の影響で俺自身も知らない間に成長の機会を逃していたようだ。

ここへきて素質的にはほぼ完全に神だった頃の自分に戻り、今は色々な修行を精力的に進めている。

料理やらサバイバルやら、医療やら書道やら、とにかく何でもやることにした。

あ、そうそう。前に言っていた鍛冶も、しっかりと修行をしておいたよ。

自分磨きと言うのは面倒だが楽しいものだなぁ。

成長することに、俺の魂が飢えていたのかねぇ…。



「さて、そんなこんなで、天界に来てからはや400年ですなぁ。」


「いきなり何言ってるの…まぁ確かに、あっと言う間だったね。」


「ちなみにわたしたちが出会ってからは、365年です。

口に出してみると、物凄く長い間一緒にいますね…。」


「それでだな、ここらで一度地獄に行こうかと思うんだが。」


「そうねぇ…それもいいかもねぇ……って、なんで!?」


「なんかサタンが俺の旧友らしくてさぁ、そろそろ会いに行っておこうかなと。

そんでついでに自分を虐めてこようかなと。なんかここの所、修行が楽で仕方ないんだよねぇ。」


「そう…いつもながら、やることが急だね。」


「寂しくなりますね…。」


「すまんな…まぁ適当なところで切り上げて帰ってくるよ。」


二人と離れるのは俺も寂しいが、修行だって大切なことなのだ。

それに、幸せを噛みしめるためにも、慎むことは必要だ。

過酷な環境に身を置いてこそ、今のような幸せを感じることができる。


「うん、待ってる。」


「早く帰ってきてくださいね。」


「あぁ、お前らも元気にしていてくれ。」





………。


……。





リゼ達に挨拶をしてから数日…今私の目の前には、サタンのいる地獄行きの転送用魔法陣がある。

準備は多分万端だ。


「さて、行きますカネ。」


そうして私は、今日も新たな一歩を踏み出したわけだ。



「フム…ここがサタンの住処カ。」



他の地獄と区別するために、HELLと呼ばれているらしい。

まぁ結局意味は同じだが。


「にしても、暗いナ此処…。」


ほとんど何も見えんぞ…阿坊達の方はもっと明るかったカルカッタ!

ここは向こうとは違い、肉体ではなく精神的な責めを主体にしているらしいから、この暗さも一つの要素なんだろうな。

この孤独な環境で生前の己を見つめ、悔い改めるわけかねぇ。


「とりあえずサタン探そうカナ。」


見つかるかなぁ…コレ…。




Side out







Side ???


あぁ…暇やなぁ。

一応地獄の王として管理しとるけど、正直ほとんどやることがない。

部下の悪魔もおるし、何より罪人を罰するんは俺たちじゃあないんや。

とりあえず真っ暗なとこに放り込んどいたら、後は勝手に懺悔してくれる…システムとしては楽やけど、実際管理する側に立ってみたら、暇すぎておかしゅうなりそうやわ。

もうコレって、ある意味こっちにとっても地獄とちゃうんか…。

アイツがおった頃は楽しかったんになぁ…まさかあないなことになってしまうとは…。

チィッ!やっぱりあん時悪さしよった奴、しばいとったら良かったか…アイツは喜ばんやろうけどなぁ。



「…ん?おーい、もしかしてサタンかー?」


「見いひん顔やな。誰や?」


この坊主、なんだか懐かしい空気がしとるな。

…まさか…!


「俺だよ、龍哉。名前は神だった頃と同じだって確かアヌが言ってたから、これで分かるよな…。」


「龍哉!ホンマに龍哉か!いつの間に…どうやって帰ってきたん!?」


「いやあ、それがかくかくしかじかなんだよ。」


「ま、まるまるうしうしなんか!」


まさかまるまるうしうしだったとはなぁ。

でもかくかくしかじかなんやったら、何でまるまるうしうしになるんや。

それにかくかくホンマに大丈夫なんやろか…。


「それで、かくかくがしかじかだったんだわ。」


「…なるほどな!まるまるがうしうしだったとは驚きや!」


「カクカク。」


「マルマル。」


「しかじか。」


「うしうし。」



………。


……。





「…でも、龍哉が戻って来てホンマに嬉しいわ。

おらんようになってからの五千年間は、暇で暇でしゃあなかったからなぁ。」


「正確に言うと魂が戻ってきただけで、本人じゃないからな?

名前も同じだけど、別人だから。」


「んなこまいこと言うなや。

俺にとっちゃお前はお前、他の誰でもあらへん。」


「まぁ……いいか。

アヌが言うには、その頃の俺と性格はあまり変わらないらしいし。

育った環境は全然違うだろうに、よく似られたな…これも魂修復の影響か…?」


「ハハハ、そうやっていきなし考え込んだと思うたら、勝手に結論出しとるとこなんかソックリやわ。

なんにせよ、よう帰ってきたな。また会えて嬉しいで、龍哉。」


「…うむ。何か変な話だが、そう言って貰えると俺も嬉しいよ。」


「それで…ここへは修行に来たらしいな。アテはあるんか?」


「いや、特に当てはないんだが、まぁ適当に虐め抜ければいいかなと。

だがヌルいんだよな、暗いだけだと…。」


「ほんなら俺の部下を貸しちゃるわ。

大丈夫、お前の行ってたとこと違うて、こっちは人手不足どころか、手の空いたのが仰山おるからな。」


「そうか、助かる。ありがとう。」


「あぁ、あいつらも最近弛んどるし、修行ついでに叩き直したってくれや。」


「ククク…精々頑張るよ。」



ほら、龍哉が帰ってきただけで、こないにワクワクしとる自分がおるわ。

やっぱりこいつは最高やな!



Side out







Side 龍哉


当てもなく彷徨ってたらサタンに会えたよ!

マジでここのところの俺はヤバいな、運が。


それはともかく、修行のためにサタンが部下を貸してくれることになった。有り難い。

そうして現在、呼ばれた部下達が続々と俺の許へ集結しているワケだ。


「んー?これ200体くらいいるなぁ…サターン、悪魔は獄卒に比べるとどれくらいの強さなんだ?」


「俺も最近は向こうに行ってへんから正確には分からんけど、多分あんまり変わらんと思うで。」


「んじゃ、問題ないか。」


あっちでもそれくらいの人数とはやったことあるし、あの時より強くなった今なら余裕よりも余裕で勝てるだろう。

まぁとりあえず今日の所は、魔法の試し撃ちでもしましょうかね。


「よーし、集まってくれてありがとーう。

僕は神代龍哉って言って、今日は暇を持て余したみんなにお願いがあるんです。

…しばらく僕の修業に付き合ってくださーい。」


「メンドクセー」「怠い」「Ok!」「なにあれ強いの?」「イケメンキター!」「誰こいつ?」


「拒否した方も承諾した方も、これは強制なので返事の意味はありませーん。

ではとりあえず初めは、全員でかかってきてくださーい。」


「えー」「まぁ暇潰しにはなる…か」「全員って…大丈夫かよ兄ちゃん?」「イキマース!」


「なんやお前ら、さっさとやらんかい!解雇すんで!」


「「「ちょ…やりますからそれだけは勘弁してください!」」」


ナイスだサタン!

きっと田舎のお袋さんが仕送りを待っているんだろう…悪魔も大変だなぁ…ホロリ。






「用意はいいな?…全員、突撃―!!」


「「「オラアアァァァ!!!」」」


なんかリーダーっぽい奴の掛け声で、悪魔達が一斉に突撃してきた…と思ったら、なんと半数はその場で詠唱を始めやがった。

汚いさすが悪魔汚い…


「えっと…まずは魔法障壁っぽいヤツを張ってだな…。」


「よそ見してんじゃねえぞッ!」


「そんで、気で身体強化をして…っと。」


「オラッ!」


ペチッ


「痛くなーい!秘技、ただのパンチ!」


「ウワアアァァッ。」


…チープだな。

つーか、強化しなくても痛くなさそうだなこれ。

魔法も大して威力ないし…。


「…何なんだお前らは!正直弱すぎるぞ…こんなんじゃ修行にならないじゃないか!

やることがないからってだらけやがって…修行の前に、まずはお前らを教育シテヤルッ…!!!」


「あっはっは、やったれやったれ!」


サタン…これはお前がしっかり教育しなかったからでもあるんだぞ…。


「さて、それではお前達、一度死にかけろ……。」


「「「ええ~~っ!」」」


そう言って魔法の詠唱を始める俺。

悪魔達は俺を取り囲むように集まっているし、これがいいだろ。


「…バスガスバクハツ《焔獄陣》!!」


詠唱を終えると俺の周囲に魔法陣が展開され、その上で爆発やら炎やらなんやらが出ている。

「こういう魔法って憧れるよね」のコンセプトで作ったオリジナル魔法第一弾だ。

広範囲の敵を一気に殲滅できる優れものです。

しかし、獄卒達と同じように悪魔も火に耐性があるみたいだな…ただの重傷で済んでやがる。

俺の修業不足でもあるのか…?まだまだ伸ばす余地がありそうで良かったわ。


「続いて……黒よ闇よ!彼の者の精神を喰らい 破壊せよ…Schwarze Herrschaft《黒の支配》!」


これは簡単に言うと、精神を闇の中へ引きずり込む魔法です。

第一弾があまりにアレな感じの詠唱になってしまったので、「カッコイイ響きの魔法がいい!」のコンセプトで作った、オリジナル魔法第二弾。

悪魔達もこれで心身共にズタボロになってくれるはずだ……あれ?


「なんかヤバ目かこれ…死にかけどころか、本当に死んでしまいそうなのが大半だな…。

HELLの環境で生きてるなら、多少“暗くなりすぎても”大丈夫だと思ったのが間違いだったか。」


うーんと…まずは魔法を止めて、何か治癒魔法かけないと…!

でも死なないからまだ覚えてないんだよな…どうしよう…。


「……あ、これでいけるかな?……みんなっ!わたしの魔力を使って!Tare Nagashi=Iyashi《垂れ流しによる癒し》!」


いいのが思いつかなかったので、とりあえず俺の魔力を垂れ流してみると…あら不思議!怪我が治ってしまいました。

但し適当なので重傷すぎると治りにくいようで、幾人かは“立てない程度”までしか回復しなかった。

……早めに完全治癒魔法、作ろう。






「さて…自分たちの弱さが分かったか?

こんなんじゃあ滅ぼされても文句は言えんぞ…もし明日俺が100人に増殖して、ここへ攻めて来たらどうするんだ…。」


「…。」


フ…感動して言葉も出んか。


「自分の怠慢で勝手に死ぬのはいい、自業自得だ。

だがな…残された者達はどうするんだ?

家族は?恋人は?仕送りを待っている田舎のお袋さんは?

俺はお前たちに、大切な人を悲しませるような奴にはなって欲しくないんだよッッ!」


「た…龍哉様…。」


ほら、やっぱりだ!

悪魔達が涙を流しているぞ!


「いや、少なくとも初めの無言は感動とはちゃうやろ…。」


…うるさいぞサタン。

部下達が死にかけても微動だにしなかったくせに…この悪魔め!


「悪魔に悪魔は悪口にならんやろ。

…ま、それはともかく、相変わらずえらい強いなぁ龍哉は。

神様やっとった頃の記憶ないんやろ?一体どないな修行してんねん…。」


「…ただ、積み重ねているだけだよ。」


「そうかい…。

さて、お前ら!龍哉は人間だが、見ての通り恐ろしく強い。

ほんで、実は俺のかつての友人の生まれ変わりなんや。

だからってわけやないけど、みんな仲良うしたってくれ!」


…ありがとう、サタン。


「あい、そういうことなんで、改めてよろしくね。」


「「「よろしくお願いします、龍哉様!!」」」


……なんで若干崇められてるの?


バスガスバクハツ《焔獄陣》――術者の周囲の地面に魔法陣を展開し、その上で爆発やら炎やらなんやらが出たりします。

Schwarze Herrschaft《黒の支配》――精神を闇の中へ引きずり込む。

Tare Nagashi=Iyashi《垂れ流しによる癒し》――治ればいいなー、なんて思いを込めて魔力を垂れ流します。重傷すぎるとあんまり治らない。


――――――――――――――――――


特になし。

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