11.調査
Side 龍哉
ども、現在鍛練より帰宅中の龍坊です。
いやあ、やっぱり“気”って凄いね!
先日リゼの雷を浴びまくったけど、死なずに済んだもの!
正直普通に死ぬと思っていました。
意識的に使うとあんなに強化されるなんて、どうなっているのだろう。
今度誰かに詳しく聞いてみようかな…。
そんなことを考えつつ、家に到着した僕が扉を開けて見たものは…
「……あ、帰ってきた!おかえりタッツー。」
「お帰りなさい、龍哉さん。あ、あの……すみません。」
Side out
Side ユニ
龍哉さんと出会ってから数週間経ち、仕事にやる気を見せていたリゼ様にも、とうとう限界が来たようです。
「あーもう!ユニ、いい加減龍哉に会いに行くよ。」
「…そうですね。リゼ様がサボらないおかげで、近頃は仕事も捗っていますし…大丈夫です。」
わたしもいつも以上に頑張りました。
今まで休みがなかなかとれなかったのは、単純に仕事が溜まりすぎていた所為なんです。
普通にやれば、普通に休めます。
これからもリゼ様には頑張っていただきたいものですね。
「そうと決まれば、早速行きましょ!」
………。
……。
仕事を切り上げたわたしたちは、イードさんに龍哉さんの家の場所を聞いてやって来たのですが…。
「あやー…いないとは想定外。そう言えば、いついるのかとか聞いてなかったね…。」
「どうしましょう。このままここで待ちますか?
それともどこかで時間を潰してしばらくしたらまた来るか、日を改めるかですが…。」
「うーん、日を改めるってのはイヤだなぁ……おや?ユニ殿、鍵が開いておるぞよ?」
「えええ?ダメですよ、勝手に入っちゃ!」
「多分大丈夫。龍哉もこの前、余程の事をしないなら許してくれるって言ってたし。」
「家に許可なく入るのは、十分に“余程の事”だと思うのですが…。」
その後、結局リゼ様の押しに負けて、彼の家に入ってしまいました。
そうして、色々物色しようとするリゼ様を窘めつつ龍哉さんを待っていると、玄関の扉が開く音がしました。
「……あ、帰ってきた!おかえりタッツー。」
「お帰りなさい、龍哉さん。あ、あの……すみません。」
途端に扉の方へと飛んでいき、龍哉さんに声をかけるリゼ様。私も後に続きます。
「…あるぇー?何で二人がいるのかなぁ。この場所教えた覚えはないんだけど…ハッ!
もしかして、実は夢遊病を患っていた僕が偶然二人と遭遇して家を教えたとか…?」
「いえ違いますから…。」
相変わらず斜め上を攻めてきます…そこがまた楽しかったりするんですけどね。
ところで、今のは冗談…だったのですよね?
「イードに聞いたんだよ。ごめんね、勝手に入って。でもこの部屋以外には行ってないから。」
「ふぅん…構わないよ。最初に言ったけど、少なくとも君達なら大抵の事は既に許しているから。
鍛練で家を空けていることも多いし、使ってくれる人がいるとこの家も喜ぶんじゃないかな。」
「そう?ありがと。ならこれからもちょくちょく来ようかな。ね、ユニ?」
「リゼ様、いくら許されたからと言って、勝手に入るのはやっぱり抵抗が…。」
先ほどの言葉は、社交辞令のような気持ちで言っている可能性もありますからね。
でも、この方はそういう理由で、自分の本当の気持ちでないことを言う人ではないようにも感じますが。
「僕は本当に構わないよ。具体的に言うと、今の平和な時をぶち壊すくらいの敵対行動を取らないなら、まず怒らないはず。」
まぁ、それくらいしても怒らない可能性も否定できないけど。
龍哉さんは少し自嘲気味に笑いながら、そんな言葉を付け足しました。
何と言うか…やっぱり龍哉さんのお話は、冗談以外は全て真実のような空気があります。
でもそうだとしたら、なぜここまで許容できるのでしょうか。
「…ボクが言うのもなんだけど、ボク達が会うのは今日が二回目だよ。何でそこまで許してくれるの?
普通そこまでされたら…と言うか、現時点で怒っても不思議じゃない気もするんだけど。」
リゼ様も同じことを感じていたようです。
「まぁそこら辺はエンマにでも聞いてよ。あいつなら答えられるだろうし、水晶もあるから分かりやすい。
それよりさぁ、ご飯でも食べようじぇ。神や天使は食べないとダメな体だって、イード氏も言ってたし。」
水晶とは過去を見ることのできるアレでしょうか…と言うことは、過去に何かあった…?
リゼ様もまだ気になっているようですし、これは次の休みにもエンマ様を訪ねることになりそうですね。
急に訪ねるのも失礼ですし、帰ったら早めに連絡しておかなくてはいけませんね…。
「さてと…何食べる?」
わたしが思考に耽っている間に、龍哉さんは既に食事の準備をしていました。
「箱」も用意してあるようです。
「んーボクは何でも…やっぱ龍哉と同じの食べる。」
「わ、わたしも同じ物をいただきます。」
リゼ様もいつの間にか食卓についていたようで、わたしも椅子に座りつつ答えました。
リゼ様は龍哉さんのことを、本当に気に入っているようですね…わたしも似たようなものですけど。
「あー…神や天使だから食えないみたいな物とかあるの?」
「ないよー。ちなみに他の神や悪魔も一緒。」
「ふーん。じゃあ今日は扇風機でも食べようかね。」
なるほど、扇風機ですか……ん?。
「…扇風機!?」
「龍哉、そんな物食べるの!?」
「ククク…あり得ない、冗談だ。
ふと思い出したから言ってみただけよん。」
「何の脈絡もなくそういうことを言わないでください。
紛らわしいです…。」
「悪いが生前からの癖みたいなものでな、今更直せんよ。」
「もしかして、突然口調が変わるのも…?」
「そうだ。いつの間にやら染みついてしまった。
…それはそうと、メシだ。
普通に作ろうかと思ったんだが、お前らと話しているのも楽しいから、今日は箱から直接出させてもらった。
どうせ味は大して変わらんからいいだろ。」
そう言って、箱から料理を出す龍哉さん。
これは…たらこスパゲッティですね、大好きです!さすが龍哉さん、分かってます!
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「あいよ。いただきます。」
「「いただきます。」」
…うん、やっぱり美味しいです。
Side out
「そう言えば龍哉、勝手に入ったボクが言うのもなんだけど、鍵を開けっ放しだと不用心じゃない?」
「んー…例の箱もあるし、基本的にここでは盗みを働く意味がないからなぁ。
盗るとしたらその人が独自に作り上げたものとかだけど、今のところ我が家にはそれもない。
そもそも、ここにいる人間はみんな善人と言うか、悪いことをしない人のはずだし。
だから、少なくとも今の我が家は鍵を掛ける必要がないんだよね。
ま、もしどっかから邪神がきたら盗られるけど。」
「ふーん…だとしても普通は掛けると思うんだけど…。」
「だってほら、あれだよ…面倒。」
ズコッ…という音が似合いそうな体勢で崩れるリゼ。
龍哉のものぐさな性格が、ここで出てしまったようだ…。
その後は三人で談笑し、龍哉は笑顔で一日を終えた。
龍哉の家を訪れた数日後、リゼとユニの二人はエンマの許を訪れていた。
目的はもちろん龍哉の事を聞くことだ。
彼が怒らない理由、地獄にいながら天界に来ることができた理由、二人はそれが知りたかった。
そのために他人の過去を覗くのにはためらいもあったが、地獄から天界へ入ったという異色の経歴を持つ龍哉を、神として知っておく必要があった。
何か裏技的な方法で入ったのなら、彼の強さと相まって危険人物にもなりかねないからだ。
ただ龍哉への不信感など、出会ったその日に二人の中からは消え失せていたし、ここへ来たのも純粋に彼のことを知りたいという気持ちが大きいようではあるが…。
「や、エンマ!」
「こんにちは。」
「おう、来たかイシュタル。そこのユニから話は聞いておる。
龍坊のことを教えて欲しいんじゃったな。」
「そうだよ。龍哉もエンマに聞いてこいって言ってた。」
「いいだろう。水晶を取ってくるから少し待っておれ。」
エンマが簡単に許可をしたのには訳がある。
彼は既に龍哉の過去を知っていたし、龍哉には幸せになって欲しかった。
しかし自分は冥界の主であり、簡単に龍哉に会いに行くことはできない。
それ故、天界に住んでいる誰かに彼の事を知ってもらい、力になって欲しかった。
幸いエンマは二人と知己であったし、この二人になら任せられると思ったのだ。
「よし、持ってきたぞ。
何を話すにせよ、まず龍坊の過去を知っておいた方が分かりやすいじゃろう。
早速見せるから、目を閉じてくれ。」
………。
……。
「…彼はこんな人生を送っていたのね…。
何もしてないのに、龍哉にとって悪いことばかりが起こっていくなんて…。
ほとんど独りぼっちじゃないの。」
「特に晩年は酷いものですね…。
まともだったのは、生まれてからほんの数年だけですか。」
過去を見終わった二人は、目を腫らしていた。
「そうじゃ。ある意味、ユニとは真逆かも知れんのう。」
「確かにそうかも知れませんね…。
生まれつき病弱だったわたしは、生きたくて堪りませんでしたし、家族や周りの人もいい方ばかりでしたから…。」
「うむ。君のように生きたいのに死んでしまうのも不幸じゃが、龍坊にとって生とは辛いだけのもの。
死こそが唯一希望を見出せるものだったのじゃ。」
不幸にも色々な形があり、感じ方も人それぞれである。
「そんなの大したことない」と思う者がいれば、「そんなの耐えられない」と思う者もいる。
そして、龍哉にとって自分の身に降り注ぐ“時が経つにつれ加速度的に不幸が増していく”という不幸は、耐えられないものだった。
「…どうして龍哉さんは地獄に行くことになったのですか?
この場合ですと通常はそのまま転生することになるのだと思いますが。」
「それがのう…かくかくしかじかで彼の不幸を見抜けなかった儂が、刑期を10倍にして送ってしまったのじゃよ…。」
若干言い辛そうに語ったエンマ。
「何よそれ?あんまりじゃないの…!」
冷めた目でエンマを見る二人。
「い、いや、龍坊にはもう許してもらったんじゃ。
と言うより、初めからそんなこと気にもしてなかったようじゃがの…。
むしろ転生しなくて良かったと言っておった。」
「ハァ…もういいわ。で、なんで龍哉は怒らないの?」
「もう既に想像がついていると思うが、それは過ごしてきた人生の中で、感情が徐々に希薄になっていってしまったせいじゃな。
喜怒哀楽の中でも特に「怒」については、それが顕著に表れておる。
恐らく酷いことが起きるのが当たり前だった龍坊は、そういうことに慣れてしまったんじゃろう。」
「なるほど…悲しすぎる理由ね。」
「うむ。儂も彼奴には幸せになって欲しいと思っておる。
そして彼奴のことを知ったお主らには、彼を支えてやって欲しい。
頼めるかのう?」
「もちろんだよ。頼まれなくたって、やってやるわ。」
「わたしも頑張ります…!」
「それは良かった。
龍坊も儂や阿坊達なんかより、綺麗な女子が傍にいる方が嬉しいじゃろうて。
どうじゃ?友人として支えるより、嫁として支えるのもいいと思うのじゃが。」
探るように提案するエンマ。
「そ、それはお互いもっと知り合ってからじゃないとね!
まだ初めて会ってから日も経ってないし、そういうことを決めるのは早すぎるわ。
別に龍哉の事が嫌いとかってわけじゃないけど、あっちがどう思ってるかも分からないし。
神と人間っていう立場の問題もあるし、パパも許してくれるかどうか…。
…というか、ニヤニヤすんな!馬鹿エンマ!」
焦っているのか若干早口で話すリゼに、吹っ飛ばされるエンマ。
「わたしが龍哉さんのお嫁さん…。」
結局、満更でもなさそうな二人であった。
中身なし