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モブに転生した私に果たすべきシナリオはない  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
第二部 おかえり亭へようこそ

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第6話 レストラン兼アイテムショップ始めました!


「やっとだねお姉ちゃん!」

「ええ!」

 マリーのウキウキ声に、私も心が弾む。今日は記念すべき日であった。つい先ほど取りつけられた看板に私達は誇らしげな気分になる。これぞ私達のお店、その名も『おかえり亭』、そう、私は自身の夢であるマイレストランを持つ事が出来たのだ!


 場所はノートン村ではない。なんと私達はローザリア領の領都、オーランドにお店を構える事が出来たのだ。ぶっちゃけコネの力である。

 何せ私達のお店の真向かいさんは冒険者ギルド、父ハルトと母マリナの古巣だ。ノートン村を離れる事を渋った父が、どうしても領都にするんだったらと、ギルドの古い知人を頼って、この場所を確保したらしい。

 この立地だと必然的に冒険者のお客さんが多くなる。そこでマリーの出番だ。何と私のお店はアイテムショップも兼ねているのだ。薬学を専攻していたマリーは、マリー印の臭い袋など、色々冒険に役立つアイテムを作れる。

 疲れた冒険者達に私の料理を堪能してもらい、ついでにマリーのお店で次の依頼で使うであろうアイテムを補充する。一度で二度おいしい! それが私達のお店である。


 言っておくけど元の家主は追い出したわけじゃないよ? もともとここは旧ギルドの建物だったらしく、所有者もギルドのままで倉庫になっていたとか。だからうちの両親が元A級冒険者なのを良い事に、ギルド長にそんな勿体ない使い方していないで、有効活用するべきだーとまくし立てたらしい。

 

 本当に両親がご迷惑おかけして申し訳ありません。後悔させないよう私とマリーで良い店になるよう頑張ります。


 名前を『おかえり亭』に決めた理由は、依頼を終えて疲れて帰ってきた冒険者の人達を、温かく迎えてあげられたら良いなと思ってそうした。

 どうせ私は名前のセンスがない。カブトムシにサユリとエーコと名付けるくらいセンスがない。だから変にそれっぽい名前考えるより、ただ言ってあげたい言葉を選んだのだ。妹は相変わらず大賛成してくれました。


 そんな私も18歳になる。


 私がアルビオン国を自分の現実と認めてから、7年の月日が流れていた。





 やってきた翌日、とうとう私達のお店が開店間近となった。私達のお店は2階が居住区となっているので、通勤の必要はない。だから朝からみっちり仕込みは出来た。マリーも朝から自前のアイテムグッズの陳列に勤しんでいた。


 どっちも準備は万端! 後はもう開店の看板を掲げるだけだ。


「き、緊張するねお姉ちゃん」

「ええ、心臓がドキドキしてるわ」


 やるべき事はやったと思うけど、領都は色んなおしゃれな店がある激戦区、新参者の私達がどこまで通じるかは未知数だ。誰も来なかったらどうしようと心配する。でも……そんなの今更だ。駄目だったら駄目で考える。


「よし! 行きましょうマリー」

「うん!」


 迷いを振り切って勢いよくドアを開ける。直後雷が鳴り響いた。そんないらない空気は読まなくていい!! 雷と共に登場なんて私は悪の手先か!?


 というわけで『おかえり亭』開店初日、生憎の雷雨でございます。


 朝は晴れていたんだけど、急に雲行きが怪しくなっていて、今ご覧の有様だよ。かつて転生前の世界であったゲリラ豪雨ってやつ。

「ま、予想はしていたけどこんな天気でお客さん待っているわけないわよねぇ」

 軒下があるとはいえ、ここまで降られちゃね。

「……何かさっきより酷くなっているような」

 ついてないったらありゃしない。でも天気に文句言ってもしょうがないわよね。

「お姉ちゃん……どうしよう?」

「こんな天気でも向かいのギルドはやってるみたいだし、一応店は開けておこうか。また天気も変わるかもしれないし」

「……分かった」

 私達のお店のオープンは何とも物悲しかった。朝からこの天気だったらともかく、開店近くなってきてからのこれだから、気持ちの行き場がないという。話してしまえば余計現実に触れなければならないため、私もマリーも言葉少なく、ぼうっとして過ごす。


 それからどれくらいの時間が流れただろうか。


 天気は一向に良くならず、私は今日仕込んだ分どうしようかと悩み始めていた。どれ程のお客さんが来てくれるかは分からなかったため、そんなに多くは仕込んでいないが、初日から廃棄で赤字は嫌だなぁって憂鬱になる。

 日持ちに関してはマリーの商品は大丈夫であろうが、だから良かったねと心情的にはあまりならない。そんな彼女は現在虫かごのアルビオンオオカブト達と戯れていた。9代目サユリとエーコだ。といっても虫も近親婚繰り返すと良くないため、今では一匹残してそれの番となる一匹を用意するような形となっている、って今はそんな事どうでもいいか。

「ふわぁ」

 思わず大きなあくびが出る。昨日は緊張もあって余り寝られなかったし、今日も朝早くから仕込んでいたから、結構な疲労感がある。マリーもとうとう机に突っ伏してしまった。もう私も目閉じちゃおうかなぁって思った時の事だった。


「ごめんくださーい! このお店ってやってる? ここってレストランだよね?」


 突然お店の入口のドアが開き、男の人が一人入ってきた。


「え、あ、はい! お、お客さんですか!?」


 急すぎて挙動不審になってしまった。遅れてマリーも飛び上がる。それを相手は自分の姿が酷くてびっくりしたと取ったらしい。苦笑しつつ私に確認を取る。


「一応そのつもり。ずぶ濡れだけどかまわないかな……ははは」


「全然大丈夫ですよ! ちょっと待ってください。マリー、タオル持ってきて!」 

「はーい!」

「あの、何人いらっしゃいます? 外に何名かいらっしゃるみたいですが」

「自分含めて三人かな」

「マリー、三つお願い!!」

「分かったー!」

 マリーが上の階にかっ飛んでいったのを確認した後、私は男の人に話しかける。

「まずはお仲間も連れて入ってください。あ、後上着は暖炉で乾かしますよ」

「ありがとう。まさかこんなに降られるとは思ってなくて……ちょっと仲間呼んでくるよ」

 男の人はそう言って外で待っている仲間達の方へと行った。そして今度は改めて三人揃ってのご来店となった。

「た、助かったわ……」

「やれやれ、だな」

 残りの二人は女性一名と男性一名、彼らの服装からして冒険者のようであった。察するにギルドへの任務報告の帰りだろうか? 職業は多分剣士、槍使い、弓兵ってところかしらね? いや、ただ持っている武器を見ただけなんだけれども。

 しかしお客さんが来てくれたのはいいけどどうしよう? この濡れようだ。服はもう下着までぐしょぐしょだろう。これではとても食事を楽しめたものじゃない。だったら……

「あの、さっき上着預かるって言いましたけど、全部乾かしましょうか? 男物の服はないので、その……タオル撒いてもらう形になるかと思いますが。女性の方は私達の服でよければお貸ししますよ」


「貴方が神か!!」


 何かすっごい大げさに喜ばれた。服を全部脱げは失礼じゃないか不安だったが、どうやら私の選択は正解だったらしい。


 服を着替えてお姉さんはやっと一息付けたと息を吐く。私の服を貸したのだけれど、ちょっと胸のところがきつそうだったのは無視した。それにしても綺麗なお姉さんだなぁ。

「本当にごめんなさいね。ここまでしてもらっちゃって」

「いえいえ、困った時はお互い様です。幸いお店には他のお客さんもいませんでしたし」

「私は槍使いのノアって言うの。見て分かると思うけどこの二人とパーティーを組んで冒険者をしているわ」

「俺はアーノルド、弓担当だな」

「んで俺がワッツ。剣士だ」

「今はどちらもただの半裸野郎だけどね」

 ノアさんの鋭いツッコミに私は思わず笑ってしまう。今度は私達の番だ。

「私はキャロラインって言います」

「妹のマリーです!」

「私は料理担当で」

「私はアイテムを販売しているの!」

「と言っても今日オープンしたばかりなんですけどね」

 私がそう言うとワッツさんが合点がいったと言わんばかりに手をたたく。 

「やっぱりそうだよな。ここに来たのは三週間ぶりだけど、前の時はお店じゃなかったし」

「でも開店初日がこの天気だったなんて災難だったわね」

 ノアさんが気遣ってくれているのが分かったが、私にもう憂鬱な気分はない。

「それはさっきまでですよ」

「え?」

「だって今は皆さんがいますもの。皆さんが記念すべきお客様第一号です。つたないところもあるかもしれませんが、丁重におもてなしさせていただきますね」

 それは私のただの本心だったが、ノアさんが何か頭を抱えてしまった。何かミスしたかと心配になったが、くわっと目を見開いたかと思うと、ノアさんから思いっきり肩を掴まれる。

「ちょっとワッツ、この子めっちゃ可愛いんだけど!」

「はい落ち着け、どーどー」

「キャロライン嬢、すまないな」

 ワッツさんが暴走するノアさんを引きはがしてくれ、アーノルドさんが謝罪をしてくれた。何か面白い人たちだな。これがパーティーっていうものなのね。

「それで何を召し上がります? これメニューですけど」

「あら、結構種類あるのね」

「うむ、迷うな」

 飽きがこないようレパートリーは頑張って増やしたからね!

「今なら何でも食べられそうだけどオススメってあるかい?」

 ワッツさんの質問に私は胸を張って答える。

「一番自信があると言ったらボア肉のワイン煮込みですね。うちの父が狩人なので肉の煮込みは小さい頃からずっと作ってたんです。あっさり目の味が好きだったらチキンのトマト煮とかもオススメですよ」

「……名前聞くだけでよだれ出るな」

「私はトマト煮食べたいかも」

 よし、反応は上々だ。

「自信があるのであれば食べないわけには行かないな! じゃあボア肉ワイン煮二つとチキントマト煮一つで、付け合わせはこのチーズパンにしよう」

「かしこまりました。早速作るのでちょっと待っててくださいね。待っている間はこれでも飲んで落ち着いてください。温まりますよ。あ、これはサービスって事で」

「いいのかい? 何だか悪いな」

「遠慮なくいただくわ」

「お前なぁ」

「だって良い匂いなんだもの。お腹も減ってるし体が栄養欲しいって訴えてるの」

「ふふ、どうぞどうぞ」

 私は早速厨房へと向かう。その際にマリーにアイコンタクトした。さあ、今度はあなたが頑張る番よ。マリーは頷くと笑顔で三人の元へと向かっていく。

「お兄さん、お姉さん! 飲みながらで良いんだけど、何か冒険で欲しいものってないかな?」

「マリーちゃんはアイテムショップと言ってたね。例えばどんなものがあるか聞いても?」

「うん、一番のお勧めはやっぱり臭い袋かな。ヘルペッパーと、デナトニガウリ配合だから、臭いに敏感な獣は気を失うくらい強力だよ。後は切り傷に効く薬草をすりつぶした奴とか、お姉さんだと日焼けしない塗り薬とか……」

「買った!!」

「ちょ、ノア!?」

 流石はマリーね。女性冒険者に日焼け止めなんて切り口が上手。一番目に言わないのもやり手だわ。

「ところで俺はそのアルビオンオオカブトが気になってるんだが……」

 どうやらアーノルドさんは虫好きらしい。これは領都でもブリーディングが商売になるのだろうか? しかしマリーもなかなか会話が上手いから私は安心して調理出来るわね。さあ、気合入れて作るわよ!!



 それから時間が経ち、とうとうこの時が来た。



「お待たせしました!」



 私は渾身の料理達を三人のテーブルの前に並べていく。

「おお、これが……」

「いや、これ絶対旨いだろ。やばいって」

「わぁ、こっちも素敵ね」

 料理を始めた頃、前世のような便利調味料がなくて散々苦労した。味を一から作らなけれればならない料理の難易度は高く、母とクレアさんの料理はそれこそ魔法のようであった。そんな私がこうして見た目と匂いでお客さんを喜ばす事が出来ている。


 後は味を確かめてもらうだけだ。


 大丈夫! あれだけ料理をしてきたんだもの。きっと喜んでくれる。


 私は極限の緊張の中、今出来る自分の最大の笑みを浮かべて言った。


「温かいうちにお召し上がりください」


「じゃあ早速」

 ワッツさんが肉をすくって口に含む。そのままワッツさんは肉をゆっくりと味わい、飲み込んだ後、ほうっとため息をついた。


 どうだ? どうなんだ?


「……美味い」


「っ……!」

 飾り気のないシンプルな言葉、でもそれが何より嬉しかった。


「やったねお姉ちゃん!!」


「マリー、ちょっと! お客さんの前よ!?」


 抱き着いてくるマリーを制止するが、私も私でにやついた顔を抑えきれなかった。

「いや、お世辞なしで美味いな」

「こっちのチキンも当たりよ!」

 続く二人も褒めてくれたとあれば、もう心の中の私はサンバを踊っている状態だ。実際踊った事ないけど。

「キャロちゃん! これお代わりとかあるのかな? これ普通にもう一杯行けそう!」

「はい、大丈夫ですよ」

 そんなに気にいってくれるなんて料理人冥利に尽きる。初めこそ運がないと思っていたけど、そんな事なかった。天気が悪かろうが、お客さんがたった三人だろうが、今日は良い日だ。そう私は断言出来た。

 

 今の私が何より欲しい、自信をもらえたのだから。


 私はルンルン気分で追加分の調理に入る。その時の事だった。まさかの別の来客が来たのだ。こんな天気だからもう誰も来ないと思っていたのだが一体誰が?


「キャロちゃん! ようやくギルドの仕事終わったから来たぞぉー……ん?」

「今日は残念な天気でしたけど、明日からは大丈夫ですからね! キャロちゃんの料理の腕前は私が補償します! 今日だって一杯食べちゃいますよぉ……え?」


 その正体はギルド長さんのマートルさんと、受付嬢のネーナさんだった。私がここに店を構える事になってから、何かとお世話になっている二人だ。二人には何度か自分の料理を食べてもらったが、まさか客として来てくれるなんて。

「二人とも来てくれたんですね!」

「「…………」」

 しかし二人とも無反応で、私は首をかしげる。どうやら二人の視線は私の後ろ、つまりはワッツさん達に向いていて、そこまで思い至って私は気づいてしまった。


 ノアさんはまだ良い。私の服を着ているから。でもワッツさんとアーノルドさんは……


 タオルだけ撒いた半裸野郎だ。


「お、お姉ちゃ、これまずいんじゃ……」


「この変態どもがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「貴様らキャロちゃんとマリーちゃんに何をしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「やっぱりこうなっちゃうよねぇぇ!!!」

「ご、誤解です! ふ、二人とも落ち着いてぇぇぇぇ!!!」


 逃げ回る半裸二人を鬼の形相で追いまわすギルド長達、その後ももうすったもんだで大変だった。でもそのめちゃくちゃさがちょっと楽しかったのは秘密である。



 こうして私とマリーの『おかえり亭』の濃すぎる初日は終わりを迎えたのだった。



 




挿絵(By みてみん)

成長した二人のイラスト



というわけで第二部開幕です! 

ネタを温めていた成長したキャロとマリーの話です。

まずは一話分だけ書き切ったので投稿しました。そんなに長くはならない予定です。

次話に関しては一気に二部終了まで書き切ってから、

投稿を始めようと思いますので、今しばしお待ちください。

とりあえずこういう雰囲気で進めますよって事で。


久々の更新となりますが、

成長したキャロとマリーにお付き合いいただけたら幸いです。


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