第3話 暗闇の先
この世界でキャロラインになってから早一年、私の人生は順風満帆であった。
家族の仲はすこぶる良好、私個人も目標にむけて邁進し続けた。その結果、下手だった料理はまともになり、クレアさんの調整がなくても食べられる味になった。経営学は中世っぽい世界感がかえって良かった。下手に細分化されていない分、非常に分かりやすい。主に税金関連についてだけど。
現代社会の方が覚える事多かったし、だからといって役に立つかと言われれば微妙なところで。とにかく煩わしいったらありゃしない。思わず愚痴が零れ出たがそれも過去の話。一歩一歩ではあるが、着実にレストラン経営と言う夢に近づいているのを感じていた。
妹のマリーだって頑張っている。マリーは見事アルビオンオオカブトのサユリとエーコの交配に成功し、二代目サユリとエーコ(二匹以外は自然へと返したり、友人へあげたりしました)を育てていた。二人で卵を見つけた時は柄にもなくはしゃいでしまった。一方で薬草学の方も、マリーは塗り薬や飲み薬を実際に作ってみる段階まで進んでおり、優秀な妹に負けてられないと私は奮起した。
相変わらずこの世界が物語の世界なのか、あるいはゲームの世界なのか、そのどちらでもないのか分からないままではあったが、良い方向に進んでいる実感は確かにあって、その充実感に私は心を躍らせていた。
幸せなんて一瞬で消し飛ぶ。私はそれを身をもって知っていたはずだったのに……
「皆、大変だー!!」
平穏だったノートン村に凶報がもたらされたのは、いつもの料理教室が終わり、家へ帰ろうとした夕暮れ時の事であった。その声の主を私は知っていた。私の父と一緒に狩人をしているオルカおじさんだ。
父と共に、狩りのベテランであるオルカおじさんがここまで慌てている。それだけで今どれだけ異常事態なのかが伝わる。北口で門番をしていた兵士さんが聞き返す。
「一体何があった!?」
「ブラッドウルフだ! ブラッドウルフが森に出たんだ!」
「ブラッドウルフだと!?」
二人のやりとりを聞いて血の気が引く思いがした。だってオルカおじさんは今日も父と一緒に狩りに行っていたはずだ。
なのにオルカおじさんしか帰ってきていないって事は……
それにマリーだって今森に……
「お父さん!! マリー!!」
私は衝動的に駆け出していた。
「キャロ? そこにいたのか! 落ち着け!!」
「離しておじさん! ブラッドウルフなんだよ!? おじさん達がよく話していたあの!! 早く、早く助けに行かないと!!!」
「キャロ!!」
オルカおじさんにがっしりと掴まれて、私は必死にもがく。
ブラッドウルフ、血を連想させる深い赤毛の狼は個体数は多くはないが高い知能を持つ。
その体はこの世界で一般的な狼であるホワイトウルフと比べて二回りも大きく、その体を維持するために常に獲物を探している。巨体が持つ圧倒的なパワーはさながら熊のごとく、驚異的なスピードも持ち合わせている存在自体が反則みたいな生物だ。
そんな化物みたいな奴、早く行かないとお父さんが! マリーが!!
「何故この森にはいないはずのブラッドウルフが? 数は一頭か!? つがい、子連れの可能性は?」
「一頭だ! 多分オスで縄張り争いで負けたのがこの森に辿り着いたんだろう。だからかオスのブラッドウルフにしては2mと小さめだ! 右目に傷がある!」
2mの狼!? 小さくてそのサイズなの? 想像を絶する大きさに私の焦燥感はさらに募る。しかし私がいくら暴れてもオルカおじさんの腕を剝がす事は出来なかった。
「若い個体だな。不幸中の幸いか。よし! 兵舎から全員呼んで来い! それと長槍だ! 槍先にたっぷりと毒を塗ってこい! 剣なんて間違っても持ってくるなよ! あの分厚い皮は剣じゃ斬れない! 相手は人じゃない! 猛獣だ! 間合いに入られたら死ぬと思え! 匂い袋も忘れるなよ! 鼻が良い奴に刺激臭は抜群に効く!」
オルカおじさんと話していた人は兵士長だったらしく、的確に指示を飛ばしていく。
「道案内は俺がする!」
オルカおじさんも森へと戻るつもりらしい。だったら私も連れて行ってと言おうとしたが、ふとおじさんは私の拘束を緩め、私の両肩を掴むと微笑んだ。
その笑顔がいつもと同じだったのが良かったのだろう。私は急速に自分の中で平常心が帰ってくるのを感じた。
「キャロ、いきなりだがここでハルトとおじさんの秘密を教えてあげよう」
「……秘密?」
「実はな? おじさんとハルトはアルビオン聖騎士団の騎士だったんだ」
「え?」
呆気にとられる私の頭をおじさんは撫でる。
「嘘じゃないぞ。おじさんは強いだろ? そしてハルトだっておじさんの次に強い! なんでおじさん達がブラッドウルフに詳しかったと思う? 何度も戦った経験があるからだ。そして今俺達がここにいるって事は……後は分かるだろ?」
「おじさん達が……勝ったから?」
「そういうこった!!」
それが本当なのかはったりなのかは分からない。でもオルカおじさんは自信に溢れていて。お父さんよりも強いって言っちゃってるのが実にらしい。いつもオルカおじさんと父は競い合っていたから。
「マリーの事だって心配するな。あの子はちゃんと森の怖さを知っている。キャロは毎日見てるからかえって分からないかもしれないが、マリーの森用装備は凄いんだぞ? 至る所に危険防止グッズがたんまりと仕込まれてる」
「ああ、我々も採用したいアイディアも多々あった。我々兵士は状況によっては森での野営だってあるわけだしな」
「マリーってそんなに色々考えていたんだ……」
「備えあれば患いなしとは言うが、あそこまで徹底しているのは感心しかしない。だから何も問題ない! 今日は料理習っていたんだろう? マリナさんと一緒に温かい飯を用意して待っていてくれ」
不安は決して消えたりはしない。でも今の自分が森に行っても足手まといにしかならないのは事実だ。自分の無力さが悔しくて涙が出てくる。何もできない私は頭を下げた。
「父さんとマリーを宜しくお願いします」
オルカおじさんと兵士長さんは力強く頷く。皆の準備が出来ていよいよ村を出発するとなった時、兵士長さんは私に話しかけてくれた。
「私は現実主義者でね。相手がブラッドウルフである以上、必ず連れて帰るとは言えない。だが最善を尽くす事を約束しよう」
「兵士長さん……」
兵士長さんの言葉は残酷であったが真摯さがあった。
「キャロ嬢ちゃんは決して無力じゃない。想いが人を救うのは確かにある。私は世界とはそうあって欲しい」
「何が現実主義者だ。浪漫が漏れ出てるじゃねぇか」
にししと笑うオルカおじさんに兵士長さんは屁理屈をこねる。
「何も浪漫は現実と相容れないわけじゃない。困難ではあるが達成してしまえば浪漫もまた現実だ」
「つまりはだ。絶対助けるだってよ」
二人の軽快なやりとりが私の不安を解きほぐす。大人たちが見せる余裕、その大きさに私は魅入られた。
私は見た目こそ子供だが、中身はそうじゃない。それがただの気休めな事を知っている。だって兵士長さんの準備の徹底さは、それだけ相手の強大さを物語っている。毒を使わなきゃ倒せないという事は、物理で致命的なダメージを負わせられないほど強固であるという証左だ。それでも最高の未来を引き寄せるために、皆自信満々に振る舞うのだ。
それを理解した瞬間、私の覚悟は決まった。オルカおじさん達は絶対父とマリーを連れて帰ってきてくれる。だったら私は私に出来る事をするだけだ。
それは帰ってきた皆へ美味しいご飯を振る舞う事!
父も妹も、オルカおじさんも兵士さん達も全員分! 危険を承知で助けに行ってくれる兵士さん達をねぎらうのだ! 後の大団円を信じて私は祝賀会の準備をしよう。
オルカおじさんたちを見送った後、私はすぐに行動した。真っ先に家に帰ると早速母に突撃する。祝賀会の準備は私だけでは出来ない。私の料理は味も手際もそこそこでしかないから、母の協力は不可欠なのだ。
「お母さん! 沢山料理を作りたいの! おじさんと兵士さん達に振る舞いたい!!」
「キャロライン? 一体どうしたの?」
異様な熱を持った私に母は戸惑った様子だった。それもそうだろう。母はまだ事情を知らなかったし、私自身めちゃくちゃな自覚があった。私自身の熱に言葉が追いつかないのだ。こんな経験は前世を踏まえても初めての事であった。
「キャロ、ゆっくり説明してくれるかしら?」
そんな私を怒ったりせず、母は聴く姿勢を見せてくれた。
「森に、森にブラッドウルフが出たってオルカおじさんが。でもお父さんとマリーはまだ森の中で……」
言葉にすると言いようのない不安にさらされるが、私は懸命に続ける。
「それでオルカおじさんと兵士さん達が助けに行ってくれたの。私も行きたかったんだけど、私は子供だし足手まといにしかならない。だから、だから!!」
話しているのが母だからであろうか? ついさっき決めた覚悟はどこへやら、どうしても弱気な私が顔を出してしまう。涙のせいで視界がぼやけ、私は慌てて手で拭う。
「そう……」
しかし、希望と不安の狭間でぶれにぶれている私と違って、母は平静そのものであった。その事に私は強い反発心を抱く。
「お母さんなんでそんなに落ち着いていられるの!?」
父とマリーが危険にさらされているかもしれないのに。
「私が熱を出して寝込んだ時はあれだけ心配してくれたじゃない!」
私は家族が大好きだ。だからこそ母の温度差がどうしても許せなくて。しかし母はどういうわけか怒る私を見て微笑んだ。
「病気は最終的に本人が頑張らないとどうにもならないからね。あのハルトもお手上げだっだし。あなたが強い子で本当に良かった」
言葉からにじみ出る愛情に私は毒気を抜かれてしまう。そしてこれだと思った。そう、私の母は愛情深い人なのだ。父とマリーの事を愛していないなんて事はないのに、ついカッとなってしまった。
勝手に幻滅して勝手にへこんで、全然感情を制御できていない自分に自己嫌悪する。
「なんて顔してるのよ。これからご馳走を作るのでしょ?」
「……うん」
「なんで私が心配していないか、だったわね。それにはれっきとした理由があるのよ」
「理由って?」
「ハルトは弱った病人にがっつり食べさせようとする馬鹿だけど、すーっごく強いの。あの人にかかればブラッドウルフであっても目じゃないわ」
母の話を聞いてそう言えばと思い返す。
「オルカおじさんが元アルビオン聖騎士団の騎士だって言ってたけど……」
「それ、本当よ」
「ええ!?」
私をなだめるための嘘かと思ったら真実だった! 母もオルカおじさんとグルって事は流石にないよね?
「今だと騎士の欠片もないけどね」
確かにあの父が騎士の姿でいるのを想像すると、違和感が凄くて笑えて来た。オルカおじさんとセットだとなお酷い。でも昔はちゃんとカッコ良かったのかな? 今度詳しく聞いてみよう。
「マリーの方もね。ふふ、あの子特製防獣ロンググローブは凄いわよ? あの子のアイディアを元に私が裁縫したのだけれどね。あれにかみついたらもう大惨事よ」
「大惨事? オルカおじさんもマリーの装備は凄いって言っていたけど……」
「実はあの子のグローブは3重構造になっていてね。内側には固い皮、外側は逆に柔らかい布で作られているの。じゃあ真ん中は何だと思う?」
母の質問に私は考える。外は柔らかい皮という事は別に防御性能特化ではないという事。特にかみついたら大惨事は大きなヒントだ。真ん中の何かに到達させるためにあえてそうしているのだとしたら、答えはおのずと見えてくる。
「ブラッドウルフのような猛獣が嫌う匂いとか味……かな?」
「正解よ。マリーのグローブにはヘルペッパーと、デナトニガウリを合わせたものを煮詰めて凝縮したペースト状のものが仕込まれているわ」
「うわぁ……」
私は思わず顔をしかめてしまった。何せヘルペッパーは国内最大の辛さ、デナトニガウリは国内最大の苦み、そう、これらはどちらも激物なのだ。微量でも鬼のように辛いし、数分言葉が発せなくなるくらい苦い。
それぞれの頂点に達する二つの組み合わせはまさに悪魔的配合であろう。
「兵隊さん達が持っている匂い袋よりも凶悪よ。そんなものがいきなり口の中いっぱいに広がったとしたら……」
悶絶必至だ。ひょっとしたら失神するかも? ペースト状ってのも嫌らしい。要は粘着質で取れにくいって事なのだから。尖った獣の牙だとなおさらじゃないだろうか? 想像するだけで恐ろしい。
「さらにはそのペーストを乾燥させてから粉末にしたマリー印の匂い袋とかもあるわ。バックパックもただの道具入れじゃなくて、首までしっかり守ってくれるよう仕立ててあるの」
「……マリーってそこまで徹底していたのね」
マリーはふんわりしているイメージだったけど、森の危険にはここまで真剣に向き合っていたんだ。私の妹は凄いな。兵士さん達が感心するほどってのも今ならよく分かる。
「だからキャロ。大丈夫よ」
母は私に諭すように言った。
「ハルトは強いし、マリーは頭が良いの! きっと帰ってくるわ」
「あ……」
母の自信に満ちた笑みを見て、私は自分の中から恐怖が消えている事に気が付いた。
「さ、キャロライン、行きましょ」
「行くってどこへ?」
「兵士さん達は凄い量を食べるのよ? 私とあなただけじゃ作りきれないわ。中途半端の嫌だし、こうなったら村総出でやっちゃいましょ。まずはクレアさんところかしらね」
「だったらシンディも!」
シンディは私と同じ料理科なんだから!
「もちろんそうしてもらうわ。キャロ、料理を習っていたその力、今こそ見せる時よ」
「うん!」
母についていった私はその後、クレアさんとシンディ、シンディのお母さんで美味しい食事の準備を始める事となった。するとどういう事だろう? 村の人達がどんどん集まってきて、それぞれの食材を持ち寄ってくる。
それからも人はあれよあれよのうちに増えてきて、最終的にはまるでお祭りの準備みたいになっていった。前世でも経験した事ない体験に私は圧倒されつつも、一生懸命料理を仕込む母の手伝いを続けた。
失うかもしれない恐怖を圧倒的な熱量で吹き飛ばす。私はふと兵士長さんの言葉を思い出していた。想いは人を救う。確かにそれはあるのかもしれない。今目の前にある光景を見れば、想いの力は決して絵空事じゃないと信じられた。
それから調理に尽力していた私であったが、集中していたせいか時間が流れるのはあっという間だった。 ある程度料理が出そろって準備も終わりそうだとなった時、村の北口が慌ただしくなった。誰かが帰ってきたのはすぐに分かった。
肝心なのは何人帰ってきたのか、だ。見たい気持ちと見たくない気持ち、せめぎ合う二つの心で私はうつむいてしまう。
お父さんとマリー、二人は無事なの?
答えを知ってしまうが怖い。そんな私を後押ししてくれたのは周りの明るい声であった。皆の声に勇気をもらった私が顔を上げると、そこには兵士の皆さんと共に、手を振る父とマリーの姿があった。オルカおじさんも、マリーの薬草学の先生も、誰一人欠ける事無く。
兵士さん達が複数人で担いでいるのは大きな獣、もちろんそれは討伐されたブラッドウルフだ。遠目から見ても大きいそれは死んでいても恐怖を感じるほど。でも皆はその恐ろしい獣に勝ったのだ。帰ってきた皆の誇らしげな顔からもそれが分かった。
村全体が歓声に沸き、帰ってきた皆に一人、また一人と駆け寄って行く。もちろん私だって。私は全力で父とマリーの元へと走る。
「お父さん! マリー!」
「ただいまキャロ! 」
「お姉ちゃん!!」
「二人とも大丈夫だった? 怪我はない? ってマリー!? そのグローブ……」
私は青ざめる。何故ならマリーのグローブはボロボロになっており、ところどころ穴が開いていたのだ。母が言っていた厚い皮も突き抜けてしまっている。
「腕は大丈夫なの? 早く見せて!!」
「お姉ちゃん大丈夫だって。ほら、何も傷がないでしょ?」
慌ててグローブを脱いだマリーの手は綺麗で傷一つない。
「ほ、本当だ」
でもグローブの損傷は激しい。一体これはどうしたものか。
「罠を仕掛けたの。いくらこの私特製ロンググローブでもあんな大きな狼の牙は耐えられないと思ったから。だから木の棒にこのグローブをはめて、お父さんに持ってもらったんだ。こうするとぱっと見は腕の長い人に見えるでしょ?」
「そして俺はわざと隙を作ってグローブの部分を嚙ませたってわけだ。あいつはこれで勝ったと思っただろう。しかしやってきたのは肉を食い破る感触じゃなくて、固い木の感触と悪魔的な味の何かだった。あの野郎何度ものたうち回った挙句、パニックに陥って逃げていったよ」
私は絶句する。父とマリーがした事は、トラップというかマジシャンが行うトリックだ。アイディアを出したマリーもとんでもないが、それを実現して見せる父も父だ。それまで半信半疑であったが、ここまでやれるのなら元聖騎士っていうのも頷ける。
「ちょうどそこを俺らが見つけて、皆で囲んで毒槍でくし刺しにしたってところだな。あのブラッドウルフがあそこまで冷静さを欠くなんて、マリーちゃんの濃縮ペーストの効果スゲーわ」
「オルカおじさん!」
「獰猛な獣でもあそこまで冷静さを欠いていたら脅威足りえない。あのブラッドウルフが半狂乱に陥るほどの効果、素晴らしいの一言だ」
「兵士長さん!」
私が感極まっていると後ろから母がやってくる。
「おかえりハルト、久々のブラッドウルフはどうだった?」
「攻撃を貰う事なかったんだが、やっぱ攻め手がないのはきつかったわ。それでも群れじゃなかったからな。たった一匹じゃ今でもやられはしないよ」
とんでもない会話をさらっとしている両親、父が強いのは分かったけど、母も実は結構強いのだろうか? ブラッドウルフと当たり前のように戦っていたかのように聞こえたのですが……
「おかえりマリー、マリーも凄く頑張ったみたいね。偉いわよ」
「森に行く以上、常に危機に備えるべきって先生から教わったから!」
「いやはや、マリーちゃん私よりも堂々としていて。先生の方が形無しでしたよ」
マリーの薬草学の先生、レベッカさんが苦笑する。謙遜しないで欲しい。マリーはいつも先生は凄いって言っていたんだから。
私は改めて周囲を見回す。
私の家族も村の皆も、ちゃんと生きている。
その日、奇跡は確かに起こったのであった。
兵士長さん風に言うと奇跡ではなく浪漫になるのかな? 父の過去の経験が、マリーの入念な準備がこの結果を引き出したのだとしたら、今日の出来事は偶然ではなく必然だ。オルカおじさんや兵士長さんだって何か特別な事をしたわけじゃない。自分の出来る事にこそ尽力した。
私が料理を作っているのだってそう。私は私に出来る事をした。しかしながら私達が無事を祈って料理していた事が父とマリーの力になったという因果関係はない。でもそれを指摘するのは無粋であろう。目の前に出来すぎなくらい最高な結果があるのだ。
だからこそ、私はこう言うべきなのだろう。
今日の出来事は皆の勝利なのだと。
私は今日という日を一生忘れない。