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前編


『悪役令嬢が攻略済みの乙女ゲームに転生したので、味噌を作ることにした』


 何を言っているのか分からないと思うが、これがこの話の全てである。




 ◇◇◇◇◇




 幼い頃、走り回っていて、うっかり壁に頭を強くぶつけた瞬間、私は、エトワール王国という国の王都を舞台とする「秘密の学園生活~世界に一つだけの愛を君に~」という乙女ゲームのヒロインに転生していることに気が付いた。


 ヒロインの名前はミラといい、ピンクブロンドの髪に柔らかな水色の瞳をしている。生まれは平民でありながら、学業の優秀さとその可愛らしさを見込まれ、シェラード男爵家に引き取られ、王侯貴族も通う国一番の名門の学園に通うことになった。前世で遊んでいた乙女ゲーム通りなら、私は、ここで華麗なる攻略対象とめくるめく恋愛模様を繰り広げる予定だった。




 でも、転生したのは私だけではなかった。公爵令嬢で散財系悪役令嬢だったはずのスカーレット・デヴォンシャーも同じく転生者だったらしい。


 悪役令嬢スカーレットは、乙女ゲーム開始前にこの世界を攻略していた。入学して最初のイベントで、悪役令嬢を熱い目で見つめる乙女ゲームの主要キャラクターを目の当たりにした。本来の婚約者であるルーカス王子は、スカーレットにベタ惚れ。弟はシスコンに育ち、取り巻きはスカーレットを無二の友として大事にしている。


 その光景を見て、ゲームが始まったら、ヒーローたちを全員攻略して、逆ハーレムを作ってやるか!という気持ちは消え失せた。




 麗しのヒーローたちとの恋物語を諦めた私は、学園の園芸部に入ることにした。




 ◇◇◇◇◇




 乙女ゲームの舞台であるはずの王立学園での授業が終わり、私はいつものように園芸部の活動場所である裏庭の花壇に来た。


 他の部員たちが樹木や花の選評に励む中、私は庭園の隅で、とある作物を植えるのに邁進していた。一区切りついたところで、身を起こし、空を見上げた。そこで、高飛車な女性の声が響いた。


「見つけましたわよ、ミラ!!」


 振り返った先には、思った通りの人物がいた。


 お忍びのつもりなのか、いつものドレスより少し地味な色合いのパンツ姿で、スカーフで頭を隠しているが、派手な金髪は透けて見えているし、鮮やかな緑の目を輝かしているからすぐ分かる。本来、この世界の悪役令嬢だったはずなのに、この世界を攻略してしたスカーレットだ。


 スカーレットはふんぞり返って、私に言った。


「お話ししましょう」

「……どなたか存じませんが、部活中なので、ご遠慮いただけませんか。あっちに行って」


 私は邪険にしたけれど、スカーレットは全くめげない。


「あら。熱心に部活に取り組まれているところですのね。面白そうで、夢中になるのも分かりますわ。私も入部しようかしら」

「……やめなさい。あんたの周り、うるさいのよ」

「ほら。私が誰だか分かっているじゃありませんか。お話ししましょう。丁度、作業も一息ついたところではなくて?」

「……こちらの様子、いつから見ていたの?」




 これ以上、ごねると余計に面倒くさいことになりそうだったので、諦めて、スカーレットと共に花壇の脇にあるベンチに腰掛けた。王立学園入学早々に、私も転生者であると気付いたスカーレットは、麗しの婚約者や友人たちを振り切って、ヒロインでない今、ただの男爵令嬢である私に会いに来る。一体、何が楽しいのか。何を考えているのか。


 王子の婚約者で公爵家のご令嬢であるスカーレットが、足繫く私の元に来るのに、園芸部の部員たちは「スカーレット様とどういう仲なのか」と聞く。でも、そんなこと答えようがない。悪役令嬢自らヒロインにコンタクトを取ってくる理由なら、むしろ私が知りたい。攻略済みのこの世界で本来の私の存在なんて、悪役令嬢スカーレットにとって、リスクでしかないのに。




「差し入れを持ってまいりましたの」


 スカーレットが迫力ある美しい顔に、得意そうな笑みを浮かべると、後ろに控えていたメイドがスカーレットに袋を渡した。


 スカーレットが袋を受け取り、中を私に見せようとしたので、袋の中を覗き込むと、中には小さな星の形をした、色とりどりのキラキラした砂糖菓子があった。


「金平糖……!」

「ええ。この世界でも見つけましたの!」


 スカーレットが興奮を抑えきれないように、目を輝かせて言った。


「こちらは園芸部の方でお召し上がりになって」

「いただくわ」


 流石の心配りで、スカーレットが園芸部の面々の分まで準備していた金平糖を受け取り、私の分の金平糖を口にした。




 懐かしい味に胸を締め付けられるような心地になる。心が少し緩んだところで、スカーレットが聞いた。


「私は前世のことは知識だけというか、前世の人生は覚えていなくて。ミラは前の人生のことをどれくらい覚えているんですの?」

「……少しは覚えているけれど、全部じゃないわ」


 スカーレットに聞かれて、頭に浮かんだのはおばあちゃんのことだった。


 前世の人生で、私は虐めを庇って、逆に虐められるようになって、引きこもりになって、親が持て余して、田舎のおばあちゃんの家に行くことになった。おばあちゃんの家では、たまに畑仕事や家事を手伝うくらいで、ゲーム三昧。そこで、「秘密の学園生活~世界に一つだけの愛を君に~」をはじめとする乙女ゲームの世界を知ったのだった。




 スカーレットは目を輝かせてこちらを見た。うっかり漏らしてしまったことで、前世の私の人生に興味を持ってしまったらしい。その頃の話はあまり話したくなくて、話を逸らそうと言ってみた。


「でも、よく覚えていなくても、味噌や醤油は食べたくなるわね」


 私の言葉を聞くと、スカーレットは思った通り食いついた。


「食べたいですわね~~~!」


 スカーレットは、こちらの思惑通り、前世の味に関心を移したらしく、味噌や醤油を思い出し、うっとりとした表情を浮かべた。


 その表情を見て思った。スカーレットも、他の誰も知らない前世の世界を懐かしく思うことがあるのだろうか。そして、その郷愁のような気持ちを誰かに話したくなって、私のところに来ているのだろうか。




 とはいえ、前世の味をより懐かしがっているのは私だと思う。実は、本気で味噌を再現しようと、園芸部では大豆を作っている。私の後ろにある花壇の小さな紫色の花は大豆の花だ。スカーレットが気付いていないということは、スカーレットの前世は畑に馴染みがない都会の子だったのかな。


 私はというと、前世でおばあちゃんが大豆を育てているのを近くで見てきた。今世、園芸部で経験を積み、私も大豆を育てることができるようになっている。


 更に、おばあちゃんが味噌を作っていたのを手伝っていたから、何となく、味噌の作り方も覚えている。でも、味噌を作るには、発酵に必要な麹がないのよね……。




「何か困りごとですか?」


 考え込んでいたのは一瞬だと思うけれど、目敏く気が付いたスカーレットが私に聞いた。


 私を覗き込む瞳から、困っていることがあるのなら、何か助けになりたいと思っているスカーレットの善良性を感じる。スカーレットの力を借りるつもりはないけれど、こうして、ヒーローたちも取り巻きも落としていったんだろうなと納得させられてしまうのが、何とも言えない。


「……別に」


 スカーレットは納得していないみたいで、私をじっと見た。話を変えようと周囲を見渡し、園芸部の花壇から見て、校舎の方向が騒がしくなっていることに気が付き、水を向けた。


「しいて言うなら、あっちが騒がしい。あんたの婚約者の王子たちが、あんたを探しているんじゃないの」

「あ、あら。ご迷惑になってはいけませんわね。去りますわ。御機嫌よう」




 ◇◇◇◇◇




 ゲームの中では色々な出来事が起きていたけれど、悪役令嬢スカーレットが攻略済みのこの世界で、学園生活は平穏そのものだった。攻略対象との恋愛イベントなんてものも起こらない。


 とはいえ、攻略対象ヒーローたちは悪役令嬢スカーレットによって攻略済みであっても、私はヒロインだから、イベントは起こるらしい。一人きりで、ひっそりと。




 珍しい赤色の瞳をした黒猫が、街の子供たちにいじめられていた。前世のゲームで見知っていたので、これがゲームのイベントだと分かった。今更、イベントが起きても仕方ないと白けた気持ちになりつつも、見過ごすのも後味が悪い。子供達を追い払い、黒猫を助けた。


 黒猫を連れて、近くの公園へ行ったところ、女神が現れた。


「悪戯な子供たちから貴女が救ってくれたのは、私の妖精です。心優しき少女よ、貴方の願いを叶えて差し上げましょう」


 何で子供たちが自分の妖精を虐めるところを黙って見ていたのかとか、何で助け終わった今になって出てくるのかとか、思うところはあるけれど。この世界にも色々事情があるのだろう。




 ゲームの中のミラは、万病を癒せる薬とか虹を自在に作り出せる魔石とか、攻略対象を幸せにするためのアイテムをもらっていた。でも、悪役令嬢が攻略済みのこの世界では、願いは自分のために使える。


 頭では知っていたとはいえ、神秘的な女神を目の前に声が出せなくなった私に、女神が再び優しく声を掛けた。


「少女よ、遠慮することはありません。何でも願いを叶えましょう」


 眼前にした女神の神々しさに驚き、咄嗟に声が出なかったけれど、願うことなら決まっている。決意を込めて、口を開いた。


「麹をください」

「え。コウジ……?」


 私の言葉に、女神が面食らったようにした。


「はい。麹菌をください」

「コウジ、キン……? あの、それは、金銀財宝とか宝物とかの類…………?」


 女神といえども、味噌を作るのに必要な麹菌は知らないらしい。完全に困惑している。もしかすると、この世界に存在さえしないのかもしれない。


 とはいえ、千載一遇のチャンスを逃すものかと、女神に迫った。


「おっしゃる通り、ヨーグルトやチーズを作るための菌類の仲間で、米や麦で育ち、米や豆を発酵させて、風味豊かな味わいをもたらしてくれる宝の菌です。あ、勿論、人間にとって無害です。

 女神様は万病を癒せる薬とか虹を自在に作り出せる魔石とか人の力では存在しないものだって授けてくださるんだって知っているわよ。女神様なら、麹菌だって何とかできるでしょう?」

「貴女とは初対面よね? 何でそんなこと知っているの? あと、食いつき方が怖いし、何を言っているかよく分からない!」


 ぎらついた目で女神を見つめると、女神は怯みながらも、黒猫の見た目をした妖精に向かって、言った。


「で、でも、とにかく菌なのね? 分かりました。この妖精に力を授けましょう。小さな生き物を操る力です。お前、あとは何とかなさい!」

「えっ……!」


 女神の言葉を聞いて、黒猫、もとい、妖精が衝撃を受けたような声を上げた。喋れるのね……。


「お、お前、きちんと命令を聞くのですよ」

「あっ、待てや!」


 言うだけ言って、逃げるように女神は姿を消した。


 呆然と残された妖精に言った。


「……どうする? あんたの主人、逃げたわよ」

「ニャア……」

「今更、猫のフリなんてしなくて、いいわよ。喋れるんでしょう? 素直に今の気持ち、言ってみなさいよ」


 妖精が黒い毛を逆立てて、言った。


「あの女神、無茶ブリしやがって。何してくれてんねん。俺が、天界から逃げ出したことを根に持っているんかい!」

「方言を使うのね……。そして、天界から逃げ出して、こんなところにいたんだ……」




 ◇◇◇◇◇




「あら、猫を飼い始めたのですか?」


 しばらくして、また、園芸部にスカーレットがやって来た。スカーレットは、見た目は黒猫、中身は女神の妖精をすぐに見つけた。


 引き取られた男爵家の人々と、私は折り合いが悪く、猫を飼いたいと言い出しにくかった。そこで、園芸部の人たちに相談すると、黒猫を畑の隅で飼うことを許してくれた。名前は『クロ』にした。クロには「そのままやないかい!」と言われたけど。


「まあ、そんなところ」

「可愛らしいですわ」


 スカーレットが手を伸ばすと、見知らぬ人に警戒したのか、それとも、悪役令嬢に警戒したのか、クロはフーッと黒い毛を逆立てた。


「きゃっ……。でも、簡単に心を許してくれない姿も愛らしいですわ。いつかその頭を撫でさせていただきますわ」


 闘志を燃やすスカーレットに、つい笑ってしまった。何となく、スカーレットを取り巻く人々がスカーレットに夢中になる理由が分かった気がした。


 スカーレットの婚約者であるルーカス王子は、純真な愛情を示すスカーレットのことを愛すようになった。スカーレットの弟であるヨハン公爵令息は、スカーレットを大事な家族として認識すると共に、人のために生きるスカーレットを見て、貴族に生まれた自分ができることを探すようになった。他のキャラクターも、生き生きと自分の人生を生きている。




 ◇◇◇◇◇




 乙女ゲームでは波乱万丈だったが、悪役令嬢スカーレットが攻略済みのこの世界の学園生活は平穏そのものだった。


 婚約者であるルーカス王子を筆頭に、男女を問わず、高位貴族の面々が、スカーレットの隣を狙っている。一般生徒は、そんな麗しの方々の攻防を微笑ましく見守り、たまに巻き込まれる。スカーレットが頻繁に話そうとやって来るので、私は巻き込まれる生徒の筆頭だ。迷惑!


 乙女ゲーム以外でいうと、私は学園で教養を修めることに加え、味噌恋しさに、園芸部で豆を作り、発酵について学んだ。当然、味噌はないので、チーズやヨーグルトなどの作り方だったけれど、教授たちから教えを乞い、知見を深めた。最終的に、教授たちとちょっとした議論ができるようになったので、多少、目立つ存在ではあったと思う。けれど、当然、乙女ゲームのヒロインらしさはない。






 そして、今日、そんなあっという間の二年間を終え、卒業を迎えた――




「ミラ!」


 卒業式の後、王家、公爵家、友人、後輩に囲まれて忙しいだろうに、スカーレットがわざわざ私のところへ来た。


 スカーレットを見て、そういえば、最初にスカーレットと話したのは入学歓迎パーティだったと思い出した。スカーレットは転生者として、入学して最初の強制イベントでヒロインが靴擦れをすることを知っていたから、わざわざ私に靴を届けてくれたっけ。転生者だと私に気が付かれるリスクを冒してまで。


 二年間に及ぶスカーレットの変わらなさに、無意識のうちに微笑んでいた。


「スカーレット様、最後にお話ししていただけませんか?」

「ミ、ミラからそんなことを言ってくれるなんて……! も、勿論ですわ。お話しいたしましょう」


 私がそう言っただけで、涙でも流さんばかりにスカーレットが喜んだ。二年間の付き合いで、理由は分からないがスカーレットが私を追っかけているのを知っていた同級生たちは拍手して、ルーカス王子を始めとするスカーレットの隣を競う面々が、私を悔しそうに見てきた。


 何だ、この状況は。本当に可笑しい。






 スカーレットと二人、よく顔を合わせていた園芸部の花壇の近くにやって来た。スカーレットが人払いを命じ、少し離れたところにスカーレットの護衛とメイド、そして、私の足元にクロはいるものの、スカーレットと私の二人きりになった。


 スカーレットが真剣な顔になって切り出した。


「男爵家では、貴女の婚約を計画しているとご存知ですか?」




 スカーレットが言ったことは私も知っていた。


 乙女ゲームでは、一生懸命、勉学に励む遠縁のミラの身の上を知り、それを勿体ないと思った男爵夫妻が、男爵家の娘として引き取り、王立学園への入学を後押しするという話になっていた。


 でも、この世界を生き、男爵夫妻が遠縁の私を引き取った理由をもう少し深く知った。それは、王立学園に入学できるくらい学業優秀で、容姿は絶世の美少女である私が、王立学園に通う名門貴族の子息と自由恋愛により縁付くことを期待してのことだった。なお、生家の人々は、僅かな男爵家からの援助を受け、あっさりと娘である私と縁を切っている。


 そして、私は、学園生活中に、攻略対象ヒーローの誰ともハッピーエンドを迎えなかった。男爵夫妻は私に見切りをつけ、私を、学園卒業後、結納金目当てで、とある金持ちの後妻にする算段らしい。


 恋を成就させることがゴールの乙女ゲームのバッドエンドとしてはそうなるかもしれないけれど、そのグロテスクさに吐き気がした。おえ。




「まあ、知っているけど。それが何か?」


 私の答えを聞いて、スカーレットは苦しげに顔を歪めた。


 スカーレットは自分がこの世界のヒロインを乗っ取ったことで、私がバッドエンドを迎えるのに、後味の悪さを感じているのかと思った。


「私にできることはありませんか?」


 でも、切実な声で問われ、スカーレットは、ただ私のことを心配してなのだと腑に落ちた。ただ優しい心で、周囲の人々を救い、この世界を攻略してきたスカーレットは、最後にヒロインまで攻略したのだろう。


 スカーレットの懸念を振り払うように、何でもないように言った。


「心配いらないわ。私、家出することにしたの」

「え……」

「王都からも出る。もう会うこともないでしょう。今生の別れってヤツね」


 スカーレットがますます苦しそうにした。


「私が、ミラの場所を奪ってしまったから……?」


 スカーレットは、美しく、強気な普段の姿は鳴りを潜ませ、今にも泣き出しそうになっている。


 その憂いを吹き飛ばすように、笑ってみせた。


「あんたの影響ではあるけれど、あんたのせいじゃないわ。あんたみたいに、乙女ゲームのシナリオを無視していいんだって分かったから、私も自由に生きることにしただけ」




 この二年間、間近で乙女ゲームで馴染んでいた登場人物を見た。


 乙女ゲームの中では、一人の人間としての自分を認めてあげられなかった王子様も、高慢な姉と貴族社会を憎んでいた公爵令息も、騎士を目指せない妹との関係に悩む若きエリート騎士も、勉学に秀でながら人間関係に悩む宰相の息子も、皆、幸せそうに笑っていた。


 攻略対象ヒーロー達が、かつての私みたいに生きづらさを感じているのであれば、救ってあげようと思った。前世で楽しませてもらったし、私がヒロインだというのならば幸せにせねばと気負っていた。でも、どうも私の出番はないらしい。


 ちゃんと幸せを見つけられたのなら、良かったね。




「学園で一流の学問を受け、園芸部で豆を作って、あんたに追い回され、麗しの攻略対象たちから嫉妬の眼差しを受け、悪くない二年間だったわ。じゃ、私は行くから」


 クロを抱き上げ、スカーレットとこの世界に背を向けて、踵を返した。


「ま、待ってくださいまし!」


 後ろから引き留めるスカーレットに、一度だけ振り返り、ベーッと舌を出しながら、捨て台詞を吐いた。


「ヒロインに転生したからには、逆ハーレムを築いて、不幸な男達を全員救ってハッピーにするつもりだったのに。悪役令嬢スカーレットが既に問題解決している王都ここで、私がすることなんてないね。あばよ!」


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