表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/86

殴り始める者

 オークにとって、ブートバスターとは戦士の中の戦士にのみ与えられる、誉れの結晶だ。

 公的な分類名ではアーモマニューバと称される宇宙戦闘機の一機種に過ぎないブートバスターだが、オーク氏族内では太古の名剣宝刀の如く各機ごとに銘を与えられ珍重されている。 

 それは偏にこの宇宙戦闘機が余りにもオークの好みにマッチしていたからだ。


 ブートバスターは本来の名である腕付き高機動機(アーモマニューバ)が示すように、主機以外にスラスターを持つ武装腕を追加した高機動戦闘機である。

 前方に武装搭載ラック、後方に大出力スラスターを装備したアームユニットの構造は、バレルショッターの背負うキャノンユニットと同様の発想だ。

 ただし、その操縦難易度は段違いである。

 機体と追加装備の推進力の方向が同軸に纏められたバレルショッターと違い、フレキシブルに可動するアームユニットの産み出す推進力は安定し辛く、ちょっとしたミスで機体をバラバラにしてしまいかねない。

 ドッグファイト時にパイロットに掛かるGは並の戦闘機とは比べものにならず、オークのような頑強さが無くては操縦以前に潰れてしまう。

 そして、主機と同クラスの推進機を複数備えていながらプロペラントは通常機と変わらないため、戦闘可能時間は驚く程に短い。

 そんな欠陥機寸前のマシンがブートバスターだ。

 ジャジャ馬そのものなブートバスターだが、完全に乗りこなしたパイロットの発揮する戦闘力は圧倒的であった。

 運動性能は既存のあらゆる戦闘機を凌駕し、影すら追わせない。

 曲芸染みた機動はお手の物で、どんな敵だろうと背後を取り砲撃を叩き込む。

 決闘なら確実に相手を屠る戦闘機絶対殺すマシン、ブートバスターを止められるものはブートバスターしかいない。

 敵を正面から叩きのめす事を至上の美徳と考えるオークの感性にとって、まさに浪漫の結晶のような存在であった。

 殴り始める者(ブートバスター)という名を冠するに相応しい、最高に馬鹿馬鹿しいマシンだ。


「つまり、こんな馬鹿の塊に乗っているなんざ、相手も相当の馬鹿野郎って事だ!」


 全開加速でビリビリと震えるコクピットの中、Gでシートに体を押しつけられながら俺は毒づいた。

 モニターの中で異様な速さでこちらへ近寄ってくる光点を睨み、拡大する。


「三本腕か!」


 敵は細いボディから三方に伸びたアームユニットを持つブートバスター。

 我が愛機よりも腕が一本多い。

 だが、腕の数の多さは必ずしも有利さに繋がらない。

 推力と火力が増す分、操作難易度は格段に跳ね上がるからだ。

 俺は操縦桿を握り直すと、機体下部に搭載された短砲身プラズマキャノンにエネルギーを送り込んだ。

 トリガーを絞る直前に、メインモニターの端で通信のサインが明滅している事に気付く。


「広域汎用通信? この状況で話しかけてくるのか?」


 無視して発砲しようとも思ったが、こちらの目的はトーン08がジャンプエネルギーをチャージするまでの時間稼ぎだ。


「いいぜ、聞いてやらあ」


 通信スイッチをオンにする。

 スピーカーから、ボイスチェンジャーを通したかのような男女定かでない合成音声が流れ出た。


「……に停船せよ! 聞こえるか、襲撃者! ただちに停船して裁きを受けよ!

 大人しく停船すれば罪一等を減じ、この場での処刑に留めてやる!」


「罪一等減じて処刑って、減じなければどうなるんだよ……」


 思わず漏れた突っ込みに、すかさず苛烈な返答が戻る。


「決まっている、族滅だ!

 神聖フォルステイン王国の財貨を奪って無事で済むと思うな!」


 所属国家を押し出したこの物言いは宇宙騎士(テクノリッター)か。

 人体改造によりオークにも匹敵する身体性能を得たサイボーグ騎士、合成音声染みた声も納得だ。

 相手にとって不足はない。

 強敵との邂逅に、俺の頬が吊り上がる。

 なんだかんだ言いつつ、俺にも戦いとなれば沸きたつオークの血が流れているのだ。


「そりゃ怖い! 

 俺は死にたくないし、それで氏族も狙うとくれば、こいつはもう抵抗するしかないな!

 あんたを打ち破って堂々と凱旋させてもらう!」


「ふん、決闘機(ジョスター)を駆るだけはあるな、オーク!

 この私を相手どろうとは、その蛮勇、褒めてつかわす!」


 ブートバスターがオークに広まった俗称であるように、ジョスターは宇宙騎士(テクノリッター)の間に広まったアーモマニューバの俗称だ。

 騎士の駆る三本腕の敵機は、威圧的に腕を拡げながら機首をこちらへ向ける。


「神聖フォルステイン王国が宇宙騎士(テクノリッター)、アグリスタ=グレイトンが『栄光なる白銀(グロリアスシルバー)』を以て貴様を断罪する!」


「名乗り上げとは古風だが、乗ってやらあ!

 トーン=テキン氏族が戦士カーツとは俺の事!

 俺の『夜明けのぶん殴り屋ドーン・オブ・モーラー』が、あんたをぶっ飛ばす!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ブートバスターって、グラップラーシップをより過激にした感じかな? ただ殴り愛()するだけの腕じゃなくスラスター使ってマヌーバにも活かすってのがイイね!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ