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デュエル・ブリーフィング

SIDE:オークナイト・フィレン


「どうして、あんな事言ったの?」


珠玉の争点(オーブ・イシュー)』のシートでハーネスを留めるフィレンは、ノッコの声に顔を上げた。

 開いたコクピットハッチの端から、小さなフービットが覗き込んでいる。


「こんな所まで出てくるな、見つかるぞ」


 女達はトロフィーストリートから出る事を禁じられている。

 本来は無用な混乱を防ぐための措置なのだが、当のトロフィー達からは単純に抑圧されているだけとしか思われていない。

 そんな中、ノッコは当然のような顔をしてロイヤル・ザ・トーン=テキンの格納庫まで足を延ばしていた。


「見つからないよ、隠れるのは得意だもの」


 小柄で機敏な上、アンブッシュを得意とするフービットが本気で身を隠せば、並のオークでは察知する事もできない。

 得意げに薄っぺらい胸を張るノッコに、フィレンは溜め息を吐いた。


「私の事はいいの。 フィレンはどうしてあんな無茶を言ったの?」


「……奴に、『夜明けのぶん殴り屋ドーン・オブ・モーラー』は相応しくないからだ」


 フィレンは視線を逸らし、わざと曲解して答えた。

 ノッコの赤い前髪の下、対照的な青い瞳がじっとフィレンを見つめる。


「ビルカンの機体だから、欲しいの?」


「……そうだ」


 オークナイト・ビルカン。

 かつてノッコを組み敷いた強きオーク戦士。

 フィレンの憧れの対象であり、コンプレックスの源でもある、今は亡き父。


「無理をしちゃ、ダメ。

 あんな言い分で有耶無耶にするのなんて、早々通らないよ」


「だが通った。

 培養豚(マスブロ)とてオークだ、売られた喧嘩は捨て置けんさ。

 あとは勝てばいい、そして、オレは勝つ。

 そして父の機体を取り戻す」


 ノッコは溜め息を吐いた。


「……『珠玉の争点(オーブ・イシュー)』の使い方は、ちゃんと覚えてるね?」


「無論だ」


「この機体は腕付き高機動機(アーモマニューバ)の中でも癖が強い機体だからね、スロットルの絞りには気を付けて、それと……」


「判っている、もう出るぞ、どけ」


 細々としたアドバイスを述べようとするノッコを遮ると、ハッチの閉鎖スイッチを押す。

 閉じていくコクピットハッチの隙間から、母は心配そうな視線を注いでいた。

 罪悪感にも似た奇妙な居た堪れなさを覚え、フィレンはそっと目を逸らす。


「勝てばいいんだ、勝てば全部手に入る。

 それだけだ」


 ハッチが閉じ完全に閉鎖されたコクピットの中で、フィレンは己に言い聞かせるように呟くとスロットルレバーを握りしめた。

 手のひらが汗ばんでいる事に気づき、牙を鳴らしながら唇を噛んだ。





SIDE:オーク戦士・カーツ


「どうして、あんな事言ったんだよ?」


 問いかけてくるのはピンクの髪の地球人類種、なんだか有耶無耶の内に姫様にくっついてきたジョゼ嬢である。

 プリフライトチェックを行う俺はコクピットを覗き込んでくる姫様と顔を見合わせ、同時に首を傾げた。


「どうしてって、それはもう」


「喧嘩を売られたんだ、買わない理由があるかい?」


「えぇー……」


 オークにとって自明の理である事を言語化してやると、ジョゼは露骨に呆れかえった声を漏らした。

 まあ、俺には普通の人類種である彼女の感覚も理解できる。

 チェック表のタブレット端末をコントロールパネルに置くと、少し講釈をした。


「他種族から見れば奇妙に映るとは思うが、俺たちオークは戦うために生み出された種族だ。

 オークにとって戦いは身の回りに常にある当然のもので、同時に神聖なものだ。

 他人に戦いを挑む権利は誰しもあるし、挑まれれば受けねばならない」


「……どんな馬鹿馬鹿しい理由でも?」


「どんな馬鹿馬鹿しい理由でも。

 受けなければ『馬鹿馬鹿しい理由の喧嘩からも逃げた臆病者』となってしまうからな。

 そんな事になってしまえば、恥ずかしくて生きてはいけん」


「ば、蛮族ぅ……判ってたけど、蛮族が過ぎるでしょ、あんたら……」


 ジョゼはピンク頭を掻きむしって唸った。


「勝てる?」


 姫は仕事の邪魔をする猫のように、コントロールパネルにごろんと上体を乗せながら、俺を見上げた。

 パネルの上で、体格不相応に立派なバストがぐにょんと潰れ、思わず目が引きつけられる。

 咳ばらいをひとつして、それこそ猫の子のように姫を持ち上げコクピット外へ移動させた。


「勝ちますよ、そりゃ。

 戦士の位は同じでも、奴はメッキだ。

 踏んだ場数が違います」


「……オークナイトはやっぱり問題ね。

 特権意識ばっかりになっちゃってる」


「姫様の御子はそのように育てないでくださいよ」


「カーツの子だもの、カーツが育てるんだから大丈夫でしょ?」


「ご冗談を、まだまだご懐妊には早うございますよ」


 はははうふふと空々しい笑いが格納庫に響く。

 ……どうしてこの姫様はこんなに俺と子供を作りたがるんだろう。

 露骨に好意を寄せられるのは悪い気はしないし、彼女の事は嫌いではない。

 しかし、想い人の娘であるし、まだまだ稚気の強い彼女とそういう関係になるのは憚れる。

 そもそも、俺は純潔は女王に捧げたいのだ。


「それよりも、俺はあのフービットが気になるんですが。

 なんであんなヤバいのが居るんです?

 あいつ、フィレンの何なんですか?」


 地雷気味の話になりかねなかったので、話を逸らす。

 姫様はこてんと首を傾げて眉を寄せた。


「よくわかんない。

 保護者とか言ってたけど」


「姉さん、オーク戦士の子供が居るって話は前にしてたよ」


 ジョゼはどんよりとした声音で補足した。


「わたしらの用心棒してくれてたのにさぁ……」


「そりゃ仕方ない、あの女の一番大事なものがフィレンだったってだけだろう」


「それであっさり、わたしらを切り捨てるの!?」


「フービットだもんなあ。

 これと決めたら、それ以外目に入らない連中だよ」


「一途ねえ」


 姫は呑気な声音でフービットのノッコを評した。


 ノッコへの恨み言を抑えきれないジョゼと違い、俺と姫には彼女への悪感情はない。

 むしろ、瞬間的に大事なものを選択できる彼女の割り切りの良さを戦闘種族として評価している。

 無論、敵対するなら叩き潰すまでだが。


「うう……フービットもオークも訳わかんないよお……」


「まあ、ちょっと不思議よね、サイズ差凄いのに。

 ……カーツ、彼女でもオーク戦士を受け入れられるんだから、あたしも行けるよ、多分」


「ダメですって」


 俺は再度コクピットに潜り込もうとする姫を押し退けた。


「そろそろ出ます、格納庫から出てください。

 ジョゼって言ったな、あんたも。

 俺達オークは酸素が無くたって我慢できるが、あんたはひとたまりもないだろう?」


「う、うん!」


 ジョゼは慌てて床を蹴り、エアロックへ向かう。

 無重力空間の動作に不慣れなジョゼに続いて姫も床を蹴る。

 こちらは巧みな空中遊泳を披露しつつ、ふらつくジョゼを支えた。


「頑張ってね、カーツ!」


 姫の激励に親指を立てて応えると、コクピットハッチを閉鎖する。

 すぐにキャノピー内に張り巡らされた半球型モニターが点灯し視界を確保した。

 俺はコントロールパネルのスイッチを弾き管制室との通話を開く。


「管制室、こちら戦士カーツの『夜明けのぶん殴り屋ドーン・オブ・モーラー』だ。

 格納庫のハッチを開けてくれ」


「了解っす、兄貴!」


 通信の向こうから舎弟の一人ベーコの声が流れ出た。


「なんだベーコ、そんな所に居るのか」


「へへっ、特等席ですよ!

 ナイト様をぶちのめすとこ、見せてくださいよ、兄貴ぃ!」


「おう、任せとけ!」


 格納庫のハッチが重たい響きと共に開き、残った空気が流出していく。

 わずかな気流に乗るかのように、俺は『夜明けのぶん殴り屋ドーン・オブ・モーラー』を滑らせた。




「さぁて、トーロンに無理して貰ったが……悪くない感じに仕上がってるな!」


 頼もしいメカニック、オークテックのトーロンは短い時間で損傷した『夜明け(ドーン)』のメンテナンスを行ってくれた。

 流石にオールグリーンな万全状態とは行かず、ダメージマップにイエローの警告がいくらか残っているが、十分戦闘可能な状態だ。


「今度またお土産のムービーデータを用意してやらないとなあ。

 それよりも、問題はこっちか」


 呟きながら機体の右舷に視線を投げる。

 曲線を描く装甲で覆われていた右腕は剥き出しのフレーム状態で、銀色のレールガンが直接取り付けられていた。


「新商品の良し悪しだな、合わせた装甲の準備にも手間が掛かっちまう」


 問題は装甲だけではない、残弾もだ。

 このレールガンには、たった3発の砲弾しか装填されていないのだ。


「ま、やりようはいくらでもあるさ」


 俺は両手のグリップを握り直し、意識して笑う。

 戦場ではいつも万全に戦える訳では無い。

 傷つき、弾が尽きようとも、戦わなければ死有るのみという状況は何度となくあった。

 それらを乗り越えてここにいるという自負が、俺を戦士として立たせている。


 モニターの端にスラスターの閃光が映る。


「来たか」


 俺が出てきた左舷格納庫とは氏族船を挟んで反対側、右舷格納庫から飛び出してきた『珠玉の争点(オーブ・イシュー)』だ。


 暁色の『夜明けのぶん殴り屋ドーン・オブ・モーラー』と同じく『珠玉の争点(オーブ・イシュー)』もまた地球型惑星の空をイメージした色で塗装されている。

 こちらは蒼穹を映した透明感のある青。

 朱の『夜明け(ドーン)』と対象的なのは蒼いカラーリングだけではない。

 左右に武装腕を配置された『夜明け(ドーン)』と違い、『争点(イシュー)』は上下に腕を配置している。

 正直、操縦しづらそうな機体であった。


 こちらに機首を向ける『争点(イシュー)』から広域通信が入る。


「逃げずによくぞ来た、培養豚(マスブロ)

 その機体、返して貰うぞ!」


「欲しい物を欲しいって素直に言えるようになったのはマシだが、こいつは俺のだ。

 もう手出ししませんって泣き入れるまで、叩きのめしてやるよ!」


「叩きのめされるのは貴様だ!」


珠玉の争点(オーブ・イシュー)』の両腕が、ぐわっと上下に展開する。


「トーン=テキンがオークナイト、フィレン!

 下賤な培養豚(マスブロ)に鉄槌を下す!」


「やってみな!

 トーン=テキンが戦士カーツ!

 馬鹿な餓鬼に灸を据える!」


 メインスラスターが咆哮を上げ、朱と蒼のブートバスターは突撃を開始した。

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