〜*第7-4話*〜
その後ボンヤリとした頭で寮に戻り、リリィに公爵邸へ戻る準備を指示して、手配して貰った馬車の中で殿下の様子を思い返す。『お嬢様?大丈夫ですか?疲れましたか?』と心配そうに声を掛けて来るリリィに『平気よ』と笑みを返し、流れる景色を眺める。
殿下はあの日から本当に変わった。
優しく笑う姿、照れる姿、弱った姿、私の悪口を言われて憤慨する姿、私を心底心配してくれる姿。私の知らない顔を沢山みせてくれる。正直その姿に胸が切なくなる時もある。きっと以前のアメリアだったら喜んで彼を受け入れただろう。
優しくされると嬉しいし、私も優しさを返したくなる。
それでも彼を受け入れられるかと言われたら…やはり答えはNOだ。『残酷な人だ』と殿下が言った言葉を頭の中で反芻する。確かにそうね…彼にとっては突き放す事も、受け入れる事もしない私は、どっちつかずでもどかしい存在だろう。
申し訳ないと思いつつ、どうしても私は奏汰以外を愛せる自信がない。あんなにも心から愛おしい、恋しいと思える人…一生現れないと思うから。
「そんなに思って貰う程、私に価値なんてないのに」
ポツリとつい漏れ出た、誰にも聞こえない程小さな声。それからは思考を放棄しギュッと目を閉じ公爵邸に到着するまで過ごした
◇ ◇ ◇
公爵邸に到着するまでに、なんとか気持ちを入れ替えて足早に父の執務室に向かう。
『お帰りなさいませ。お嬢様、そのように慌てていかがなさいましたか』
白髪でオールバックがとても良く似合う、ダンディな父の専属執事兼邸の執事長に声を掛けられる。
「執事長、えぇ少しお父様に用事があって、書斎にいらっしゃるかしら」
「はい、今は会議もひと段落して書類整理をされていらっしゃいます。旦那様に確認致しますので少々お待ち下さい」
お辞儀をすると、あっという間に父の元に消えたと思うと、直ぐに戻って来て、父の元に通される。本当に有能な執事だ。イケオジと前世では部類されるだろう。ちなみに、執事長の息子が兄の専属執事だ。
書斎に通されると挨拶する間もなく『お帰りアメリア。会いたかったぞ』と父に抱きしめられる。
「ただいま、お父様」
そんなに離れていた時間はないのに、と少し呆れつつソファーに腰を掛け、持って来て貰った紅茶を飲み、近況を軽く報告する。私の話を笑顔でうんうん、と嬉しそうに聞きながら私の異変を感じていたのだろう。人払いをすると『さて、お前の近況は把握出来たな。上がって来ていた報告と相違は無いようだ』と言うと、紅茶を口に含む。
…私の報告は逐一父の元にも来ていたようだ。生粋の親馬鹿だろう。
「それで、何か聞きたい事があるのだろう。どうした?」
穏やかな優しい声。…父に会ったら直ぐに聞こうとしたのに、いざ父を前にすると聞けなかった。
ギュッと口を結び、私を見つめる父の視線から逃げるように俯く。
兄妹じゃなかったら、あの優しさを失ってしまうかもしれない。
兄に限ってありえない、と頭では理解しつつも、冷たい視線を向けられたら、公爵邸から居なくなってしまったら。想像するとそれがとてもリアルに感じ、恐ろしくなった。でも聞かない訳にはいかない。
意を決して口を開く。
「…ッは、お父様、エリック兄様は…お父様の子供ではないのですか?私の…お兄様ではないのですか」
喉に何か張り付いたように、声が震えつつも何とか聞くことが出来た。




