〜*第7-3話*〜
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
穏やかな殿下の声。先程の場面をみていなければ、あんなに怒っていたとは気付かないだろう。
普段通り…のような気がするけど、どこか顔が少しやつれている気がするわね。あの子の相手をして疲れたのかしら。
過去を知る私が知らない事が次々と起きているし、殿下との関係性も変わりつつある…。
だから私を諦めて貰うために、あの子を当てがおうと思った不純な動機を、少し申し訳なく思う。
「…アメリア嬢?何かあったのか?」
つい考え込んでしまった私の顔を、怪訝そうな表情を浮かべ覗きこまれる。咄嗟に笑みを浮かべ
「申し訳ありません殿下。大丈夫です。これから公爵邸に帰ろうかと思って急いでおりましたの」
「あぁ、そうだったのか。良ければ送ろうか?君と少し話がしたいのだが…。パーティーの件でも話をしたい」
まさか送ると言われるとは、早急に帰りたいが流石に殿下と帰る訳にはいかない。
兄とはただでさえ仲が悪いし、バレた時がめんど…じゃなくて、ここは申し訳ないが断ろう。
「とても有難いのですが、今回は大丈夫です。パーティーの件はまた明日でよろしいでしょうか?殿下も用事があって学園に来られていたのでは?」
話題を変える為に発したこの言葉が、墓穴を掘る事になるとは…。
「それは君もだろう?…一体どうして休みの日に来ていたんだ?」
貴方からの手紙を見て来た、と言ったらどうするのだろうか。変な心労を掛けてしまう可能性も。
ここは隠しておくべきだろう。
「えぇ、少し用事がありまして。でももう済みましたので。それではごきげんよう、殿下」
これ以上はボロも出そうな為、話は終わりだとばかり切り上げ、その場を離れようとしたところ、『待ってくれ』と腕を掴まれる。
「殿下?」
「…っ、私に言えない事か?」
あ、この表情。…なんだかお兄様と似ているわ。眉を寄せ不安気な、なんとも言えない表情。
やっぱり2人は従兄弟…親戚なんだろうか。もし兄と私が血縁関係がなければ・・それを知った兄は公爵邸を出て行ってしまうのだろうか。自分は問題解決したら出て行くと決めているのに、兄が離れる事に寂しさを感じるなんて、滑稽だわ。
自嘲気味に笑い、首を横に振る。
「いいえ、殿下にお伝えする程の事では」
「それは君が決める事ではない、私が決める事だ!」
強めの口調と私の腕を掴む手に力が入る。『いたっ、』と思わず苦痛に表情が歪むと慌てて手を離す。
「すまない、怪我はないか」
処刑される前の人生でも、親に怒られた子供のような、殿下のこんな表情を見る事なんてなかった。
いつも同じ表情、同じ振る舞いの王太子として完璧な彼。ローズ嬢に出会ってからは、彼女には特別な表情をみせていた姿にアメリアは嫉妬していた。
「…ごめんなさい。貴方を傷つけるつもりはなかったんです。だからそんな顔をしないで下さい。大丈夫ですから」
本当はこんなに繊細で、愛情深い人だったのだろう。以前は自分に向けられていた優しい表情を、自分に向けて貰えなくなった事がとても苦しくて、悲しくて…伝える方法をアメリアは間違えた。
思わず殿下の頬に手を当てると、キュッと唇を結び、私の手に手を重ねる。
「君は残酷な人だ。だが…君がこうやって私と話てくれるだけで、どうしてこうも胸が締め付けられ、幸せだと思ってしまうのだろうか」
そう言って私を強く抱きしめると、頭に柔らかい何かが優しく触れる。
「すまない、また情けない所を君に見せてしまった。気を付けて帰ってくれ。また明日会えるのを待っているよ」
そう言って学園内の戻って行く殿下に、私は何も言えず見送る事しか出来なかった。




