〜*第6話-6*〜
「では、本題に入ろうか」
食後の紅茶を飲み終えたタイミングで、兄が静かに口を開く。
「はい」
怒られるのだろうか。でも聞きたい事があると言っていたし。
怒られるような雰囲気ではないと思う。グルグルと色々な事を考えていると
「これから聞くことに、答えたくないなら答えなくて良い。ただ聞いた事で私の側を離れないと、これだけは約束してくれないか。言いたくなければ、私はこの事を二度と口にしないし、記憶から魔法で消しても良い」
あまりにも重い制約に、戸惑ってしまうが、聞くと約束した手前その条件に頷く、
一体どんな事を聞かれてしまうのか。
「ありがとう…では、私が聞きたい事は、『奏汰』なる人物の事だ。何度かお前の口から聞いたことがあるのだが、覚えているか」
名前を聞いた瞬間、心臓が大きく鼓動する。私兄の前でも言っていたんだ。
そうだ…昨日も言っていた気がする。でもそんな一瞬の事すら覚えているなんて。この人の記憶力はどうなっているのだろうか。
「ーッッ、はい、昨日言いましたよね」
心臓のあたりを抑えながらなんとか口を開く。兄が言っていたように、今すぐ魔法で記憶を消してしまったほうがいいのか。と一瞬過る。
「そうか、そいつはお前にとって大切な人物なのか」
もうこの人には嘘はつきたくないな…。仕方がない、どうしようもなくなったら魔法を使わせてもらおう。
「はい、私の最愛の人です」
まさか家族に奏汰の事を言えるだなんて。思ってもみなかったな。
ただ私の発言に兄の瞳が大きく揺らぐのを、私は見逃さなかった。
「その人物を探したが、結果見つからなかった。どこで接点があったのだ」
…言ってもいいのだろうか。私の過去を兄に伝えて、本物のアメリアを返せと、軽蔑した視線を向けられたら、そう考えるだけで恐怖だ。
でも、それでも許してくれたなら、精一杯守ろう。この家族を
途切れ途切れだったが、包み隠さず兄に前世の事を話した。
前世の家族の事、友人、そして最愛の人の事。
そして自死後、どうしてこの世界に転生したのかも分からない事も全て。
ー でも、アルベルティ公爵家の皆が殺される事。それを引き留めた後、どうしようとしている事は言えなかった。
「だから、お兄様が知っている…アメリアと私は別人なんです。申し訳ありません」
兄の反応が怖すぎて、頭を下げたまま顔を上げられない。
軽蔑の視線を向けられているだろうか、逆に本当のアメリアが居ない事に絶望の表情を浮かべているだろうか。
そんな事を考えていると、コツコツと足音がした後、隣に兄が座るのが分かった。
「そんな事があったのか…」
腕が動くのが分かり、ビクリと身体が強張ると、予想に反し優しく私の頭を撫でる手。
思わず顔を上げると、優しい笑みで私を見つめる瞳。
「怒らないんですか…軽蔑しないんですか、こんな突拍子もない事を言う私の事を妄言女だと…思わないんですか」
「ははは、お前は私をなんだと思っているんだ」
心外だと言わんばかりの表情を浮かべ、私の額を小衝く。
「お前の事を疑う事なんてないし、忌み嫌う訳がないだろう。こんなにも大切にしてきたのに、私を信じてないのかい」
「ーッッ」
「変わらずお前は私の可愛い妹だよ。それよりも、そんな過去があって良く頑張って生きて来たな。リア…本当に良く頑張った。苦しかったな、辛かったな」
あまりにも優しい言葉に、また涙が溢れる。
こんなにも連続して泣くなんて恥ずかしいけれど、こんな事言われたら我慢なんて出来るわけがない。
「それにお前は私の知っているアメリアではないと言っていたが、そんな事はないと思うけどね。変わらないよ。幼い頃と変わらない所も沢山ある」
ククっと喉を鳴らし笑い、優しく私の涙を拭ったかと思うと
「それにしても…お前を襲った愚か者が、同じように生まれ変わり学園に居るとはな…いっその事消してしまおうか。そうしたら、また少しは安心して過ごせるだろう」
スッと剣に手を伸ばしたかと思うと、細められた瞳から光が消えた。
ー これは本気だ。きっと直ぐにでも消すつもりだ。




