〜*第5話-15*〜
目を開くと、涙が頬を伝い流れている。
何かとても悲しくて幸せな夢をみていたと思うんだけど。
「思い出せない・・・」
公爵邸じゃない自分の部屋にまだ慣れていないから、気づかない内に情緒不安定になっているのかもしれない。
目元を腕で覆いながら、視界を暗くし何も考えないようにして、頑張って再度眠りについた。
◇ ◇ ◇
翌朝、朝まで起きていたような不思議な感覚のまま目を覚ます。
ー 公爵邸よりゆっくり目覚められるのは楽で良いけど。
リリィに持って来て貰ったミルクティーを飲みながら、朝食に目を通す。
多いのよね・・。パン1つだけで良いと毎回言っているのに、侍女達は許してくれない。
もそもそと食べながら、今日の1日の流れを確認する。
今日は殿下とランチをする前に、マグノリア嬢の調査の続きをしなければいけない。
侍女達を巻き込まない為にも、絶対にこの子達にバレないようにしないと。
◇ ◇ ◇
教室に向かう前にハリソンに会えるかもしれないと、庭園に向かう。
ハリソンと話したくて、調べると殿下と同じ学年である事が判明した。
その事も含めて、話しをしたいと思うのだけれど、顔を合わせてもあの日以来まともな会話が出来ずにいた。人が少なかったら会話してくれるかもと、少しの希望を抱いて花壇に来てみたのだけれど。
周囲を確認しながら歩みを進めると、どこからか話し声がする。
もしかしたらハリソンかもしれない。と駆け足で近寄ると
『それは止めてくれと言っただろう!』と朝の澄んだ空気を揺らすように、大きな声が耳に届く。
姿は確認できないがハリソンの声だ。以前みかけた相手と話しをしているのだろうか。
悪いと思いつつ、聞き耳を立て息を潜める。
『私がアメリア嬢の弟だと、君が知らせる必要はないだろう。君達には協力すると約束した。確証がないのに私を疑い、約束を反故するつもりか!』
この行為を後悔するなんて、思ってもみなかった。
ー この人は一体何を言っているのだろうか。
私の弟はアベルだけなのに。全身が心臓になったかのように、痛いくらいに脈打つ。
どうしてこんなにも、私はハリソンの言葉に動揺しているのか。
もう何も聞きたくなくて、この場を離れたいのに…足が動かない。
『私の前世の姉が、彼女だと君から言おうものなら、私は計画には二度と手を貸さない。なんなら裏切らせてもらうぞ!』
その言葉を聞いて、正体が分からない相手は笑い声をあげている。
その笑い声からは、男か女か判別することは出来ない。
しかし今はそんな事に気を配る事も出来ず、呼吸の仕方を忘れたかのように呼吸が浅くなる。
前世・・。彼も私と同じようにこの世界に生まれ変わったのだ。
”前世””弟”
今まで感じた事のない痛みを伴う頭痛が私を襲う。
『俺…姉さんの事が好きだ』
『男に色目しか使わないビッチ』
『あぁ、その恐怖に怯える顔。可愛いなぁ』
『あぁ、これが夢にまでみて姉さんの中なんだね。痛いくらいに締め付けてきて、最高だよ』
「…ヒュッ、ヴッ、あ゛ぁ」
霧が掛かったような光景が、記憶がクリアになって全て脳内に流れ込んでくる。
あぁ、どうして忘れてしまっていたのだろうか。
二度とこんな事思い出したくもなかったのに。
呼吸が出来ない、頭が割れるように痛い。
その場を離れたくて、ズルズルと足を引きずるように壁を伝い歩き、何とか脚を進める。
『今日も神崎は可愛いねぇ。好きだよ』
『本当に夢みたいだ…神崎…愛してる』
奏汰…そうだった。貴方だったんだね。私の唯一無二の存在。
『菜々美、愛してるよずっと』
優しく私を抱きしめ、優しい笑みを浮かべる愛しい人。
思い出したくて、恋しくて、ずっと探し求めていた。
どうして貴方を忘れる事が出来たのだろうか。
『被害者の方は、神谷奏汰さん。35歳の男性です。現在調べている途中でして……』
「あ゛ぁあ、どうして、私は生きているの・・どうして!!」
壁に身体を預け頭を抱える。
そうだ。死にたかった。あの人の元に行きたかった。
会えないなら、地獄でもどこにでも墜ちて良かったのに。
何とか進めていた脚が動かなくなり、意識が遠のいていく。
「……はぁ、は…ぁ」
呼吸が出来ない、苦しい、視界が涙で霞む。
『また私が助けてあげる』
ニヒルな笑みを浮かべた、暗闇のあの子の声がした。
「アメリア!!」
身体が倒れ、意識が切れる直前に必死な形相をした兄の声がした気がした…。




