〜*第5話-2*〜
準備を済ませ、心配そうにするリリィと一緒に応接間に向かう。
まさか、本当に1時間も待つなんて思わなかったわ。
「お待たせ致しました。殿下」
リリィには下がって貰い、1人で応接間に入る。
下げた頭を上げ、視線の先には会いたくなかった殿下が俯いた状態で座っていたが、私をみるなり笑顔を浮かべ私の元に駆け寄ってくる。
「アメリア嬢無事でよかった。我儘を言ってしまって申し訳ない…会ってくれてありがとう」
ギュッと抱きしめられて、殿下の纏う甘い香りと、温もりに胸が締め付けられる。
少しだけ震える手が、私から拒絶されるかもしれないと心配をしていたからだろうか・・。
「ご心配をおかけしました・・。申し訳ありません。殿下」
あぁ、以前は触れられることすら嫌だったのに、もうその嫌悪感がそこまで無い事実が私を襲う。
「あ、すまない、君に触れてしまった。触れないと約束したのに」
そう言って慌てて私から離れ、赤くなった顔を隠すように反対側に顔を向ける。
・・触れないって約束を覚えていたけど、反射的に抱きしめてしまったのね。この人。
もう認めるしかない。以前のようにこの人を心底憎む事は、今は出来ない事に。
「いえ、気にしていませんので。ソファーにお座り下さい」
ただ、それでも私は貴方と仲良くなるつもりはない。
素っ気ない態度で殿下に接すると、少し寂しそうな笑みを浮かべる姿にチクりと心が痛む。
ごめんなさい。私はこれからも貴方を傷つける事しか出来ない、だから早く嫌いになって。
◇◇◇
準備されていた紅茶を飲みながら、沈黙が私達の間に流れるが、気付かないふりをする。
そわそわとする殿下を無視していたが、
「殿下」と声を掛けると、「どうした!?」って嬉しそうな声を上げる姿に、大型犬の耳が見えて笑ってしまいそうになる。
「そういえば私が寝込んでいる時、見舞いに来て下さったと聞きました。綺麗な花束も・・ありがとうございます」
嬉しかったです。と言いそうになったが口をつぐむ。
「いや、気にしないでくれ。私がしたかっただけだ」
ふにゃりと笑みを浮かべる姿を観察し、ただ普通の会話をするだけで、何がそんなに嬉しいのだろうか。
ー駄目ね。このままだと偽れなくなりそう。
「そうですか…。それより殿下、本日はどのようなご用件だったのでしょうか。手紙には会いに来るとだけ、書かれていましたが」
本題に入ると、「あ、いや」とどうにも歯切れが悪い。
首を傾げ「殿下?」と呼びかけると、意を決したように
「何も要件はない」と伝えられた。
・・・え?要件がないのに会いに来たの?
「え、特に何もないのに来られたのですか?」
「そうだ、目が覚めと聞いて、君に会いたくて来たのだ」
そう言いながら兄と同じ綺麗な水色をした瞳が、私を見つめて離さない。
「…ッッ、お上手ですね。他のご令嬢でしたらそ言葉で虜になりますわ」
何とか笑みを浮かべ、平常を装い紅茶を口に含む。
「君以外の令嬢にこのような言葉を掛けるわけがないだろう。今は…君が婚約者なのだから」
「かりそめの、ですわ。お忘れなきように」
罪悪感で顔がみれないけど、これは事実なのだから仕方がない。
婚約破棄が一旦保留になっているのに過ぎないのだから。
「そうだったな。すまなかった」
少しの沈黙の後、「あと、アメリア嬢に渡したい物もあるんだ」と急に従者を部屋に呼び何か荷物を持って再度部屋に戻ってくる。
…大きな箱ね。
「君の体調次第だが、2週間後にあるダンスパーティーにはこのドレスを着てくれると嬉しい」
受け取り確認すると、王家を象徴する青色のとても豪華なドレスが入っていた。
ネックレスに装飾品、一式入ってるわね。
「殿下…これは」
「君が着たくなければ着なくても構わない。気に入らなければ捨ててくれていい」
と当たり前のように言われたが、そんなこと出来るわけないでしょ。
一体いくらこのドレスに掛かっているのか考えるだけで恐ろしい。きっとこのドレスだけでも家が建つわよ。
「準備するときに言わなかったのは、断られると分かっていたからですか」
「…」
視線を合わせる事なく、優雅に紅茶を飲む殿下にイラっとしつつため息をつく。
「捨てませんよ…勿体無いですからね。ありがとうございます。どうなるかわかりませんが」
「受け取ってくれただけ嬉しいよ」
その後少し会話をしたのち、
「体調がまだ優れないので」という事にして解散となるが、その別れ際に、『君に触れていいだろうか』と尋ねられ、断る事が出来ず再度抱きしめられる。
『会ってくれて本当にありがとう。感謝する』と耳元で囁かれ、少し泣きそうになったのは気のせいだと思いたい。




