朝食とぬいぐるみとお兄様達
みなさん、おはようございます。リタお兄様が喋る練習に付き合ってくれ、私の部屋を去ってからおよそ半日が過ぎました。
私は今、朝食をとっているところです。
とは言っても、私はまだ上手く指先が使えないため、マチルダに食べさせてもらっている。
「さぁ、リン様、お口を開いてください。あーん」
「あー」
先程から、何度も繰り返しているこの動き。
マチルダの声に合わせて口を開くと、毎回私の口の大きさにちょうどよく、更には具が一つだけにならないように取り方が工夫されたスプーンが、私の口に運ばれる。今日の朝食は野菜スープと、それにつけて食べる柔らかいパンだ。スープの野菜たちは私が食べやすいよう、少し口を閉じると崩れるくらい、柔らかくなっている。
手間のかかる作業だと思うけれど、毎食そうしてくれるシェフに感謝の念が耐えないよ。
いつかお礼言うからね!
そう思いながら一口一口味わって食べる。
薄味だけど、不満を一切感じないぐらい美味しい。
また口をあーん、と開きマチルダにスプーンを運んでもらっていると
「今日はルイズバルト様とシェルフィアード様がいらっしゃるそうですよ。朝食の後には来られると思いますわ」
と言われた。「よかったですね」とマチルダは優しく微笑んでいる。
この顔はおそらく、兄妹仲が大変よろしく微笑ましいですわ、という顔だろう。
大変、なのかは私にはわからないけれど、実際に私達兄妹の仲は良いと思う。お兄様達はよく私の部屋に遊びに来て、遊んでくれるしね。一緒に手遊びをしたり、歌ったり、子供用の本を読んでくれたり、中庭に散歩に出たりと色々遊んでくれる。毎回全員揃っているわけではないけれど、毎日誰かは私の部屋に遊びに来てくれていると思う。
私の今の立場を考えると、お兄様達はたとえ子供であっても忙しいはずだ。それでも空き時間を見つけては、私の部屋に遊びに来てくれる。そのおかげで毎日が楽しい。
「リン様、お口を開けてくださいませ。お二方と遊ぶためにもしっかり食べてくださいね」
食事から逸れていた私の意識を引き戻しながら、マチルダはスプーンを口元持ってくる。
「あー」
うん、とっても美味しい。
時間は過ぎていき、私は朝食を食べ終えた。
今は部屋のカーペットに座り、側仕えに渡されたぬいぐるみの手をふにふにと握りながら、その感触を楽しんでいる。
このぬいぐるみの抱き心地というか、握り心地というか、地球とちょっと違ってて面白いんだよね。
柔らかすぎず、固すぎず、低反発というわけでもなくて……。
とにかく独特なのである。
それにしても、これは何の動物のぬいぐるみなのだろうか?一見耳が大きいので狐に見えるが、それにしては尻尾が細長い。サーバルキャットのようにも見えるけれど、それにしては耳が尖っている気がする。色も白だし、斑点もない。
少し話がそれるけれど、狐もサーバルキャットも可愛いよね。真琴の子供時代から好きな動物TOP10には、どちらも入っている気がする。何と言うか、狐の愛嬌のある感じと、サーバルキャットの優雅さが好きなんだよ。あと、フェネックも狐と似てて可愛い。
まぁ、そんな何の動物かわからないけれど、とりあえず可愛いぬいぐるみの手をふにふにと握っていたわけなのだが。
「リン!遊びに来たよ!」
「おはようリン。遊びに来たぞ」
私よりも大きい、5歳児ぐらいの大きさがありそうなぬいぐるみを抱えて、ルイズバルトお兄様とシェルフィアードお兄様が現れた。
「あははっ、リン目がまんまるになってるよ」
「すまない、驚かせてしまったな」
……びっくりした…。
いや、急に現れないでください!?今一瞬心臓ヒュってなったよ!
ごめんねって言いながらプレゼントでぬいぐるみをくれるのは嬉しいけれど、私を見て笑ってるシェルフィアードお兄様は好きだけど嫌いです。驚かせたのはそっちです。
今は上手く舌が回らないから言えないけれど、いつか絶対このこと言ってやるんだからね!
ルイズバルトお兄様は眉を下げ、プレゼントのぬいぐるみを渡してくれながら、謝ってくれたので好きです。頭も優しく撫でてくれたので大好きです。
このこともいつか絶対伝えるからね!
私はルイズバルトお兄様からもらったぬいぐるみに抱きつく。このぬいぐるみはうさぎみたいな動物だね。知っている動物のぬいぐるみで、ちょっと親近感が湧くよ。
あっ、このうさぎふわふわだぁ。
私はうさぎに似た動物のぬいぐるみのお腹に、頬をすりすりと寄せる。
幸せ…。
これずっと抱きついていられる。むしろずっと抱きついていたい。
「リン、気に入ってくれたか?」
「あいっ!」
「そうか」と微笑みながら、ルイズバルトお兄様は私の頭を撫でる。私ももらったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
この子はこれから抱きしめて、一緒に寝させていただきます。
「ルイズバルト兄上だけずるいです!リン、僕の持ってきたぬいぐるみはどうだい?」
私とルイズバルトお兄様が仲良くしていると、シェルフィアードお兄様がこんなことを言いながら割り込んできた。シェルフィアードお兄様が持ってきたぬいぐるみを、私の目の前に差し出している。
シェルフィアードお兄様からもらったぬいぐるみには悪いけれど、今は少シェルフィアードお兄様に腹が立っているので、プイッと顔を逸らさせていただきます。テディベアのようなくまのぬいぐるみでとても気になるけれど…。
「えっ、リン?気に入らなかった?」
いえ、すごく気になっているし何なら見た目で既に気に入っています。今すぐ抱きしめたいです。
「シェル、リンはそのぬいぐるみは気に入っていると思うぞ。ただシェルにちょっと怒っているのではないか?」
私の頭を未だ撫でながら、シェルフィアードお兄様にルイズバルトお兄様は言う。「そうだろ?」とこちらを見て言われ、コクリと頷く。
「ほらな」
ルイズバルトお兄様が顔を向けると、シェルフィアードお兄様はとても驚いていた。
「僕、何か怒らせるようなことしちゃった?ごめんね」
焦りながら、すごい勢いで謝られる。
でもシェルフィアードお兄様、ルイズバルトお兄様が隣で「わかってないのか…」って呆れてますよ。
あっ、ルイズバルトお兄様にペシって頭叩かれてる。
「シェル……、お前は全く…。」
「ルイズバルト兄上?」
「何でもないさ。お前はリンと早く仲直りをしたらどうだ?」
ルイズバルトお兄様は呆れながらも、シェルフィアードお兄様の頭を撫でている。
このときのルイズバルトお兄様の顔はとても優しかった。
さて、仲直りを促されたシェルフィアードお兄様はというと、「リンごめんね。僕と仲直りしてくれる?」と私に向かって両手をひろげた。
私はシェルフィアードお兄様の腕の中に行き、今度はお兄様の服をきゅっと握った。
仲直りも何も、喧嘩してたわけではないからね。
しょうがないから今回は許してあげよう。ちょっと上から目線だけど。
仲直りのハグが済むとルイズバルトお兄様が
「さて、リン。シェルが持ってきたぬいぐるみはどうだ?」
と、くまのぬいぐるみを差し出してくれた。
私は勢い良くぬいぐるみに抱きつく。
あ、これもいい…。
幸せ…。
この子も一緒に寝ます。
「気に入ってくれたみたいだね、良かったよ」
そう言ってシェルフィアードお兄様は微笑んだ後、ルイズバルトお兄様とハイタッチをしていた。
その日の夜、私はお兄様達から貰ったぬいぐるみ達と一緒に寝た。
密かにうさぎのぬいぐるみにはその毛色からブランシュと、くまのぬいぐるみにはその瞳の色からノワールと、名前もつけたりもした。
今日は全然喋らなかったけれど、また明日から沢山練習しないとね。
いつかシェフにお礼を、シェルフィアードお兄様には文句を、ルイズバルトお兄様には大好きを伝えないといけないからね。
そういえば、昨日のリタお兄様のように、シェルフィアードお兄様とルイズバルトお兄様も、シェルお兄様とルイお兄様って呼んでも良いのかな?
いつか今日のお返しで、そう呼んで驚かせるのもいいかもしれない。
そう思った夜だった。
スキンシップが多い、仲の良い兄妹でした。
皆さんはぬいぐるみに名前をつけたりしますか?私は小さい頃よくつけていました。
ちなみにブランシュとノワールは、フランス語で白色と黒色の意味になります。