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襲来

ハイハイが安定してできるようになった頃、事件が起こった。


これ以上バンッ、という効果音が正しい扉の開け方はない、と思えるほどの開け方でお祖父様が部屋に突撃して来たのだ。



「バスマギッド様!?」


「どうなさったのですか!?」



私が音にビビって固まっている間、側仕え達は大慌てしていた。でも突然現れたのが前領主で、現在も多大な権力を持っているお祖父様であるからしょうがないと思う。



「ウエストリンギアに会いに来たのだ」



私!?



「ウエストリンギアが匍匐前進できるようになったと聞いてな」


「は、はい。先日安定してできるようになりましたが…?」


「うむ。ウエストリンギアが生まれてから、私は予定がずっと詰まっていたからな。やっと予定を空けられた故、会いに来たのだ」



きゅ、急ですね、お祖父様。



「そうだったのですね…」



側仕え達も困惑しているよ、お祖父様…。



「あぁ。それで、ウエストリンギアはどこにいるのだ?」


「はい、リン様でしたらあちらで遊んでいらっしゃいます」



そう言って、側仕えのマチルダが私のもとにお祖父様を案内する。

唐突だが、マチルダは生まれてすぐに私付きの側仕えになった人である。昔からヴァンガツェルガーナの領主一族に仕えてくれていて、数年前に子育てが一段落したとのことで、仕事に復帰したそう。家系もほとんどが領主一族に仕える側近なのだとか。すごい家系である。


話は戻って、私がお祖父様と初めてご対面して第一に思ったことは「デカッ」だった。

いや、もう全てが大きい。身長も高いし、筋肉もしっかりついている。それはもう、年齢を感じさせないほど。お父様は細マッチョだと思うけれど、お祖父様は普通にマッチョ。でもむさ苦しい感じはなくて、日々の鍛錬で自然についた筋肉のように見える。


ちなみにお祖父様の髪の毛と目の色は、銀色と赤みが強い紫色だった。顔立ちも目と鼻がよく似てるし、体格を除いたらお父様とそっくりだ。更にルイズバルトお兄様ともよく似ている。ルイズバルトお兄様はお父様とよく似てるし、剣術も領城常駐の騎士の人達に習っているらしく、筋肉もついているからね。




「おおっ、ウエストリンギア!お祖父様だぞ!」



はい、存じております。

とりあえずコクリと頷いておく。



「ウエストリンギアはまだ小さいな。ほれっ」



お祖父様のその言葉と同時に、私の体が宙に浮く。そしてある一定の高さでぐるぐると回る。お祖父様が私を抱き上げて、その場でぐるぐると回っているからだ。


へ?


私が呆然とした状態でぐるぐる回されていたからか、お祖父様の動きが止まった。私は手足をプランと垂れさせて、目が点の状態でお祖父様を見下ろす。するとお祖父様は、不思議そうな顔をして



「む?気に入らなかったのか?リタ達はこれが気に入っていたのだが…」



と言った。

へ?お兄様達?



「バ、バスマギッド様。リン様は女の子でございますし、いきなりそのようなことをされると、驚かれてしまうかと思います」



そうそう、それよ。マチルダ、ナイスアシスト!

何の前触れもなく、いきなり高い高いされてぐるぐる回されても怖いだけだから。せめてゆっくりやってほしい。



「そうか…」



マチルダの言葉を受けて、お祖父様はシュンとしてしまった。

なぜだろう。お祖父様にペタンと伏せてしまった耳と、垂れ下がってしまった尻尾が見える。体の大きなお祖父様なのに子犬のように見えてしまう。ちょっと可愛いと思ってしまった。


しょげてしまったお祖父様が何となく可哀想になって、私は脇腹のあたりにあるお祖父様の手をペチペチと叩いた。



「む?何だ?」



よし、食いついた。

私はそのまま両手を前に出し、くるくると回す。



「うー、あぅー」


「どうしたのだ?」


「バスマギッド様、リン様はもう一度、先程と同じことをしてもらいたいのではないでしょうか?」



そうそう。良かった、伝わった。



「そうなのか、ウエストリンギア?」


「あいっ!」



とびきりの笑顔で返事をする。これ、大事。


私が返事をすると、お祖父様の顔がパッと明るくなった。そのままお祖父様は、その場でぐるぐると回り始めた。私もキャッキャと喜んでいるような声を上げて回される。

これ、大事。

これをしないとお祖父様がまた、不安になってしまうだろう。


それはもうぐるぐるぐるぐる回される。大丈夫?目回らない?って聞きたくなるほど。でも全然目が回っている感じがしないので、三半規管が強いな、とか考えていた。

それでも私のために何度か止まってはぐるぐる回る、ということを続けていた。





そんなことをひたすら繰り返していると、今度はコンコンとちゃんとノックをされた後、控えめに扉が開いた。

開いた扉の隙間からヒョコッと顔を出したのは、シェルフィアードお兄様だった。



「リン、遊びに来たよ!」


「あいっ!」



私が返事をすると、お兄様は小走りでこちらにやって来る。が、しかし、お祖父様に抱き上げられている私の現状を見てすぐに固まった。ちなみに、その原因であるお祖父様は「おぉ、シェルか。よく来たな」などとニコニコ言っている。

まぁ、いると予想していない人がいて、しかもその人が多忙なお祖父様だったら誰でも驚くだろうな。



「お、お祖父様も来ていらしたのですね」



何とか、といった様子でシェルフィアードお兄様がそう言うと、お兄様の後ろから更に声が聞こえた。



「あら〜、バスマギッド様もいらしていたのですね」


「お、お祖母様!」



おっ、お祖母様!?

若々しい!

驚いているシェルフィアードお兄様の後ろから現れたのは、薄紫色の髪に水色の目の、これまた年齢を感じさせないほどお美しいお祖母様だった。



「マルガテーナも来たのか。あぁ、やっと予定が空いた故、ウエストリンギアと遊びに来たのだ」


「あら、わたくしもですわ。やっと予定が空いたのでリンに会いに来たのです」


「そう、だったのですね…」



そんな話をしながらお祖父様は私を抱いたまま、部屋のソファーに座る。苦笑いで固まっていたシェルフィアードお兄様も続いてその隣に、お兄様の横に立っていたお祖母様もローテーブルを挟んだ向かいのソファーに座る。私はお祖父様の膝に座り、お祖父様に背中を預ける状態になった。

お祖母様がこちらに身を少し乗り出して「リン、お祖母様ですよ」と手を振りながらニコニコしている。なので私も「あいっ」と言って、お祖母様の方に手を振り返した。

その間にマチルダがささっと、お祖父様とお祖母様、シェルフィアードお兄様のお茶とお菓子、そして私用の、地球で言うたまごボーロのようなお菓子を用意してくれた。本当によく出来た側仕えだよ。


マチルダが用意してくれたお茶を一口飲み、三人は一息つく。私にもマチルダが水を飲ませてくれた。

一度落ち着くとシェルフィアードお兄様は、私に向かって両手を広げた。



「リン、こっちに来るかい?」



少々悩ましかったが私はコクリと頷いて、シェルフィアードお兄様に向かって両手を広げる。するとすぐにシェルフィアードお兄様の両手が脇の下に入り、私はお兄様の膝の上に移動させられた。そしてそのままギューっと抱きしめられる。そんなシェルフィアードお兄様を私も抱きしめ返す。


それを見ていたお祖母様は



「あらあら、フォレスガッドが言っていた通り、本当に仲がいいのね」



なんて言ってた。

私としてはシェルフィアードお兄様だけでなく、リタルディーノお兄様ともルイズバルトお兄様とも仲がいいということを伝えたい。まぁ、そう言えるまで舌が回らないけれども。


そんなニコニコしているお祖母様とは対照的に、お祖父様は漫画のようにガーンといった顔をしていた。

えっと、何かごめんなさい。


私のそんな心境を露ほども知らずシェルフィアードお兄様は「はい、あーん」と私の口にたまごボーロもどきを運ぶ。私もどうしょうもないので、あー、と口を開く。

うん、ほんのり甘くておいしい。


わんこそばのように次から次へと口に運ばれ、気がついたときにはマチルダが用意してくれたたまごボーロもどきは、お皿の上からなくなっていた。



「おぉ、ウエストリンギアはよく食べるのだな。すぐに大きくなりそうだ」



食べ終わった私の頭を撫でながら、お祖父様は言う。でも私、こんなに食べることなんてそうそうないのだけどね。



「そうだね。リン、今日はよく食べたね」



私の一回で食べる量を知っているシェルフィアードお兄様は、少し驚いている。

うん、さっきまでキャッキャ言ってたから、大分体力が消費されたんじゃないかな?普段あんなに腕をブンブン回したり、足をバタバタさせたりすることなんてないしね。お腹空いていたんだよ、きっと。


そんなことを思いながらシェルフィアードお兄様に水を飲ませてもらい、ふぅ、っと一息つく。たまごボーロもどきは口の中の水分を持っていってしまうから、たくさん食べると喉が渇くよ。



一息ついたところで、急に瞼が重くなってきた。


ね、眠い…。

動いてお腹いっぱいになった赤ちゃんなら無理もないだろう。


やばい、首がカクカクする…。



「リン、眠いのかい?」



シェルフィアードお兄様に聞かれて、目を擦りながらなんとか頷く。



「そっか、寝ておいで。今日はいっぱい動いて疲れたんだね」



おやすみ、とシェルフィアードお兄様は私をマチルダに渡した。


私はベッドまで連れて行かれ、すぐにふかふかの布団がかけられる。

マチルダがおやすみなさいませ、と天蓋を閉じたとき、私は夢の世界へと旅立った。




だから私がいなくなった部屋でお祖父様が



「ところで何故シェルとマルガテーナはウエストリンギアのことをリンと呼ぶのだ?」



と言って、シェルフィアードお兄様とお祖母様が「リンがウエストリンギアの愛称だからですよ…」と苦笑していたなんてことは、知る由もなかった。

遅くなってしまい、申し訳ございません。

これからもゆっくりですが投稿していくので、よろしくおねがいします。

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