プロローグ
『見つけた…!』
『やっと見つけた…!』
……何を……?
『ベル様…』
『ベルナーツィウレット様…!』
……誰……?
『行きましょう、ベル様…』
……どこに……?
「…う……ん……」
……夢、か………。
何か、覚えのある夢、だったような…。
まぁ、夢はこんなものだよね。考えてもどうせ思い出せないか。
さぁ、遊びに行く準備しなくちゃ。
私は神崎 真琴、21歳である。
生まれてからの21年間何不自由なく暮らしてきた。
5歳の頃、たまたまテレビで見たヴァイオリンの演奏に惹かれて音楽に目覚めた。今ではヴァイオリン、ピアノ、トランペット、琴…その他沢山の楽器の演奏をすることができるようになった。
我ながらすごいと思うよ。そりゃ中には学校のとか習い事教室のとか、色々な所で楽器を借りてたけど、家に演奏できる大半の楽器があるんだもの。
どれだけ楽器にお金がかかってるのだろうか。
家は楽器店か何かか、と思ったことも思われたことも両手の指じゃ足りないくらいある。
でも、私はたくさん楽器があって嬉しかったし、やっぱり家族も私の演奏を聴いて楽しそうだったからどうでも良かった。
そんな充実した毎日を送っている。
今は友達の美希と拓也と一緒に行ったカラオケから、少し、と言うかかなり早い夕ごはんを食べるためにファミレスに向かっている最中である。
「ほんと真琴は歌上手いよね〜」
「ありがと。そう言う美希も演歌上手じゃん」
「そそ、美希は演歌だけ、が上手なんだよな。だからモテないんだよ」
「今はそんなこと関係ありません〜。いいじゃん、別に。演歌だっていい曲多いんだから」
そんな他愛のない話をしながら、ふっと横を見ると小学校低学年ぐらいの男の子が横断歩道を渡っていた。ただ青信号を渡っている、それだけのことだった。
その時、何かぞっとした。
私は小さい頃から時々こういう感覚に陥ることがある。
そしてそれはいつも必ず、何か悪いことが起きる前兆で…。
ばっと前を見ると一台の車が横切った。男の子がいる方に向かって。
そこからはもうスローモーションみたいだった。
体が勝手に動いた。
男の子目掛けて走っていた。
美希と拓也が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
幸い男の子はすぐ近くにいた。
私が男の子を自分の胸に抱え込んだその時、私の体が宙に浮いた。
あぁ、浮いてるな、と思いながら車にひかれてた。
次の瞬間、頭と背中に鈍い痛みが走ると同時に「ドンッ」と音がなった。
美希と拓也が叫びながら駆け寄って来てるのが見えた。
私の腕の中に閉じ込められていた男の子は無傷で、でも何が起こったのかわからないみたいで目を見開いていた。
「僕、大丈夫?痛いところはない?」
私が声をかけると男の子はコクコクと頷きながら
「ぼ、ぼくは大丈夫…。でも、お姉さんが…!!」
と言って状況を理解したのだろう、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
「お姉さんは大丈夫だよ。僕が無事でよかったよ」
そう言いながら私は男の子の頭を撫でた。
すぐに美希と拓也が来た。
「真琴、真琴!!」
「美希、救急車呼んで?」
「もう呼んでるよ!もうすぐ来るからそれまで耐えて!!」
「了解です。ありがとう、美希」
「僕、大丈夫か?立てるか?」
「う、うん…」
「よし、じゃあこっちおいで」
そう言って拓也が男の子を私の腕から開放した。
あ、ちょっと寒いかも。
小さい子ってやっぱり温かいんだ。
場違いにもそんなことを考えてた。
「僕、名前は?家の電話番号はわかるか?」
「えっと、僕は…」
拓也が男の子の相手をしてくれていたその時、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえた。
私は心底安心して、もう睡魔に抗うことをやめることにした。
「美希、もうすぐ救急車来るよ。サイレンが聞こえた。私はちょっと眠いから寝るよ。悪いけど、後のことよろしくね。次会うのは病室かな?それまで一緒にいてくれると嬉しいなぁ…」
「真琴、寝ちゃだめだよ!もうすぐ来るからそれまでちゃんと耐えてよぉ…」
美希が私を抱きしめながら涙を流していた。
頭の中では5歳の頃に聴いたあのヴァイオリンの曲が流れていた。
大好きな親友の腕の中で、大好きで私の音楽の原点の曲と共に、美希を見ながら私は眠りについた。
これが神崎 真琴としての最後の記憶……。
はじめまして。
この度小説を書き始めました。少しづつ投稿して行く予定ですが、ほんの少しでも興味のある方は読んでいってほしいです。
どうぞよろしくお願い致します。