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マディニア王国を舞台としたお話 大長編あるよ❣️

失いそうになって初めて気づく事もある。公爵令嬢の恋は終わり、愛に気づきました。

作者: ユミヨシ

エリーナ・フォバッツア公爵令嬢はそれはもう、生まれた時から自由はなかった。

何故なら、彼女の家はマディニア王国でも由緒ある高貴な公爵家だったからである。


父は元騎士団長で現宰相のローゼンシュルハルト・フォバッツア公爵。

国一番の美男で知られた彼は、歳を経ても美しさに衰えは無く、男の色気も加わって尚、

ファンクラブがある程に国の人気者だ。

ローゼンの母は隣国から嫁に来た王女で英雄のシュリアーゼであり、妻はこれも国内で有力な高位貴族、フォルダン公爵家から来たフローラ。

フォバッツア公爵家はそれはもう、国で今、一番勢いがある高位貴族だったのである。


エリーナには兄が一人いるのだが、

ハルディアス・フォバッツア公爵令息は、今、騎士団に入団しており、国の為に日々、

剣技と学問に励む20歳であり、将来は騎士団長になるのではないかと有望視されていた。


エリーナの母のフローラには双子の姉がいて、アイリーン・フォルダン公爵夫人は、

隣国の勇者であったユリシーズを婿に迎え、フォルダン公爵を名乗らせているのであるが、

その息子、リード・フォルダンは、母譲りの冷たい美貌と、父譲りの剣技の強さを兼ね備えたいかにも有望な男性であった。彼の歳は23歳。


そして、エリーナは今年18歳になったのであるが、


今、エリーナは、兄のハルディアスと従兄のリードと共に、テラスでお茶を飲んでいた。


両親譲りの金の髪に青い目のエリーナとハルディアス。それに比べてリードは黒髪でどちらかというと冷たい印象のある男性であった。


エリーナは二人に愚痴を言う。


「王妃になんてなりたくないですわ。小さい頃から王妃教育、王妃になる事が決まっていたのですもの。もう嫌。もうすぐ学園を卒業したら嫌でも王太子殿下と婚姻しなければならないだなんて。わたくし、王太子殿下と結婚したくありません。」


ハルディアスも深く頷いて。


「俺も家の為にアイルノーツ公爵令嬢と婚約結んでいるけどさ。来年には結婚しなけりゃならないんだよな。公爵令嬢が卒業するからさ。学園を。あああ…憂鬱だよ。」


リードは紅茶を飲んでから、


「私も王女様と結婚が決まっているからな。やはり来年だ。王女様も学園を卒業するから。

いかに、破天荒の勇者であるディオン国王陛下の娘であっても、私は決められた結婚をしたいとは思えなくて。」


エリーナだけではなく、兄のハルディアスも、従兄のリードも、決められた相手との結婚を嫌がっていた。


かといって皆、それぞれの婚約者との仲が悪い訳ではない。


現に王太子殿下アルディードは、22歳、とても紳士的で国を想う理想の男性である。

5年前に婚約が決まり、それ以降、定期的に王宮のテラスでお茶を飲み、親交を深めてきた。

だが、エリーナはときめかなかった。


エリーナが好きなのは、従兄のリードだったのである。


黒髪で冷たい美貌で、どこか影があるリード。

リードは王宮に出入りしており、エリーナの父、ローゼンの元で政治を学んでいた。


この年上の従兄をエリーナは小さい頃から好きで好きでたまらなかった。


だが、彼は従兄である、母と伯母が双子の姉妹だ。

血が近すぎる婚姻はこの国でも歓迎されない。

現に、隣国アマルゼ王国の王太子と、マディニア王国の王女との婚姻の話が出たが、

アマルゼ王国の王と、マディニア王国の王妃が兄妹の為、立ち消えになった程である。


しかし、はとこならかろうじて良いだろうとの事で、(王妃が父のローゼンシュリハルトの従妹に当たるので)

リードと、王女ディアナの婚約が調ったのだ。


エリーナははっきりとリードに言う。


「わたくしは貴方と結婚したかったわ。リード。」


「え?」


「だって、わたくしが幼い頃から好きだったのは貴方だったんですもの。」


兄のハルディアスがハハハと笑って。


「エリーナ。無理を言うな。従兄は結婚は出来なくもないが、血が近すぎるのは問題だ。

まず、両親が反対するし、国王陛下が決められた王太子殿下との婚約をこちらから破棄は出来ないだろう。」


バンとテーブルを叩いて立ち上がるエリーナ。


「ねぇ、わたくし、我慢出来ないの。好きな人とも結婚出来ない。わたくし、王妃になんてなりたくない。もっと自由に生きたいの。」


ハルディアスが怒って、


「お前は世間ってもんを知らないんだ。フォバッツア公爵家の令嬢に生まれたからには、公爵家の役割を果たすのが義務ってものだろう?お前が一人で世間に放り出されたら、それだけで野垂れ死にだぞ。いいか。我儘言うな。俺だって、アイルノーツ公爵令嬢と結婚するんだ。ただ、俺は騎士になりたかったから、望んだ生き方はまだ出来る方だけど。我慢しろ。我儘言うんじゃない。」


リードの前で派手な兄妹喧嘩をしてしまう。


リード、貴方はどう思っているの?わたくしはリードの事が大好きなのに。


しかし、リードは何事もなかったかのように立ち上がって、


「エリーナ。ハルディアスの言う通りだ。フォバッツア公爵令嬢として、恥ずかしくない振る舞いと生き方を。それが君の役目だ。」


「リードはわたくしの事が好きではないの?」


「私は王女ディアナ様の婚約者だ。君に対しては従妹としてしか感情がない。

だから、君に対して恋愛感情も何もない。いいか?しっかりとフォバッツア公爵令嬢としての役割を果たせ。」


涙がこぼれる。


わたくしは…わたくしは、もう我慢できないの…


その場を飛び出した。


愚痴は言っても結局、兄もリードもそれぞれの婚約者と家の為に結婚するつもりでいるのだ。解ってはいるけれども…でも、わたくしは…


ずっとずっと幼い頃から、リードの事が好きだった。


でも、リードは何とも思っていないと言っていた。


そりゃそうだろう。


エリーナは今のまま、王太子殿下と結婚すれば、王妃としての道が開かれる。


リードだって、王女と結婚して、我が父に政務を習い、先々、宰相になって、その手腕を振るう事が彼の生き方だろう。


ああ…でも、そんなリードを自分は王妃として近くで、一生、見て行かなければならないのだ。


そんなの嫌…



しかし、泣いてもどうする事も出来ない。


エリーナは、自分の無力さに涙するのであった。




翌日は、王太子殿下アルディードに呼ばれて、王宮のテラスでお茶を飲んだ。


アルディードは黒髪の背の高い美男子である。

エリーナを気遣って、


「どうしたのかね?エリーナ。なんだか浮かない顔をしているが。」


「何でもありませんわ。王太子殿下。」


「君はいつもそうだ。私の前で心を開いてくれた事はないな。もう、何年もこうしてお茶を飲んで、交流しているというのに。」


この方が嫌いという訳ではないの…ただ、わたくしがリードの事を忘れられないだけで。



ふと、庭の方を見ると、リードがディアナ王女と仲睦まじく庭を散歩している姿が目にはいった。


リードが、あんなに優しく微笑んで、リードがわたくし以外の女性とあんなに親しくして…

リードが…


何もかも壊してしまいたい。


窮屈な王妃教育も、こうして王太子殿下とお茶を飲むのも…

もう、何もかも嫌…


「もう、沢山…もう…嫌…」


涙がこぼれる。


アルディード王太子が驚いたように、エリーナを見つめて、


「どうしたんだ?エリーナ。」


「どうして、わたくしは…好きに生きる事が出来ないの。

どうしてわたくしは…本当に好きな人と結婚出来ないの。

どうしてわたくしは…自由になりたい。自由になりたいの…」


ああ…不敬な事を言ってしまったわ…

お父様、お母様、ごめんなさい。

フォバッツア公爵家を穢すような事を言ってしまってごめんなさい。


アルディード王太子が、ハンカチを差し出してくれた。


「気持ち、とても良く解る。どうして自由に生きられないんだろうな…」


「え?王太子殿下も?」


「ほら、涙をその前に拭いて。」


ハンカチを受け取って、涙を拭きながら、エリーナは尋ねる。


「王太子殿下も自由に生きたいのですか?」


「そうだな。でも、私の道は生まれた時から決まっていたから。

この国の王になる事が。でも…父上は破天荒の勇者ディオン。ディオン国王陛下をしのぐ王になんて私はなれない。どうしても周りは比べてくるだろうけどね。

何で国王陛下はあれだけ強く有能なのに、息子は凡庸だって。

私にとって父上は偉大過ぎる。いつも重荷を背負っているようなものだ。

君と同じだよ。」


そう言うと、アルディード王太子は微笑んで、


「君との婚約を白紙に戻そう。今まで縛ってすまなかった。」


「え?でも、わたくし達の婚約は国王陛下と我が公爵家との間で決められた政略ですわ。

それを白紙に戻すわけにはいかないでしょう?」


「私の妻になるという事は、とても大変な事なんだ。一国の王妃だからね。

だから、相当の覚悟がないと無理だ。

私としては王妃教育を幼い頃からほどこされた君になってほしかったんだが、

ここまで悩んでいたとは。申し訳なかった。必ず、婚約を白紙にしてあげるから。

安心してくれ。」


「王太子殿下…わたくしは…」


「今まで有難う。エリーナ。」



肩の荷が下りたと同時に、エリーナは寂しさを感じた。



この方にときめきを感じた事はなかったけれども、いつも気遣ってくれて優しかった。

わたくしは本当に、婚約を白紙にして頂いて、肩の荷を下ろしてよかったのかしら。


我儘かもしれないけれども、もしかしたら、わたくしは…間違った選択をしたのでは?


アルディード王太子殿下はその場を去って行ってしまったわ。


ああ、わたくしは。どうすればよかったのでしょう。






屋敷に戻って、父のローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵と、母のフローラに、エリーナが王太子殿下との婚約が白紙になるだろうという事の話をすると、父のローゼンは、


「何て言う事だ。我がフォバッツア公爵家から王妃が出るはずだったのに。」


母のフローラは、エリーナを抱き締めて、


「仕方がないわね。エリーナには荷が重すぎたのかしら。」


兄のハルディアスが部屋に入って来て、


「何だ。婚約を白紙になったのか。でも、お前、リードとは結婚出来ないぞ。」


ローゼンが困ったようにエリーナに、


「ハルディアスの言う通りだ。リードは血が近すぎる。」


エリーナは頷いて。


「リードにはリードの道がありますわ。ディアナ王女様と婚約を結んでいるのです。

わたくしは、諦めておりますわ。」


「それならば良いのだが。」



ああ…あんなにリードの事が好きだったのに、なんででしょう。

今はアルディード王太子殿下の事が気になって…




その日は何とも言えない気持ちを抱えたまま、自室に戻ってベッドに潜る

エリーナ。


眠れぬ夜を過ごした翌日の昼頃、

リードが屋敷に尋ねて来た。


「ハルディアスから聞いた。婚約を白紙にするそうだな。」


「ええ。わたくしの気持ちをお話したら、王太子殿下が、白紙にしたいとおっしゃって下さいましたわ。」


「私に婚約者がいなければ、エリーナをさらっていってしまうものを。」


「え?」


「私も好きだ…本当はエリーナの事が好きなんだ。でも…仕方がないだろう?

従兄でかつ、王女ディアナ様の婚約者なのだから。この気持ちをおさえるしかなかったんだ。」


そう言うと、リードはエリーナを抱き締めて来た。


「もう、我慢出来ない。駆け落ちをしよう。」


「えええええっ????」


あれだけ、理性的にフォバッツア公爵家の令嬢としての役割を果たせと言っていたのに?


あれだけ好きだった人だったのに…


エリーナは思った。


何故だろう。アルディード王太子殿下の事が気になって気になって。


忘れられない。


そうね…わたくしはやはり…


「ごめんなさい。リード。わたくしは、もう一度、アルディード王太子殿下に頼んで、婚約を結んでもらいますわ。今から行けばまだ間に合うかもしれない。」


「何故?どうして???」


「わたくしやはり、王妃として生きたい。そう思えたのですわ。

失ってみて初めて解る事ってあるでしょう?」


「そうだな…君の言う通りだ。ごめん…。君と駆け落ちしても、君を幸せにすることが出来ない。エリーナにはやはり、王妃として国の役に立ってもらいたいし、私は宰相になりたい。」


「だから…リード。わたくし達はいとことしてのお付き合いのままで、そしてこれから先は王妃と宰相として、国の為に役に立ちましょう。」


「そうだな…」


わたくしの初恋は終わりましたわ。

そして、これからもう一度、お願いをしに行かなければなりません。

アルディード王太子殿下に、婚約の白紙の撤回を。


リードには帰って貰ってから、エリーナは両親に向かって、


「お父様、お母様。わたくし、王城に行ってまいります。」


ローゼンが頷いて、


「それならば、私も同行しよう。」


ハルディアスが呆れて、


「何だ?何故、王城へ?」


フローラがにっこり笑って、


「女心はハルディアスにはまだ解らないようね。エリーナ。しっかり、お話してくるのよ。」


「はい。お母様。」




馬車で王城へエリーナは父ローゼンと共に向かった。


アルディード王太子に会いたいと言ったら、王宮の中へ二人は通された。

父のローゼンは、国王陛下に呼ばれて、エリーナはアルディード王太子は二人きりで話をした。


エリーナは王宮の広間で、アルディード王太子に向かって、はっきりと、


「先程は申し訳ございませんでした。わたくし、今まで学んできた王妃教育を無駄にしたくありません。どうか、わたくしを王妃に。貴方様の伴侶にしてくださいませんか。」


「エリーナ。いいのか?王妃の道は険しい。自由なんて全くなくなってしまうぞ。」


「失ってみて初めて、大切な物が解りましたの。

貴方様との婚約が白紙になると言う事を考えたら、心にぽっかりと穴が開きましたわ。

わたくしにとって、王太子殿下の伴侶になるという事はとても、大切な事だったのですね。

心を入れ替えますからどうか、わたくしを伴侶にしてくださいませ。」


「エリーナ。有難う。」


アルディード王太子はエリーナを抱き締めた。そして、アルディード王太子はエリーナの耳元で熱く囁く。


「私は感情を出すことが出来なくて、でも、愛しているよ。婚約者として君とお茶をするようになってからずっと…君が王妃になってくれるのなら、私は国王としてどこまでも走っていけそうな気がする。」


「走って下さいませ。わたくしは着いていきたいですわ。」


「エリーナ…とても嬉しい。」


リードを思う心が吹っ飛んで、エリーナの心はアルディード王太子の事で一杯になった。

どうしてこうなったのだろう…


本人も解らないかもしれない。

だが、失って見て初めて分かったのだ。


王妃になるという事…アルディード王太子の伴侶になるという事、

それがエリーナにとってとても大事な事だという事が。



それからのエリーナは、心を入れ替えて、王妃教育に熱心に取り組み、

学園卒業後、結婚し、アルディード王太子にふさわしい王太子妃となった。


マディニア王国はアルディード王の時代になって、更に発展し、フォバッツア公爵家は王妃を出した家として、権勢を極めた。



エリーナは王子を5人も生んで、前王妃が手掛けていた福祉を受け継ぎ、優れた王妃としても歴史に名を残した。


リードはディアナ王女を妻に娶り、切れ者の宰相として、アルディード国王を良く支えた。




アルディード国王とエリーナ王妃は、仲良い夫婦として、有名になり、終生、幸せに過ごしたという。






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