聖女、仕事に張り切る
私、無職じゃない。
それは私にとって、ものすごく嬉しいことだ。
「聖女のときも実質無職みたいなもんだし」
普段は基本的に暇で家で過ごす。
何かあれば馬車に乗ってそこまで向かいそして解決する。
一時期太った時期が出るくらいには無職だった。
けれど、今の私は目に見えて仕事を持っている!
その安心感と言ったら………
「全部声に出てるぞ」
えっ?はい、すんません。
「それにしても仕事かぁ。こういうのは本当に子供の頃ぶりだからちょっと、いやかなり張り切っちゃう」
久しく忘れていたこの高揚感?
それを仕事にぶつける!
「あぁ〜言いにくいんだが、リーリア、張り切りすぎるなよ?」
えっ?なんで!?
せっかく張り切ってたのに、張り切るなって。
私の中で燃焼し始めていたこの気持ちは再び穏やかに戻っていた。
「貴女が張り切ってやると何をしでかすかわからん」
「人を危険物扱いしないでくれますせん?」
いくら私でも仕事中に他の人の迷惑になることはしないよ。
過去を振り返っても……迷惑になることはしてない!
「まぁ、機嫌を悪くするな。こちらも心配をしているのだから」
心配。そうかぁ、心配してくれるのかぁ。
少し機嫌の悪くなった心はプラスの方向へ回復した。
「まぁ、我自身のだが(ボソッ)」
その横で魔王は何か言っていたが私には聞こえなかった。
ただ自分と関係ないと思ったので聞き返したりはしなかった。
半日も寝たので日付は変わっていた。
というかまだ一日しか経っていないのか、そう思うくらいには楽しい時間だった。
「仕事、仕事、楽しいなぁ」
「いやえげつないなぁ」
だいぶ慣れてきたのかもう魔王さんが声を荒げることはなくなってきた。
なんか寂しい。
「さてさて、作る!付与する!入れ替える!」
この手順もなれたものよ。
もう少しで全部の箇所を回れそうなくらいには私は仕事をこなしているのだ!
ふはは!凄いだろう。
「我、必要ないのではないだろうか?」
隣で吸引魔法の出番もこなくなって一人突っ立てる魔王が少し寂しそうだった。
さてと、お次でラストぉ。
その後もペースを落とさず、それどころか上げていく。
そして迎えた畑作り最後の箇所。
「なんか、いざ最後ってなると緊張する」
なんでだろう?やることは変わらないし、周りも対して違いがないのにね。
「さて、同じように作って付与して入れ替える」
その工程を終えて、畑は綺麗な色になった。
これで、魔族の食糧問題は来年以降は大丈夫なはずだ。
「リーリア、これで終わりだお疲れ様」
「魔王も、ありがとね?」
私は知っている現地に着いてから私に視線以外のものがなかったのは魔王が話を通してくれてたり、色々としてくれてたお陰だ。
本来なら私は人間で、敵。
やっかみとか色々と覚悟はしてたけど、それがなかったのは魔王のお陰。
それに答えられるように頑張って畑を作ったら、帰るときにはそこの人たちが手を振ってくれてたり。
本当に、良いところだよ。
「我は当然のことをしたまでだ」
「嬉しかったよ?それにさ、私のすることをみんな見てたのは多分魔王がそうしてくれたんでしょ?」
私が少しでも馴染めるように。
それを指摘すると目を逸らして耳を赤く染めていた。
「パクっ」
ちょっとした悪戯心が湧いて、その赤くなった耳を甘噛してみる。
「うにゃぁ!?」
か、可愛い反応。
魔王は噛まれた瞬間に私からできる限り距離をおき、耳を手で覆うようにして私を赤く火照った顔で見る。
「リーリアぁぁ」
「ごめんね、つい……美味しそうでね?」
悪戯と言えばちょっと怖いので美味しそうと取り繕った。
魔王は食べ物じゃない、と言って私とは目を合わせないようにして馬車の外を見つめた。
さてと、私もそろそろ腰をつけられるようにしたいなぁ。
今の所これでこの国はだいぶ良くなった。
食料さえあればあとは、なんとかなる。
いつまでも魔王に養ってもらうわけにはいかない。
これはプライドに似たものだ。
これは矜持だ。
だから、譲れない。
家、それを建てられる土地さえあれば、私は一人でもやっていけると思う。
そうして私はゆっくりと悠々自適生活を始められる。
時々魔王のところに遊びに行ったり、好きなことをたくさん研究したり。
うん、想像しただけで心が踊る。
戻ったら魔王に相談かなぁ。
流石に今の私には土地を買うお金はない。
まぁ、聖女の私でも無理だけど。基本的に無給に近かったし。
それはとにかく、荒れた土地でも良いからあれば私は生きてける。
それは今日と昨日のことで理解した。
非常識とか言われて実感わかないけど才能が凄いのは理解した。
その才能は私の悠々自適生活に活用するのだ。
というわけで城が見えた。
ついたらすぐに言おう。
私はそう決心して到着を今か今かと待つのだった。