聖女、美味しいご飯に感動する
本日三本目です。
「食事ができたぞー」
ん?
ふわぁ。寝てたのか。
「ていうかなんて言ってた?今」
魔王の声が聞こえた気がするけど……気のせいかな?
ご飯がうんぬんって聞いたけどなぁ。
「眠いし、もう少し寝るか―――」
「リーリアァ!」
「はい!」
ふぁ!?凄い形相で魔王が乗り込んできたんたけども?
「な、なんでございますでしょうか」
「色々とおかしくなってるが、ご飯だと言っておろう!さっさとこんか!」
ご飯?もしかしてご飯の時間ですか!?
「って、仕事してたんじゃないの?魔王」
「してた。というかだいたい終わったわ。半日も寝てればこちらも仕事くらい終わるわ」
いや、そうかなぁ……って、半日?私って半日も寝てたの!?
「そういえば私、魔法しっかり使ったの久しぶりだから疲れてたのかぁ」
思えば、もう何十年も聖女縛りしてきたから回復魔法、光魔法、付与魔法の三つしか使ってこなかったからなぁ。
それ以外は必要なときだけ使ったけどそれがあったのも二三回。
それも何年前。
そりゃ体は思ったよりも疲れてたのか。
「そろそろいいか?」
「何が?」
「考え事」
「すんません、いいですよ」
「なら、さっさとこい。冷めてしまうぞ」
それにしてもエプロン姿の魔王ってなんかシュール。
けど、見た目が良いからねぇ。
ショートカットで、後ろからみれば男に見えるくらいだけど、正面から見ると可愛い。
幼さの残る顔、綺麗な赤い目。
うん、恐ろしさの欠片もないね。
むしろ今のほうが見た目通りの女性だね。
「というかさ、誰がご飯作ったの?」
ここには私と魔王しかいないんでしょ?
って、そしたら魔王しかいないか?
「えっ?魔王が作ったの?」
「まだ答えていないが、そうだ。なにか文句あるか?」
文句というか、なんか意外というか。
貴族とか、身分高い人って基本的に料理下手だから……。
「うんうん。文句はないよ?ただ魔王が料理ができたことに驚いてる」
「そうか。まぁ、人並みにしかできないが、不味くはないことは保証しよう」
それを言われたら期待しちゃいますよ?
ごめんなさい。
静かにひれ伏した。
「ふふん」
魔王が得意気に胸を張る。
目の前に広がるこの料理。
これを作ったのが魔王なら誇っていいです。
「私ってそこそこ高い地位にいたから結構良いご飯食べてきたけど、これほどとは」
目の前に広がるのは数々の輝く料理の品々。
具体的には黄金のスープ、光を反射するほどの白さを持つパン、今にも肉汁が溢れそうなステーキ。綺麗に盛り付けられた果物。
良い所の生活をしてきた私もこれほどの(まだ見た目だけだが)料理を見たことがない。
「さぁ、早く召し上がれ」
「う、うん。いただきます」
ちょっと料理の気迫に押されながらもフォークとナイフを手に料理に手を付ける。
ふわぁ!?
な、なに、これ?
気づけば私は泣きながら笑ってがっついていた。
「お、おい、どうした?」
「魔王」
私は俯きながら、しばらく間をおいて
「めちゃくちゃ美味しいよぉ」
間違いなく、私が食べた中で一番美味しいです。
最近美味しい料理を食べてこなかったから余計に!
「スープは口に入れた瞬間香りが広がり舌の中で広がる味の世界!パンは食べると甘みが広がり溶けるように喉を通る。ステーキは噛めば噛むほど肉の味がハッキリと伝わってきて旨味が一つ一つハッキリとわかる。なにこれ本当に泣くほど美味しいよ!」
「そ、そうか」
若干引き気味だった。
けど、本当にそれだけ美味しかったんだよ?
あっ、過去形なのは食べ終わったからね。
「魔王の最終兵器がまさか料理とは」
「いや、褒めてくれるのは嬉しいが違うからな!?」
揶揄だから真に受けないでよねぇ。……まぁ、二割八分本当だけど。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
一度落ち着き、お礼の言葉を言う。
あぁ、まだ口の中に味が残ってる。
これならいくらでも食べられる。
「しかも凄いのは初めてなのにしっかりこっちの食べられる量を把握してるところなんだよなぁ」
「それくらい、見ればなんとなくわかるものだぞ?」
「…………魔王は職業間違えたんじゃない?」
「それ、前にも言われた」
そうですか。
その人も、同じような感動を感じたんだろうなぁ。
「いやぁ。これなら良いお嫁になりますなぁ」
「冗談はよせ。まぁ、それも前に言われたなぁ」
……話し方的に同じ人みたいね。
その人とは一度お話したいなぁ。
「そういえばさ?」
私は思い出したように魔王を見る。
「どうした?」
「私ってさ、今無職なの」
「それがどうした?」
なんでもないように聞き返す魔王。
「仕事、紹介してくれない?」
「仕事?してるではないか?」
そうなんだよ、無職っていうのは体が悪いんだよね……って、え?私仕事なんてしてましたか?
「畑の開発、してるではないか」
…………
「言われてみれば。でも給金とかもらわないボランティアみたいなのだと……」
「給金がほしいなら出すぞ?そういうのいらないと思ってたから出さなかったが」
………
「まじっすか?」
「マジだ」
私、無職問題が怖かったんだけど、なんか解決してた。
知らず知らずのうちに。