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聖女、茶番に幕を下ろす



「さて、教皇よ。なぜ貴様がそこにいるかわかるか?」


グランは教皇に問いかける。

確かな怒りと侮蔑を持って。


「はて、私にはわかりかねますがね」


そうやって飄々と言ってのけた。

グランの声色をものともしない様子で笑う。


「それよりも勇者にそのようなことをするとは、神がそのようなことをお許しになるとお思いで?」


……なるほどね。

神が遣わした存在である勇者を私たちが勝手に裁いていいのか、って言いたいのね。

勇者が余計なことを言う前に取り返したいわけね。


だけどね?あなたは決定的に勘違いしてる。


「思うな。そもそも勇者などと言うのは神とは関係なく出現する存在のことを言うのだ。その力を得た存在が悪しきものならば裁くのは道理であろう」

「なっ!?」


勇者は神とは関係ない。

確かに神に愛されるものかもしれないが、誕生は別に神が関わっているわけじゃない。


素質であって別に使徒とかそんなんじゃない。

私の聖女や賢者の賢者がそうであるように。


「そんな馬鹿な!」

「それに貴様、まだ自分の立場がわかっていないようだな。今の貴様は交渉できる立場にはいないと言うことを」


そう。

いつから教皇はものを言える立場になっていたのか。

この場は裁きの場。そして教皇は裁かれる側の人間。それがどうして裁く側の人間よりも上の立場にいるつもりなのだろうか。

それが私にはわからないが、頭のなかに聞けばいいからそれは追い追いやるとして、今は老害を処分する場である。

私にもできることはいくらでもある。


「くっ」

「パンテル教皇」


私は静かな声で話しかける。


「なんですか?」

「陛下、よろしいですか?」


二回ほどまばたきを送りながらグランに問いかける。


「許可する」


当然のようにグランは私に許可を出す。

許可は出た。なら、あとは私が追い詰めるだけだ。


「パンテル教皇、あなたは私のことをどうお思いですか?」


私は核心をつくための一言を放った。


「は?」


パンテル教皇は一度呆けた顔をしてから、その意図に気付き慌てて表情を取り繕い、悲しい表情をとる。


「あなたが生きていたことはとても嬉しいことです。あなたがいてくれたから多くの民が救われた。私はとても感謝しています」


…ギルティ。


「嬉しい?感謝?違いますよね?」


表情は私の言葉で崩された。

悲しみから怒りの表情に変わるという形で。


「あなたは私のことが心底嫌いでしたよね?私のことを鬱陶しく思ってましたよね?」

「はて、何のことか…」


いいわけをさせる暇を与えない。


「私が功績をあげる度にあなたは不自然なほどに私を仕事へと駆り出した。魔王討伐に行く前の二年なんかはほとんど動き回っていました。感謝?ふざけんなよ?感謝してんならそんなことをさせるか?」


そうなのだ。

私は何かを成す度に必ずと言っていいほどに次の仕事へと足を運んでいた。

それが不自然なほどに続いた。しかも私が行かなくてもいいほどな小さな依頼で。

そしてほとぼりが冷める頃には戻ってきて余計なことをさせないようにさせていた。


お陰で私の名前は国中に轟いたけどね。


「事実の確認は済んでいる」


っと、ここで掩護射撃入りまーす。


「ここ数年間、リーリアを除いた多くの者が口を揃えて暇と言っていた。実際にその通りだった。仕事を行っていたのはリーリアがほとんどだった」


それに、とグランは続ける。


「貴様に近いものは不自然なほどに身分の高いものへの治療などを定期的に受けているではないか。不自然な金の流れもあったしなぁ」


要約、私には重労働させ続けてるくせに何で他の人たちは暇なん?しかも楽で実入りのよさそうなものは何で君の身内ばかりが受けてんの?

それに何でお金を受けとってんの?慈悲活動でしょ?


実際に私は金銭はほとんど受け取ってない。

公務員としてのお給料が国から降りてる程度だ。

あとはほとんど上に吸われている。


「まぁ、それは置いておこう」


しかし、それだけ追い詰めたのにグランは話を切った。

それはなぜか?これは本命じゃないからだ。


本命はもちろんここからだ。


「罪状を読み上げてなかったな。貴様の罪状はこれだ」


それと同時にグランは例の映像を流した。



『パンテル教皇は裏では色々とやっている』


私が吐かせたあのときの映像だ。

ぼっきぼきに心をへし折って吐かせているところだ。

ちなみに映像の私はモザイクがかかっていて私とはわからない。

しかし、映像の男が裸で謎の女性に躾られたことはよくわかる感じだった。


『聖女リーリアだってあの人が死んだと言った。間違いないって言っていたのに……』


この告白で辺りはざわつく。

間違いないって言うのが重要だ。

確かに私は死んだ扱いされていたが、言い方の問題なのだ。

感謝している、そんなことを言うようなやつがそんなこと言うか?しかも何でそんなことを映像の彼は聞いたのか?鋭い人はそこへも疑問を持っただろう。


答えはすぐに出てくる。


『パンテル教皇が勇者に聖女を殺すように依頼したくせに、何が間違いないだよ。死んでねぇじゃないか』


これが答えだった。


『他には?あるんでしょ?あくどいこと。正直聖女のことはもういいわ』


パチーン


『後ろめたいことはまだあるのでしょ?知ってる限り全て吐きなさい?』


ペチーン

フミフミ(顔をピンヒールで踏みつけにする音)

スーー(撫でるように叩いた肌に鞭を擦らせる音)


『言います!言いますから!もう『自主規制』みたいなプレイは勘弁してください!』

『早く言えば、考えなくもないわ』


そうして口早に次々と知り得ることを吐いてくれた。



「なるほど?信者への性的暴行、脱税、横領、恐喝、さらには殺人依頼まで。他にもキリがないな?」

「デタラメだ!」

「いんや。少なくともここに上がった半分以上は事実だ」


そうして新たな証拠を持って一人の修道服を着た女性が上がってきた。


「って、え?」


聖女モードに入ってるから大きな声は出なかったが、内心はとても驚いている。


何故に師匠!?


その証拠を持ってきた女性が、リーリアの師匠だったのだ。


「ほれ、お前ん家にあった報告書とかだ。うわぁっ、あくどいことしてんなぁ」


なにはともあれ動かぬ証拠だ。

これで言い逃れはできない。


教皇のサイン付きの書類。

内容は殺人の依頼。また村への病のばらまき。


「なるほど?こうやって名声をあげさせていたわけか。ひでぇマッチポンプだなぁおい」


もう、何も答えない。

顔は真っ青だった。


どう頑張ってもここから無実になることは難しい。

さらに、無関係な市民の目があり、刑が軽くとも先の人生は真っ暗だろう。


「さて、老害」


そしてここで私も聖女でなく、何でもないリーリアとして老害と話をする。


「私は怒ってるの。人々に希望を与えるような組織の一番上がこんな最低の屑で、そして何の罪もない人を不幸にし、信者という味方にまで手を上げた。私は自分が殺されかけたことなんてどうでもいいけど、それは許せないの」


だから、と私は続ける。


「あなたのこれからしようとしてることね、全部砕いて行こうと思うの」


影のかかった笑みでリーリアはパンテル教皇を見つめた。


「どういう…」


その無言の圧力に耐えきれず、声を出したそのときリーリアは動いた。


「バインド」


ギャァァァ

ウギャァ!?


「ね?」


パンテル教皇は悲鳴を上げた場所へ、恐る恐る目を向けると、そこには協力者の姿があった。

ただし、痺れて倒れ伏した状態で。


「おめぇのやることなんてわかりきってたからな。これも一つの証拠として利用させてもらった」


呆気に取られている教皇に対して、師匠は淡々と私のしたことを説明した。


「それに、実を言えばこんな茶番なんていらなかったんだよな」


続けて師匠はぶっちゃけた。

言わなくてもよかったのに。


「ちゃ、茶番?」

「そうだ。こんな証拠なんて揃えずともはじめからお前に強制的に吐かせりゃ終わってたんだからよ」


どういうことか、と思うが、実際その通りだ。

何せ、拷問してもいいし調教してもいいし、何なら魔法で吐かせても良いのだ。

それなのに証拠を集めて、口論で追い詰めるように立ち回ったのは見せしめのためだ。


「そんな強引なやり方じゃ、そのうち反発されちまうからな。なら、こうやって公の場で正攻法で吐かせて追い詰めりゃ、他の奴らはそんなことをすることは少なくとも減るだろうよ」


まぁ、つまりは公開処刑という形に意味があっただけで別に認めようが認めまいがはじめからギルティは確定していたわけだ。


「はは、はっ…なるほど、確かに茶番だ」


そうして観念した。

心がポッキリ折れた形で。


「認めます。全て自白します」


これはせめてもの抗いだろう。

自白して刑を軽くしようとしているのだろう。ついでに他の奴らを売って減刑まで狙っているかもしれない。


だが、老害の年を考えればこの先、牢を出ることはできないだろう。

だから悪あがきだ。


そうして全ての罪を話し終え、グランが刑を確定させる。


「教皇パンテル。貴様は地位の剥奪、ならびに全財産を没収し、無期懲役刑。そして強制労働の刑に処す」


強制労働の刑というのは特殊な魔道具を使い、一時的に奴隷のような状態にして強制的に働かせるのだ。

なぜこの強制労働の刑がついたのか?それは教皇が回復の魔法を使うことができるからだ。

自らが犯した罪を考えて意趣返しの意味も込めてこの刑を加えたのだ。


「連れていけ」


そしてパンテルは連れていかれた。

多分もう二度と会うことはないだろう。


「すぅ。はぁっ。これで全てが終わったね」

「なに一人で浸ってるんだ?」

「師匠」


別に良いじゃないですか。


「飲むかい?」


いや、これ度数がめちゃめちゃ高いお酒……。


「家に帰ってからで、お願いします」


普段なら断るが今日はこうやって色々とスッキリした日だ。

ならば飲みたくなるものだ。


「それに、証拠とか集めてくれていたんですし、お礼くらいはしたいのでね」


そんなことを言うと、師匠は顔を歪ませ


「リーリア、熱でもあるのかい?」


なんて言いやがった。


「……真面目なことを言わなきゃよかった」


まぁ、なにはともあれ、一段落つきそうだね。


「熱は、ないみたいだね」

「それは引きずらないで下さい」


締まらない。

どうしてくれるんですか師匠。


「知るかい。というか誰に話してるんだい」


私もわからん!

というか師匠まで心を読まないでよぉ!




これで一区切りがついた。

というわけで次事後処理やってスローライフへ行こうと思います。

手抜きはしてないけどアップテンポで書いてたらなんか思ってたのと少し違う出来だった。けどこれで良いかと思ったからこれでよし。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

一応まだ本編は続くのでこれからもよろしくお願いします

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