聖女の復讐は楽しみながら その4
最初と最後がリーリア視点で、真ん中が勇者の視点です
こっちこっちお馬鹿さんたち、こっちだよ~♪
なんてできたら楽だったのになぁ。
「ゴーストビジョンを使う予定だったのに」
あの馬鹿雑魚のくるくるパーな考えのせいで使えないじゃない!というか賢者も、一緒にいる女も止めろよ!
森で火なんて使ったらどうなるかわかるだろうが!
それとも賢者も女もグル?
「どちらにしても、この馬鹿二人組はしばく」
これは確定事項。女は知らんからなにもしない。
それはともかくとして、私が直接出て誘導しないといけないから、仕込みをしないと。
魔法とかは仕込む必要ないけど、リアル感を出すために色々とね。
・・・
俺は勇者。
魔王討伐のための道を進んでいる。
「いきなりゴーストがでてくるから驚いちまった」
まさか、昔抱いて殺した女が化けてでてくるとは思ってなかったぜ。
本当にシレーナがいて助かったぜ。ゴーストは光魔法や聖魔法がよく効くからな。
それはともかく、こんなに火が燃え上がるとは思ってなかった。
だがまぁこの程度ならなにもしなくても勝手に消えるだろ?
賢者も特になにも言わないしな。
それに俺たちは魔王討伐と言う崇高なる目的のための旅の途中なんだ。
この程度のことで足止めは食らわねぇ。
「……なんだ?」
なにか見覚えのある影がいた気がするが……気のせいっぽいな。
まさかな?
俺たちはその森からしばらく歩いていた。
おかしい。
なにかわからないがおかしい。
なんと言うか肌寒いし、なんだか体が重く感じる。
「あ、あれはっ」
シレーナが驚いて、声をあげた。
その視線を追うと、そこには見覚えのありすぎる女がいた。
『勇者、賢者、ユルサナイ』
「前聖女様……」
俺が声に出さなかったことを言ったのはシレーナだ。
だが、今はそんなことより、この女は殺したはずだ。
しかもここよりももっと先の場所で。
それなのに、何で
「勇者、あれはゴーストだ!」
賢者が冷静に声をあげた。
「ちっ、バースト!」
俺は舌打ちしつつ、爆発の魔法を発動させた。
ゴーストならこれで傷つかない。
それを確かめるため、あわよくばこれで倒すつもりで放った。
「効かないか」
「ゴーストだと言ったろう。シレーナ、出番だ」
「はいっ!すみません、今は私が聖女なので!」
あの女の足元から光が溢れた。
先ほどの女のゴーストもこれで消滅した。
だからこれで倒れた。そう思った。
『ユルサナイ、ユルサナイ!』
しかし、そこには何も変わらないあの女の姿があった。
「なっ?」
俺も、シレーナもそんな姿に動揺を隠せなかった。
あれで消滅しないのなら、どうすればよいのかと。
「恐らく、聖女だったあの女は光や聖の魔法に強い耐性を持っているのだろう。ゴーストになっても」
厄介だな。死んでもなお俺の邪魔になるか!
ふざけやがって!俺は選ばれた男だ。選ばれなかった哀れな女のお前に邪魔されてたまるか!
「勇者、ここは引くぞ」
「俺が逃げる、だと!」
「悔しいですが、あの人をどうにかできる手段がありませんですからここは」
二人の説得は間違いないのだろう。
だが、俺は勇者だ。選ばれた人間だ。
そんな俺が、魔王でもないやつのために逃げるなんて!
「くそっ!」
俺は結局きた道を戻る選択をした。
『ニガサナイ』
が、そこは塞がれてしまった。
天から飛来した無数の光の槍。
それが俺たちの退路を塞ぎ。
そして、あの女のゴーストはすぐさま退路に立ちふさがった。
「くそっ!ふざけるなよ!雑魚がぁ!」
俺は剣を抜き斬りかかる。
『コロシテヤル!』
「こっちが殺してやる!」
力をかなりのせた一撃は空をきった。
それはそうだ。相手はゴーストなのだから。
「勇者!」
俺を呼ぶ声と共に、光の魔法が女のゴーストに被弾した。
「前が開いた!走れ!」
俺は賢者の言うことに従い、きた道ではなく、先の道へ逃げた。
いや、進んだのだ。
逃げてなどいない。
あの女を撒いて進んだのだ。
「ははっ!やはり所詮はあの女のゴースト!馬鹿だな!」
そうやって嘲笑い俺はその女のゴーストが見えなくなるまで先を進んだ。
それから勇者たちは、リーリアのゴーストを恐れてか、休む間も最低限に魔王城を目指した。リーリアのゴーストを恐れるのを否定するように勇者は力強く、何も言わず魔王城を目指した。
・・・
「行ったかな」
プッ
私は勇者がいないのを確認して、その場で吹いた。
「アハハっ!何が馬鹿だな!よ。攻撃は効かずに打つ手がなくなってただ逃げただけなのにね」
馬鹿なのは勇者たちのほうだっての。
気にならないのかな?なんで進むときには追いかけてこなかったのかとかね?
それに気づければ私に意思があることに気づいてゴーストじゃないってわかったかもしれないのに。
「なにはともあれ、あとは定期的に急かすだけで終わりね」
あいつらには勝てない相手と思わせた時点で私の作戦は成功している。
勝てないが逃げれない訳じゃない相手と思わせることが今回の目的だ。
逃げられないなら別だが逃げられるのなら戦闘を避けるためにどんどん前へ進むしかない。
寄り道なんてさせない。
さっさと進ませて、落とすの。
「さてと、この距離ならあと一週間もかからないかな」
あとは、あれに間に合わせるようにするだけ。
いやぁ、簡単なお仕事。
あれに間に合わせるためには今回こうやって急かす必要があった。それもこの位置で。
魔王にはただなにもしないように見張るだけと言ったけど、そんなわけないよね。
私は勇者たちをぼこぼこにしてやるって決めてるんだから。
「あとはグランに報告して、軽く見守る程度でいいかな」
私のゴーストに怯えて先を急ぐ勇者たちは寄り道なんかしないししたところで私が追いやる。
今回は、魔王城に着くのをマイナスにしないようにしたかったのだ。
グランとの作戦、六日後から七日後。
この間に勇者たちが城に着くようにしないといけなかった。
「この作戦を知ってるのはグランと私の二人。さてとどうなるかなぁ」
私は一人、いつぞやのときのように魔女のような笑い声を響かせた。
前の話をしたから、泣いて詫びさせてる暇がなくなったので仕方なくただ追いやるだけした。
「本当に、シッカナタク、これで許してやったのよ。その分後でちゃんと取り返させてね?」
みたいなセリフを用意してたけど、いいやってなってやめた。




