聖女の復讐は楽しみながら その3
私は勇者の通る道に近い町へ先回りした。
魔法が発動したからには、何時間も待たずともすぐ来るだろう。
「あっ、変装しとこ」
変身。
女神の時とはまた違う感じで、黒髪のスラッとボディのメガネ女子に変身した。
ちなみにこの姿はどこかのおじさんがメガネ萌えとか言って力説してきた時の物である。
具体的なイメージが固まっていることからどれくらい力説されたかは悟ってほしい。
「これなら勇者の目には止まらないわね」
あの馬鹿は巨乳が好きですからね。
この姿はぺったんこですから。
それに丸メガネでちょっとダサく見えるそうだし、これでも目に止まればどんなに女好きなのよ。
まっ、それに呪いの件もあるし、控えてると思うのよね。
「それはともかく、静かに待ってるか」
やることないし、しばらくはこの辺をぶらぶら散歩してよう。
来たら騒がしくなるだろうしね?一応見える位置にはいるけど……
ドガンッ
「……ん?」
あれ?なんか火の柱が上がってる。
って、続けて光の柱が……って、十中八九馬鹿たちね。
それに、あそこは森だったような。
火事になる前に何とかしないと。
「あぁ、もう!私が悪いとはいえ、余計な仕事を増やしやがって!」
私はその場へ走った。
被害を抑えるために。
到着したときには、かなりの面積に燃え移っていて、全て消すには、大規模な魔法を使うか大立ち回りしないといけない。
しかし、それは今の私にはできない。
曲がりなりにも賢者があちらにはいる。
賢者に私という存在がバレたらこの作戦に支障がでるかもしれない。
それは不味い。
大立ち回りなんてなおさらだ。
「どうする?」
小規模の魔法なら問題ないはずだ。
一先ずは、気休め程度の水魔法で手近を消火する。
「無理、ね」
しかし、火の勢いが強く、また燃えるものが多すぎて消してもなくならない。
「馬鹿たちは?」
そちらへ視線を向けるが当然ここからじゃ何も見えない。
が、火の勢いがどこも変わらないところから何もできていないんだろう。
なら、どうする?
「……風は?今風はある?」
一度集中して周囲の環境をその身で感じる。
「とても弱い風があるくらいね」
これならいけるかも。
「けれど、人手が足りないかも……」
「お前ら!死ぬ気で火を消せぇ!」
……ご都合ね!
ありがたいわ!
「ちょっと待って!」
私はその火を消そうとしている人たちに声をかけて、今から私がやろうとしていることを説明した。
そしてその原理を軽く説明してこちらの方がいいと考えさせた。
「確かに、それがいい。なら応援を呼んでこよう」
「ありがとうございます」
「いいんだよ。もとより俺たちの手でどうにかするもんなのに旅の嬢ちゃんの手を借りてるんだからな」
彼はとても話のわかる人だった。
そして、この町の住民たちからの信頼も厚い。
本当にご都合的展開だった。
「なら、私はあっちをやってくる」
「それなら、俺たちはあっちを中心的に処理してくるぜ」
私は頷いて走り出す。
「ウィンドカッター!」
私は手前にある、まだ燃え移る前の木を斬り倒した。
私が思い付いたのは、破壊消火というもので、どこかのおじさんが話していたものだ。
これは大規模な火災の時に被害を大きくしないために行うもので、火を燃え移らせないように先に燃えるものを壊してしまうというものだ。
火はあくまでも燃えるものがあっての火なのでそのもとを絶ってしまおうという考えらしい(どこかのおじさん談)。
火事自体が収まるわけではないが規模が拡大しないならばあとは消化試合だ。
風を確認したのは、風で火が燃え移らないかということからである。火の粉が飛び燃えたらどうしようもないので。
「ウィンドカッター!ウィンドカッター!」
走りながら、一つ一つしっかり斬り倒していく。
ついでに空いた手で水も放つ。
湿らせておけば燃えにくくなるはずだから。
「ったく、あんの馬鹿めぇ!」
自分の尻拭いは自分でしなさいよね!
見失ってしまうかもしれないけど、今はこれをどうにかしないと。
そうして私は木を斬って斬って斬りまくった。
一時間後。
「収まったね」
火は完全に鎮火された。
破壊消火は上手く機能し、被害も森だけで収めることができた。
恐らくだが、あのままだったら町にまで火の手が上がっていただろう。
それは防げたからよかった。
森も全焼じゃなかったそうなので、多少の生態系の変化はあれど大きなものはないそうだ。
「よかったけど、はやく勇者を追わないと」
あいつら無視してがつがつ前に進んでいきやがった。
というかゴーストいないのに、火を撃つなよ。光の方はまだいいけども。
「予定変更。切り上げる。さっさと誘導してあとは無干渉」
あれが下手なことやって今みたいなことになったら許されん。
というか迷惑。
「というわけで探してさっさと終わらせましょ」
私は空に舞い上がった。
ちなみにだが今回のボヤ騒ぎ、リーリアのゴーストビジョンと全く関係のない野生のゴーストに対しての魔法だったというのは後日談である。
さらに、そのゴーストは勇者によって切り捨てられた女のものだったというのはさらに先の後日談である。
あんの勇者ぁ!余計な仕事増やしてくれやがってぇ!
自分で書いといてなんですが、ボヤがここまで大きく発展するのは予想外だった。(書いてるうちにどんどん大きくなってた)
そのせいで本来到達予定のところに辿り着けなかった。許すまじ。(これを俗に責任転嫁という)




