聖女、悪巧み
拷もっんんっ聴取の末に私が聞き出した情報は大変有意義なものだった。
しかし取り扱いは私一人ではできないので、ちょっとそろそろ本気で潰すことにした。
「本気でやると決めたからには頼らないわけにはいかないよね」
私の人脈はとてもとても、それは海の端から端くらいある。……流石にそれは嘘だけど、それくらい広いものがある。
あまり知られてないし、その人たちはあまり公言もしないので友達くらいの気安いものだ。
だが、色々と権力を持ってる人もいるのでこういうときは遠慮なく頼らせてもらおう。
「そのためにはまず話をつけよう」
転移!
私はある場所に転移を行った。
「ふぅ。おひさグラン」
と、軽い感じで挨拶をしたグランという、もう四十を越えるだろう年なのに、威厳が全く衰えないおじいさん。
「おう、久しぶりだな、リーリア」
そして、この国の王様だった。
本名をグラン=アースラ。
もう一度言うがこの国の王である。
「ずいぶんといきなり出てくるじゃねぇか」
「転移ってそういうものよ」
そんな相手に軽口を叩き合う。
普通ならお前なにしてんの?!って言われるけど、グランは私の友達。
というか、おじさん?みたいな人である。
出会いは師匠の知り合いとして紹介されたわけなのだが、身分を知らずに接していて、正体を知った頃には、へぇ~、という感想しか出なかった。
接し方を変える、のは簡単だった。
なぜならそういうのが必要な場では基本的に聖女だったからだ。
勝手に変わっていた。
そんな私を見る度にグランは笑いを堪え、そして私はそんな姿に内心何回も笑ってた。
お互い表面は笑わなかったけど。まぁ、師匠は思い切り笑ってたけど。
「で、なんのようだい」
と、さっきまでの雰囲気は一気に払拭された。
相変わらず、私以上にスイッチのオンオフが上手いんだよねぇ。
この人はオフの時は気さくなおじさんだけど、オンの時はボロ一つ出さないし、空気が張り詰めるような感じを出してくる。いわゆる歴戦の猛者的な。
「なら、これを見て」
私は先程の光景を写し出した。
証拠として、魔法による記録を取っていた。
SHITSUKEの光景も、白状するところもしっかり記録した。
なぜならこうやって形を残さないと、言い逃れの余地を残してしまうからだ。
「お前、それどこで教わったんだよ」
素に戻ってる…。
というか、どこって言われても、自然と覚えた?
「強いて言うならどこかのおじさんかな」
「オーケー。あいつはちょっとしばかねぇとな」
本気、じゃないよね?
私はそう祈るしかできないので、あとはそっちの方でよろしく。
「じゃなくて、本題」
話がそれ始めたので修正した。
「そうだな……こいつらを潰すには流石に面倒だな。だが、もう布石は打ってあるぜ」
そんな簡単に行くわけな、い?
今なんて?布石を打ち終えてるの?
「なんで?」
「そろそろあいつらは潰さないといけなかった。ついでに」
一息飲んで、しばらく息を置いて
「うちのリーリアに手を出したんだ。それなりの覚悟はあるんだろう?」
と、常人なら失神するレベルの覇気が溢れた。
頼もしいおじさんだよ。
私は呆れ顔で、苦笑を漏らした。
「さて、まずはリーリア、勇者が再討伐に向かったぜ」
「あっ、やっぱり?」
確か前に顔見たとき、そんな感じのこと言ってような。
まぁ、予想はしてた。
というか、それが布石なの?
「それが失敗したら、そこからが俺たちの仕事だぜ?」
悪どい笑顔を見せる。
「そうね。あいつらにはしっかりと痛い目を見てもらわないとね」
そして、こちらもまた恐ろしいほどに悪どい笑顔を見せた。
ついでにヤバイ方の笑みも混じっていたりいなかったり。
「んじゃ、勇者が魔王城について負けて逃げるところで捕まえるね。それで……」
私はグランにどういうことをするのかを事細かく説明した。
「えぐいこと考えんな、お前。だが、いいぜ。あの馬鹿は一度フルボッコにしないと気が収まらないしな」
ホントにね。
物理的にも精神的にも社会的にもぶっ飛ばしてあげる。
待っててね?
「それはそうと、お前これまで何してたんだ?」
あっ、思い出したな?
私は開口一番にそれを聞かれると思ってたのに。
「そりゃ、まぁ、ね?魔王蘇生させたり、病気を治す薬を作って配って回ったり、してた?」
「なんでお前が疑問型なんだよ」
なんででしょう?
色々ありすぎて現実感がなかったから?
「あっ、お前もわかってなさそうだな。ならいいか」
なら聞かないでよ。
「て言うか、なに?お前魔王蘇生したん?」
「したけどなにか?」
「ナイス」
サムズアップ。
そして私もサムズアップ。
「……魔族が悪い存在じゃないのはわかってるんだがな」
唐突にどうした?
そんな私の顔を見て苦笑して、まぁ聞け、と一言言って話を続けた。
「俺は立場的に、人々の不安の種をなくす義務がある。そして余計な混乱を生まないためにも俺はなかなかそんなことを口には出せない。だが、魔王には申し訳ないと言ってくれ」
グランは、王として責務を全うしてるだけなのに、何一つ間違ってないのに、グランとしては間違いなのかもしれない。
そうじゃなきゃ、こんなに寂しそうな顔なんてしないもの。
「それともう一つ、これが終わったら、協定でも組もうぜ、ってな」
「ぶっ、ちょっ!?さっきのあれはなんだったの!?」
俺は立場的に魔族を敵対しないのは無理みたいなことを話して謝罪の言葉を口にして、それで協定って、言ってることちぐはぐだよね?!
というか、他の国からの圧とかあるんじゃなかったかな?
この国は今のところは大陸最強の国ではある。
物理面でも、経済面でも。
そのため、他の国が攻めてくることはないが、その変わりに義務やら何やらとしがらみは多い。
その国の王が魔族と手を組むと言いましたか?!
いや、私としては嬉しいけど、大丈夫なの?
私は心配だ。だけど、それ以上に
「はぁ。わかった伝えとくね」
嬉しかった。
だって私は魔王の親友だから。
聖女などではなく、一個人としてその協定は嬉しいものであるから。
「そのためには、さくっと今回の案件を終わらせますか」
仕込みはほとんどこれで終わった。
あとは実行するだけ。
「さぁ、勇者さん。その勇気で魔王と対峙して、せいぜい綺麗な踊りでも見せてね」
それで、悪巧みが進み、一つ前の話に繋がるというわけ。もう一話悪巧みする。




