聖女、次の仕事へ
あのあと、特に何事もなく、配布は進んでいった。
一部の人にはモニターとして監視下の元効き目の確認もした。
そうして人間の国側から配布を進めていき、最終日まで特に何事もなく配布を終えた。
つまり、表立って何かする人はいなかったってわけだ。
まぁ、そりゃね。
「お疲れさまでした」
「メリアもね」
二人で最後の配布を終えたあと、椅子に座り、力を抜いていた。
正直に言うと配布に関して何もなかった。
だが、配布をしたのは私とメリアさんの二人。
そして全ての人に渡るように回ったわけで、疲労はとんでもない。
疲れたぁ〜。早く家帰りたい。
途中でその付近によることはあったにはあったが、メリアさんの馬車では降ろしてもらえるわけもなく、結局よることはできなかった。
うぅ、家が恋しい。
次帰ったら絶対に三日くらいはダラダラする。
そんなことを私は固く誓った。
「そう言えば、魔王様から手紙が送られてきました」
思い出したかのように懐から一通の手紙を取り出した。
そこにはリーリアへと書かれていた。
「ねぇ、それって」
最初から持ってたよね?と、続けようとしたが
「はい?」
と、笑顔で疑問符を上げるメリアさん。
その表情は何も聞くなよ?
と訴えていた。
「はい」
私は否応なく、一度頷き手紙をもらった。
「えぇっと」
手紙に書かれていたのは……
「……発生源の調査です、か?」
えっ?マジ?
今終わったばっかなのに仕事させんの?
手紙には私が行くべき理由と謝罪の文面もあったにはあったがわざわざメリアさんに仕込んで渡してきた辺り確信犯だな?
いや、元から頼む側が確信犯もないか。
「はぁ。仕方ない、か」
そりゃ私だって色々あるわけですよ。
罪悪感ってやつが紛れてはいたが消えていたわけじゃない。
あのとき、私は人間の国からの話で罪悪感を抱いた。
けど、魔王に怒られ、心配され、私のせいじゃないと言ってくれた。
嬉しかった。それは事実だが、一度芽生えた罪悪感を消すことはできなかった。
それは薬を配っている間ずっとだ。
見越していたのかわからないけど、魔王はこのタイミングでこれを告げるってことはそういうことやね。
「私のためでもあるんだから、行かないわけにはいかないね」
私は椅子から立ち上がり、体をうーん、と伸ばした。
「やっぱり理解しましたよ、リーリアは」
隣のメリアさんがなんか言っている。
私の考えはあってるみたい。
魔王もホントに優しいんだから。
私は友だちの優しさを感じて心が暖かくなった。
ついでに次あったら全力で遊ぼうとも思った。
さて、発生源を調べないといけないから、人間の国に行くのは間違いない。
ここに帰るのは転移で一発だ。
行きは調査も兼ねているので転移で飛ぶわけにはいかない。
しっかりと万全の準備をしなければ。
「さぁてと、行こうか」
「えっ?今からですか?」
隣で私の独り言を聞いていたメリアさんが驚きの声ととも聞き返してきた。
「もちろん。サクッと終わらせたいからね」
それに特に迷った様子もなく私はあっけらかんと答える。
「そうですか。なら、荷物は持っていってください」
そうするとどこからかリュックサックを一つ取り出し私に渡してくれた。
「ありがと。えーっと、携帯食に簡易結界、替えの服にマント?」
変装用かな?
というか簡易結界って、結構高価なものだった気がする。
簡易結界とは、ワンタッチでその場に結界を張ることのできるアイテムだ。
ただこれ、結界を発動させる魔力を外部から吸収するように作られている。それを実現するための材料がとんでもなく高い代物。
人間の国では位の高い人が遠征とかで野宿を余儀なくされるときなどに使用される。
これの強みは魔力は外部から吸収されるので、誰かが魔力を注ぎ続ける必要のないところにある。
「マントは変装用です。リーリアは顔バレは不味いですからね」
そうだね。
「それと簡易結界ですが、私のお手製ですので、効果は通常のものと比べて高いです」
お手製ですか?
前に見たのと見た目に変わりがないからわかんないや。
「驚かないんですね」
「え?驚くところありましたか?」
私は驚かないのかと聞かれてもどこに驚く箇所があったのかわからないので素直に聞き返した。
「いえ、いいです」
なんだよ〜それ。
「それでは近くまで送りましょうか?」
「大丈夫!」
それは嫌だ!絶対に無理!
間髪入れずにお断りさせてもらいました。
「転移あるから」
ははっ。
転移、覚えておいて良かったよぉ。
「そうですね。それでは、お気をつけて」
メリアさんはその場で姿勢を整えて、主を送るときのような礼を私にした。
それを横目に転移を発動し、私はその場から消えて、人間の国に一番近い村の方まで転移した。
配布のときのイベントはなし。
次へいきましょ。




