聖女、魔王と話す
「ねぇ、お話、しましょ?」
…………
ねぇ、なんでフリーズしてんの?
「えっ、いや、はい?」
魔王はとても拍子抜けたり、意味のわからないような表情で私を見た。
「何かわからないこととかあった?」
「えっ?いやいやいや。わからないことだらけだぞ!」
そんなにわからないことあるかなぁ?
ただお話しましょ、って言ってるだけだよ?
「そんなにわからない?ただ話したいだけなんだけどなぁ」
というわけで説明を求む。
何がわからないか聞きたい。
「いや、だってお前は勇者と一緒にいた」
「だから、勇者君はいないって言ったでしょ?」
せっかく教えたのに、聞いてなかったの?
「いないからって!」
「それにあいつらは既に私を死んだものと思ってるんだよ?それなのに今さら私が何をすると思う?」
「えっ?死んだ?へっ?って、まぁ、確かに……じゃない!」
困惑したあと突然声を荒らげた。
「とりあえず我は死んだはずなのに生きてるし、起きたら目の前にさっきまで戦ってたお前がいるし、お前は何故か死んだことになってる、って、わかるかぁ!」
………確かに。
私もこれだけじゃ状況わからないわ。
せいぜい、生きてる、死にそうかも、くらいのことしかわからん。
「すみません、説明不足でしたね。じゃあ、1から説明するね」
かくかくしかじかまるさんかくしかく、っと。
「な、なるほど。とりあえずお前が敵じゃないのは理解した」
「お前じゃないよ?魔王。私はリーリア」
いつまでもお前とか呼ばれるのは嫌だから、名前で呼んでもらえるかと聞く。
「まぁ、わかった」
「ありがと」
やっぱり話がわかる人だよ、この人は。
「さて、ゆっくり話をしましょう」
何から話そうかなぁ?
話したいとは思ったけどなんか話す内容が思いつかない。
「どうした?聞かないのか?」
「いや、聞きたいけど、いざ話すとなると、ちょっと緊張して……」
「恥ずかしがり屋?そんなわけないだろう?さっきまであんなに……」
二人とも黙り込んでしまった。
「とりあえず、さ?困ったこととか、聞きたいこと、ある?私に」
困ったときは相手に回す。
受け答えは上手いのよ?
「そうだな、勇者と賢者、やつらそこまで強くないよな?」
あの二人?弱いよ?
「弱い弱い。一般的に見れば強いけどせいぜい四魔天王を一人倒せるか倒せないかくらいだよ?」
ちなみに、四魔天王というのは魔王に次ぐ実力の持ち主四人のことである。
勇者と賢者の二人はそれと戦っていない。
理由?私が秘密裏に弱体化をかけて戦えないようにしたから。
「それなのにどうして我を倒せたのだ?戦っていて自分の力が上手く出せないのは理解していたが、まさか負けることになるとは思ってなかったからな?」
「まぁ、バフデバフは私が担当してたよ?勇者には全ステータス1.5倍のバフを賢者には魔力と賢さを3倍にするものを。で、魔王の貴女には全ステータスを0.3倍になるものをね?」
いやぁ、ずっと継続するのは辛かったんだよ?
ちなみにやろうと思えばこれよりももっと効果の高いのを出せるけどやる気はない。
だって、効果高くすればするほど疲労とかが凄いから。
「い、全ステータス1.5!?魔力賢さ3?!」
「な、なに、いきなり叫んで?」
発狂するようにそんな声を上げるから、どうしたものかと。
えっ?驚くところなんかあったかな?
たった1.5倍と3倍だよ?
「えっ?リーリア、貴女どんなに非常識なバフをかけてんの?」
……非常識?それはあれですか?普通なバフすぎて?
そんなに凄いことしてるとは思わないけど……
「理解してないみたいね」
とっても疲れたように、呆れたように私に説明を開始した。
「本来、バフは全部に均等にかけるバフで1.2倍、一つや二つといった重点的なバフは2倍が限界なのだ」
えっ?ひっく。
「えぇ?」
「私だって頑張っても1.1倍を少しだけが限界なのに、リーリア、貴女は………」
は、ははは。
た、確かにそれを言われると自分が、非常識かもしれない。
それにこれが限界じゃないだなんて言えない。
「でも、これでもう魔王、貴方は倒されないよね?」
「あぁ、そうだな。我はもう倒せんだろうな、勇者ではな」
いくら強くてもねぇ。
私は自分で思ってたよりも凄いらしい。
「デバフに関してはあまり知らないが、恐らく凄いだろうな。だが、それなのに勇者と賢者とやらはそうとう馬鹿なみたいだな」
あっ、同情してくれる?理解してくれる?
「そうなんだよねぇ、あいつら本当に馬鹿で、しかもなまじ力を持ってるから厄介なんだよねぇ」
「わかる、わかるぞ。中途半端な無能が一番面倒なことは」
どうやら、魔王にもあるらしい。
そういう部下か誰かが。
やっぱり仲良くなれそうだ。
そして私は愚痴を続ける。
「しかもあいつらプライドとか高くて、面倒だし、自分より下を見つけたらすぐに威張り散らして」
「けど、勝てない相手にはペコペコと、外面は良いから何も言いにくいし、別に弱いわけじゃないと」
「そうそう、あいつらは私の力理解しないで自分の力と思ってさ――――」
「あいつは私の名前を使って色々としているようでな――」
私たちは面倒なやつの話でしばらく盛り上がったとさ。