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村人、聖女の寝る間に



治った。

村の全員が治った?

本当に、本当に?


それは、確認した本人すら理解できない。


しかもそれを成した本人は今目の前で寝てしまった。

現状を見るしかない。

現実を信じるしかない。


「やっ、た」


誰かが声を漏らした。


「うっ、助かっ、た」


誰かが涙を流した。


「アナタ!」


誰かが家族でハグをした。


そうやって徐々に実感と現実を受け入れていく。


「おい、ファラン」


その名は、門番をしていて、数少ない被害を免れた人の名。

そして今話しかけたのは、村長であるイーバルという老婆である。


「はい、村長」

「……ありがとうね」


なぜ?ファランに。そのお礼に対しての疑問を感じた。

自分は何も、本当に何一つすることができなかった。

それなのに


「なぜって、顔してるね?」


ギクッ。勘が鋭いな。

というか顔に出てたか?


「お前は、昔から素直なやつだったからね」

「昔って、まだ五年程度ですよ?」

「十分に昔さね」


子供に見ているのがよくわかった。

それもそのはずというか、イーバルは御年500歳。対してファランは18歳。

そりゃ子供に見えるだろう。


「それはいいとして、あんなのどこで拾ってきたんだい?」


そう言って指を指した方向にはぐっすり眠る彼女。


「いや、拾ってきたわけじゃないですよ」

「……まぁ、冗談は置いといて」


その間はなんだ?そして冗談の声のトーンじゃねぇぞ?


「何を対価にした?」

「やっぱり、それだよなぁ」


覚悟とか色々としていた。

あれだけのことをしてくれたのだ。

あちら側も何かしらの見返りを求めているはずだ。

最初はそう思ったりしたが、


「あの人、多分何にも求めていない気がする」


そう思えるようになった。

理由は、あの広域回復の魔法を何かしらの条件や何やら何一つ話すことなく実行に移した。それも自分が倒れるくらいの強力な魔法を。


「はぁ?そんなわけあるかい!って、言いたいけど多分ありゃ本心から何も求めちゃいないね」


意外なことにイーバル本人が賛同してくれた。

てっきり最初のところだけで終わるかと思ってた。


「あたしゃ、あの魔法を昔々に見たことがあるよ」


昔々?村長、あんたがそうやって言うときは本当に少なくとも三桁前の年の話をするときだ。


「どこで?誰が?」


その疑問の言葉は意識してでたものじゃなかった。ただ無意識のうちに答えが知りたくなった。

慌てて口を塞ぐ。


「別にいいさ。あの魔法は、聖女のみが使うことのできるとされる再生魔法さ」


それを聞いていた人々は次第にざわめいた。


「せい、じょ?」


聖女ってのは確か、勇者と共に魔王を打倒した者の……


「それにあたしゃあの子を知っている」


知っている?


「先日、魔王様がこちらにこられたときに一緒にいた子があの子だ」


なんだって?!魔王様と一緒に……あのときの!


再び辺りは騒がしくなる。


「静かに!」


しかしそのざわめきも騒がしさも全て、イーバルが一喝した。


「何らかの理由があって勇者を裏切ったか、それとも……まぁ、それは置いといて」


いや、待ってくれ!そこで止めないでくれ!

なんか気になるだろう?


しかしそれは言葉にならない。無言の圧というやつだ。


「恐らく敵じゃないと思うし、彼女が本当に聖女ならば無償で受けるのもわからなくない」

「えっ?なぜですか?」

「聖女、というか聖職者は見返りを求めない救済を行うそうだよ」


そりゃ、慈悲深い働きだ。

それは彼女も例に漏れないわけだ。


「でもよ」


一人が言った。


「もしも何かしらの対価を求められたらどうするんだよ?いや、求められても払えるなら払うけどよ、こうして助かったわけだし」


悪意はないとは思っているが、それでも無償というのは疑わしいものだ。

それは他何人かも同じなようです頷き合っている。

だが、今言った通り払うつもりなのだ。助かったのは紛れもない事実なのだから。


「起きたら聞いてみるよ。それで何かしら求められたら可能な限りのことをできるようにしよう」

「わかったよ。恩人だからな」


ここには相手の種族が違うから、聖女だからといって恩人を無下に扱うものはいない。

誰もがリーリアという人間の女を信じた。何人かは警戒を持ち信じすぎない人もいるにはいたが。


無論だが俺は信じている。

彼女は始めてあった人たちを何も言わずに助けようとした。それだけで十分信じられる。それに村長の見る目や知識は確かだ。


「さて、なら今は滞ってた仕事とか手早く片付けるよ!」


イーバルは村全体に響き渡る声で、仕事再開の知らせを届け、それを聞いた村は挟まっていたものが取れた歯車のように回りだすのだった。




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