聖女、感謝される
治った。
その一言は私の中の緊張という名の糸を切った。
「すぅ、はぁ」
一息ついて、
「お疲れっした」
パタリとその場に倒れた。
「えぇ!?ちょっお嬢さん!」
すぅ、すぅ。
「むにゃ」
寝返り。
「ぶにゃあ!?」
見守っていた人へと神速の裏拳が顔面へと炸裂する。
その人も同じように眠りにつく。
すぅ、すぅ。
「本当に何があったんだか」
「あの野郎、しねぇい!」
寝言。
ホーリーランス。
「うわぁ!あっぶねっ!」
「ちょこまかトォ、さっさぁとぉ吹っ飛べぇい!」
エア。
「えっ、ちょ、ぎゃぁぁぁ―――」
前の人の代わりを勤めていた人が光の矢を放たれ間一髪で回避したかと思えば突風によって、空高く、リーリアと同じように夢の空へと飛んでいった。
すぅ、スャァ。
「ねぇ、本当は起きてるでしょ?」
「うぅ~ん、まぁぉうさまぁ〜」
寝言その2。
抱きつく。
「うきゃ!?」
スリスリする。そしてくすぐる。
「きゃっ!あ、アハハハッ、くす、くすぐったいぃ!」
その更に代わりを努めていたその人は起きてるのかと疑った瞬間に抱きつかれて、高速スリスリをされながらくすぐられ疲労によって笑いながらその場に伏した。
こうして犠牲者が一人、また一人と増えていくのだった。
そしてその犠牲を生み出す本人は今も静かに寝息をたてて眠るのだった。
一応補足しよう。リーリアはしっかりと寝ている。けして本心からふざけているわけではないのだ。
む、むぅ。
あ、あれ?いつの間に寝てたの?私。
「おはよう」
ボンバってる頭に気づかずとりあえず辺りをキョロキョロと見回す。
「どこぉ」
意識は朧気ながらもここが知らないところだということは理解できる。
「あ、起きましたか?ホントのホントに起きましたか?」
不意に知らない女性の声が聞こえた。
そちらに振り向くとホントに知らない女性が私から妙に距離を取りながら訪ねる。
というか、なに?これのどこが起きてないと言うの?
「とりあえず、私は起きてるよ。えっと……はじめましてリーリアと申します」
何を言えばいいかわからず、そういうときはとりあえず名乗っとけば相手がなんか言ってくれる、という師の教えを思い出し自分の名前を告げる。
「あっ、ご丁寧にどうも?私はユキミと言います。とりあえず下にどうぞ。今多分混乱されてますよね」
あっ、師よ。本当にそうなりましたね。
というよりそういうのは早く、最初に言ってほしかった。
「はい、起きたばかりで何がなんだか」
ホントに起きたばかりなので詳しい説明プリーズ。
私の最後の記憶が、確か………あっ、そうそう再生魔法で村の人たちを治して、それで気が抜けて、寝たのか。
リーリアは思い出したかのように彼女の肩を掴んだ。
「ねぇ、あのあと、どうなった!?再発してない?!治せなかった人いない?!?」
ぐわんぐわんと肩を揺さぶられ目を回しかけながらも答えを言う。
「だ、大丈夫で、ふっ……か、噛んにゃ。じゃなくてとりあえず落ち着、いてくだ、にゃいっ。うぅ、また噛んだ」
それを聞いてリーリアは落ち着き、肩を掴むのを止めた。
「よ、良かった〜」
良かったよ。ホントに。あのとき気が抜けて忘れてたけどもしかしたら溢れてた人がいたかもしれないのに寝るなんて……失敗だわ。
それは良いから目の前のユキミを助けてやれ、なんて気づくことはなかった。舌を連続で噛んでそこそこ痛かったそうだ。
後にそれを聞いたリーリアは深い、それは深い謝罪をし、反省の気持ちを5枚に書き記したりなんなりしたそうら。失礼噛みました。
「お、嬢ちゃん」
「あっ、門番さん!」
下、どうやらここは二階建ての一軒家みたいだ、に降りるとそこには、門番さんが座っていた。
「とりあえず、座ってくれ」
言われたとおり座る。
門番さんの隣にユキミさんが座る。
「嬢ちゃん………ありがとう」
そして座るなり私に頭を下げて感謝の言葉を述べた。
えっと、いまいち状況は掴めないけど、多分村を助けたことに対してお礼を述べているだろう。
なら、しっかりと受け取らないと。
「どういたしまして。誰も死んでないんですよね?」
「あぁ、嬢ちゃんのおかげでな」
「なら、よし」
これで誰か一人でも亡くなっていれば私は素直に喜べなかっただろう。
けれどそれがないのなら問題はない。
「さて、嬢ちゃん」
なに?改まってどうしたの?
「いくらになる?」
ん?いくら?イクラ?いやそんなわけないよね。
もしかしてお金を取る気とか思われてないよね?
「えっとね?私お金はいらないよ?」
「じ、じゃあ何がほしいんだ?」
あ、あれぇ、お金以外のものを要求してるなんて思われてる?
ま、まぁ無理もないかな。あれだけのことを無償でやる人はいない。私以外は。……いや、教会の人たちなら一応無償でやってるのか。
「大丈夫だよ、私は気まぐれで助けた、それだけだよ」
嘘だけど、実際そんな感じだしいいでしょ。
それを聞いた二人は少しの間黙り込みそして、笑った。
「くくっ、まさか本当にいらないとわ」
「これじゃあ無駄に警戒してた人たちが馬鹿みたいね」
ん?本当に?警戒?馬鹿?
どういうことっすか?
「あぁ、すまない」
私の困り顔を見かねて説明をしてくれた。
私が寝たあとの話だ。
中途半端になってごめんなさい。切りどころがここしかなかったんです。




