暗転
「ほんとあんたのお母さんの薬は安いのによく効くね。これおまけだよ。お母さんによろしくいっとくれ」
ジャガイモを買いに来たらにんじんがおまけでついてきた。
私はお礼を言ってから家に帰る。
私と師匠は家族ということになっている。
実は師匠のお店は一年前に開店したばかりで、私を連れてこの街に来たとき、町の人はお店の準備が終わったので師匠は娘を迎えにいっていたのだと思ったようだ。
家族だと思われていた方が都合が良いから、と師匠に誤解はそのままにしておくように言われた。
そう言われたから家族のふりをする。
「師匠、テラおばさんに人参おまけしてもらえた」
「お、そうかい」
そう言われたから家族のふりをするんだ。
「それでね、お母さんによろしくって言ってたよ」
「・・・」
師匠はうつむいてこちらを見てはくれない。
こっちを見てほしい。
いつものようにけだるげな態度で何か言ってほしい。
本当の家族・・・
「私は奥で調合してるから、店番は頼んだよ」
そう言って師匠はこちらを見ることなく店の奥へと消えた。
師匠はたまに馬に乗って出かけ、数日帰ってこない日がある。
聞いてはいけないような雰囲気だから、何処に行くのかは聞けていない。
そんな日は当然食事は自分で作る。
いつもは師匠が食事を作るから、練習するときがないのでちょうどよい。
師匠と一緒に料理をするときは、食材を切ったり用意する以外、特に味付けに関しては手伝わせてくれない。
まあ塩や味付けの薬草に分量に関して、今日はこのぐらいの量で良いような気がした、とか言って毎回違う種類と分量を鍋に投入するから私には手が出せない。
そんな大雑把な感じでも師匠の料理はおいしい。
まあ師匠のような事は出来ないけれど、地道に料理を練習して何時かはまあまあだな、と褒めて貰うんだ。
食事が終われば、まずは朝市に買い出しに行く。
今日はテラおばさんやケリムおじさんは出店していないようだ。
いつも同じ場所でお店を広げている人もいるが、二人のように近くの村から朝市にやってくる人たちは出店する日がとくに決まっていない。
売る物があるときに来て、場所代を役人に払ってお店を出しているのだ。
「間違いない!」
私の前に突然同い年くらいの男の人が現れて私を睨んだ。
知らない人だ。
「間違いないんだな」
今度は後ろから腕を掴まれた。
怖い!
私は手を掴んでいる人に向かって魔力を放った。
パン!と大きな音がしただけで、私を掴んでいる手は緩まなかった。
「小娘が!」
視界が回って地面が近づいてくる。