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師匠と不思議な人

この人と旅をしていくつもの街を越えた。

そしてこの人の家があるというこの街にやってきた。

あの森には特殊な薬草を採取しに来ていたそうだ。

この人はあまり怖くない。

叩かないし気持ち悪いこともしない。

最初は聖女だと言っていた。

だけど本業は薬師だと旅の途中で聞かされた。

そして私に薬師の素質があるから弟子にならないかと言われた。

弟子というのは仕事を教えて貰う代わりに相手を師匠と呼び、身の回りの世話をする人のことだそうだ。

よく解らない。

弟子は痛くないかと聞いた。

痛くないと言われた。

私はこの人の弟子になった。




一年が経った。

最初はなにも出来なかったけれど、今では料理以外は何でも出来るようになった。

一応料理も普通に食べることが出来るくらいの物なら作れるが、師匠は同じ食材と道具で更にとてもおいしい物を作る。

私も師匠と同じ薬師として有利な緑の魔力を持っているので、もっと魔力の扱いが上手くなったら教えてくれるそうだ。

だけど今は私程度が料理出来ると主張するのはおこがましいので、師匠のお店に来た人に聞かれたら私は料理は出来ないと答えている。

そのほかにも師匠がなにを好きかとか、たまに私に対しても同じようなこと聞いてくる人がいるのだけど、なぜ聞いてくるのか理由はよく解らない。

対応に困っているときは、師匠が奥から出てきて私にウインクする。

これは任せろの合図だ。

師匠は物知りで、料理が上手くて、頼りがいがあって安心する。

すごい人だ。

だけど出来ないことも多い。

「師匠、またこんなに散らかして。昨日整頓したのに」

「弟子よ、これは散らかしているのではない。わからないかもしれないがこれはこれで整頓できているんだ」

師匠は整頓できない。

いや、乳鉢やすりこぎ、料理の道具なんかはきちんと元の場所に戻すから、ただ面倒くさがっているだけかもしれない。

しかしたまに採取した希少な薬草も行方不明になることがあるのでどうなのだろうか。


「師匠、洗濯する物があるならたらいに入れておいてくださいって言ったのに」

「大丈夫、まだ着られる」

家の中での師匠は身だしなみに気を使わない。

家から一歩でも外に出ることがあればそれなりの格好をするが、家の中だと薬草の調合でまたすぐに汚れるから、と言って同じ服を何日も着たままでいようとする。


「弟子ちゃん~」

甘ったるい声でコップを振る。

これはお酒のおかわりがほしいの合図だ。

私はコップに水を注いだ。

「うわっ!これ水じゃん」

「今日の分のお酒は終わりです。もう寝る時間ですよ」

「もう一杯だけ、ね」

そして意外とだらしない。




師匠のお使いの帰り、私と顔がそっくりな人に出会った。

「あなた、ヒロインと対決するライバル令嬢よね。なんでこんなとこにいるの?さてはあなたも転生者ね。まさかフラグ回避で平民になるってやつ。うわっバカじゃない。まって、つまり、そうよ、そうね、私にワンチャンあるって事よ。顔を見たとき自分がライバル令嬢に転生したって思ったのに、顔が似てるだけの全くの別人でがっかりしたけれど。いける!私に春が来たわ」

まるで師匠が薬草の説明をするときのように、意味不明な単語が多くて言葉の意味がまるでわからない。

そしてうんうん頷いて去って行った。

街にはなれてきたと思ったけれど、わからないことがまだまだいっぱいあるみたいだ。

お店に帰ると教会のおじいさんが来ていた。

この人はたまに甘い飴をくれる。

健康と魔力に良いらしい。

それと「あなたに救済の神シュバルトのご加護がありますように」と言って優しく頭を撫でてくれるので大好きだ。

言葉の意味はよく解っていないけど、師匠が良いことがあるようにと言う意味だと教えてくれた。

実はこのおじいさん、教会ではとても偉い人らしい。

「師匠とどっちが偉いのですか?」と聞いたら師匠が同じくらいだと言い、おじいさんは頷いていた。

このだらしない師匠と同じくらいなら、とくに気にすることではないかもしれない。

いつものようにおじいさんに頭を撫でて貰っていると、街の門番の人がお店にやってきた。

「ああ、本当にあの子は先生のお弟子さんじゃなかったんだな。よかった」

何でも私そっくりな子が旅商人の荷馬車に乗っているのを見かけ、声をかけたら人違いだと言われたらしい。

すっかり忘れていたけどさっきあった人のことだろう。

わざわざ確認に来てくれるなんてこの人もとてもいい人だ。

ここは物語に書いてあった楽園かもしれない。

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