間違ってる
「けっ、傷物じゃあ値切られるかもしれないだろ」
「すいやせんお頭、ですがなにも知らなきゃ売ったあとでお貴族様のナニを噛んだり暴れたり、色々しでかすかもしれませんぜ。そんな心配をしなくて良いように、俺たちで一通りの技をちゃんと教え込んでおきました」
「ものは言いようだな」
ひげの生えた男が私の側までやってきてしゃがんだ。
「たしかにあの方が希望した髪と目の色だな、容姿もそこそこ、これなら問題ないな。おいおまえ、おまえは今日から犯罪奴隷だ。おとなしくしてりゃ命までは取らねえが、騒いだら・・・わかるな」
「わたくしは悪いことはしていません。犯罪知りません」
「おっ、まだ反抗する元気が残ってやがったか。おまえが犯罪を犯したかなんてどうでも良いんだよ。俺が犯罪者だと言えばおまえは犯罪者なんだ」
「そんなのおかしいです。悪いことをしたら衛士様に捕まるんです。この縄をほどいてください」
ギャッハッハッ!
男たちの笑い声が室内に響いた。
「残念だったな。三日前から俺が衛士隊長で、こいつらがおまえの言う衛士様だよ」
こんなのおかしい。
衛士は悪い人を捕まえて罰を与える人たちのはずだ。
教えて貰ったことと違う。
「おまえは・・・そうだな、商家に忍び込んで金貨を盗んだ罪だ。おい、準備は出来たか?」
ひげの男が後ろを振り返る。
「出来てますぜ」
そしてその声に応えた男が真っ赤な何かを持って近づいてくる。
「よし、焼き印は俺が押す。おまえたちはこいつを押さえてろ」
「「へい」」
男たちの手がこちらに伸びてくる。
嫌だ、また痛くて気持ち悪いことされる。
逃げようと思ったけど手足が縛られているので思うように動けず、すぐに男たちに捕まってしまった。
そして真っ赤なそれが・・・
「ぎっあーーーーーーーー!!!」
天井付近にある小さな窓から光が差し込む。
このなにもない部屋は寒い。
あの日「おまえの値段は金貨六十枚だ」とひげの男が言った。
そしてこの太った男が私を買ったのだと・・・
食べ物を口にしていない。
力が出ない。
体の中の魔力も感じられない。
私は犯罪者で奴隷らしい。
奴隷とは悪いことをした人が許されるまで働き続ける仕事のことだ。
そういえば昔会ったあの子たちも私の生活を奴隷みたいだと言っていた。
痛いのは怖い。
服を脱がされるのは気持ち悪い。
「おい、飯だ」
柵の外に太った男と背の高い男がいて、背の高い男がパンを持った手をこちらに伸ばす。
私が柵の隙間から手を伸ばすと、男はパンを持った手を引っ込めた。
「おい、なにもしないで貰えるはずがないだろう。こちらにおられるゴッテカル様に感謝の言葉を述べるんだ。そうしたらこれを恵んでやる」
「感謝?」
感謝ってなんだろう。
太った男が一歩こちらに近づく。
「しょせんは下賤な者か。まあよい」
男の足先が柵のこちら側に入ってきた。
「わしの靴をなめろ、そうすれば水と食べ物を恵んでやろう」
あれからどれだけの日が過ぎたのだろう。
何度も何度も太陽が昇り、暗くなる。
ある日太った男が今日は森で狩りをすると言った。
森のあちこちから太鼓の音が迫ってくる。
怖い。
姿なき音に追い立てられ・・・その先で待ち構えていた太った男に捕まった。
痛い。
視界に映るのは青い空と太った男
気持ち悪い。
横を向けば木々に花が咲いていた。
ここは部屋や屋敷の庭とは違い、壁や高い塀がないので遠くまで見える。
今日は遠くから見ている使用人の視線がないので、太った男を視界に入れなければとてもきれいな景色だ。
この男さえいなければ・・・
・・・
今この男は一人!
そのことに気付いた私は男にありったけの魔力を叩きつけた。