腑抜け(カルテ伯爵「主人公の父」視点)
私には妻と娘がいた。
いや、妻は原因不明の病で亡くなったが娘は生きている。
しばらく私は妻との思い出が残る城にいることが辛く、用事を作って不在にした。
そしていつの間にか娘は五歳になっており、その間は妻の侍女であったマリルレーゼが面倒を見てくれていた。
遠くから見た姿は妻の面影が感じられる。
私はマリルレーゼを娘の教師になるように命じた。
マリルレーゼは妻の侍女として行儀作法に通じており、また親が男爵家の出身なので魔法も教えることが出来る。
それに彼女は今まで娘の面倒を見てきたから、きっと良好な関係を築いているはずだ。
私は娘にどう接したらよいのかわからず、色々心の中で言い訳をしながら彼女にすべてを任せた。
そして定期的に娘の部屋を訪れ、マリルレーゼから近況の報告を受け七年の歳月が流れた。
この間、城でなにも問題は起こっていない・・・はずだった。
最初の異変は妻の形見のアクセサリーが無くなっていたことだ。
いろいろ調べさせた結果、その一つを街の宝石商が保有していることがわかった。
宝石商は旅の商人から買ったと証言している。
見つかったのはネックレスに使われていた小さな宝石だったが、珍しい色の宝石だったため判別することが出来た。
私は金を払って宝石を回収し、また同じように宝石を売りに来た者がいたら城に連絡をよこすように言った。
盗まれた物なので金を払う必要などないが、それでは今後情報が入ってこなくなる。
その後執事長からもたらされた情報を私は信じたくはなかった。
「この盗難に娘が関係しているというのか!」
「いえ伯爵様、そうではございません。私の集めた情報とマリルレーゼの証言から何かご存じであるかもしれないと・・・」
「マリルレーゼ、そなたの証言は誠か?」
「盗難については全くわかりません。ですが以前お嬢様が城の中で街の子供と合っていたのは事実です。それとこれはもう少し様子を見てからと考えておりましたが、お嬢様は伯爵様がお部屋にいらっしゃるときは静かに勉強なさっておられますが、最近はわたくしの指導もお聞き入れくださらない事がございます」
「そう、か」
マリルレーゼが最近わがままになったと感じているのであれば、娘に何かしらの変化があったことは事実だろう。
それに城の中で子供と会っていた。
具体的な名が出ないのだから使用人の子ではない。
街の者の侵入を許すとは衛兵は何をしていたのだ。
娘が変わったというのであれば、その子供らが関係しているかもしれんな。
「商人からの報告ではごろつきどもが分不相応な宝石を売りに来たらしく。問い詰めたところ靴磨きの少年たちから奪った物である事と、少年たちが金持ちのお嬢様から貰ったと言っていた事を聞き出したそうです」
「で、その者たちは?」
「申し訳ございません、逃げられてしまったそうです。現在靴磨きの少年らも合わせて捜索中です」
どうしたものかな。
「伯爵様、私どもにお嬢様のわがままを矯正し、またこの件への疑いを解消する案がございます」
執事長の言葉にマリルレーゼもうなずいた。
「その案とやらを聞こうか」