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帰る場所

なにがどうなっているのかわからないけど、私はお母さんの膝の上に座っている。

目の前には金髪の女性がソファーに座っていてその隣に金髪の青年、更にその隣に髪のない男、私の横に知らないお爺さんがいて、その向こうに教会のおじいさんがいる。

「学園に入学する際に確認したカルテ伯爵令嬢の魔力は光、その者が緑の魔力だというなら魔力判定をしてみようか」

「なぜ・・・四年前、聖女がポーリット子爵領に引っ越してきたときからこの子とは面識がある。王太子殿下は司教である私の証言を疑われるのですかな?」

「ゲントバル司教、私にそのようなつもりはない。ただ他者が納得しやすい証拠を得たいと考えているだけだ」

金髪の青年の問いに教会のおじいさんが答える。

教会のおじいさんの表情が頭を撫でてくれるときと違って少し険しい。

お母さんが「ちゃっちゃとやって帰ろうか」と極端な値切り交渉をしてくる商人を相手にしているときの顔で、けだるそうに言った。

しばらくして丸くて透明な物が運ばれてきて、テーブルに置かれる。

「エイリーン、あれを握ったら帰れるから」

丸くて透明な物が何かはよく解らないけど、あれを握るだけで帰れるならそれでいい。

私が頷くと師匠が私の脇に手を入れてソファーから立たせてくれた。

周囲の視線が少し怖い。

私はテーブルの中央に置かれたそれをぎゅっと握った。

指の隙間から緑色の光がこぼれる。

きれい・・・

「馬鹿な!!」

あっ・・・

大きな声に驚いて丸くて透明な物を落としてしまった。

「も、申し訳ございませんご主人様」

土下座しようとした私を後ろから柔らかい物が包み込んだ。

「カルテ伯爵、娘がおびえるから突然大きな声を出さないでいただきたい」

私はお母さんに抱えられて膝の上に戻ってきていた。

丸くて透明な物は知らないお爺さんが拾ってテーブルに戻してくれた。

良かった、壊れてないみたい。

「これでこの子がカルテ伯爵家のお嬢様ではない事を納得していただけましたかな」




お母さんと手をつないで豪華な通路を歩く。

部屋を出ようとしたとき金髪の青年や髪のない男が何か言っていたが、今前を歩いている知らないお爺さんが何か言ったら静かになった。

キラキラした通路を抜けると質素な馬車が二台と馬に乗った灰色の服を着た人たちがいた。

教会のおじいさんと似たような服だから、きっと教会の人だろう。

それと今気がついたけど前を歩く知らないお爺さんも似たような服だ。

知らないお爺さんと教会のおじいさんは先頭の馬車に乗り、私はお母さんに手を引かれて後ろの馬車に乗り込んだ。

ガラガラと音を立て馬車が走り出す。

「怪我はないか?」

表情がいつものようなけだるげな感じとは違う。

心配されていると言うことが嬉しい。

でも心配をかけたいわけではないので「縛られてた手と足が少し痛いけど、このくらい慣れてるから大丈夫だよ」と言って、できる限りの笑顔を作った。

「それは大丈夫とは言わないんだよ」

お母さんが腰の小袋から何かの薬を取り出した。

「これからは我慢せずに少しでもいたいならいたいと言いなさい・・・エイリーンは私の家族なんだから」

お母さんが私の袖やスカートをまくって、うっすらと赤くなっているところに薬を塗ってくれた。

お母さんはやや下を向いているので私からは表情はわからない。

でもうっすら赤くなっているように見える。

「うん、お母さん」



これからはお母さんがいるから何があってもきっと大丈夫だ。



馬車がゴトッと言う音を立てて揺れた。

「グギャ!」

座っている私は大丈夫だったけど、足に薬を塗ってくれていたお母さんは盛大に転んで座席の角に額をぶつけた。

・・・

額は切れていないけど赤くなっている。

お母さんは涙目で自分にも薬を塗り始めた。

その表情がおかしくて、私は涙を流しながら笑った。

お母さんも笑っている。

そして心にのしかかっていた何かが完全に消えていくのを感じた。

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